3-9
「はぁ、なんだったのかな。ユンリ大丈夫かな」
「分かりません、急にどうしたのでしょう」
2人はユンリから離れて来た道を戻り、少し光が漏れている部屋を見つけてソッと中を覗いた。
そこは寝泊まり用の客室ではなく、木の机と椅子、その机に散らばる沢山の紙が乱雑に置かれていた普通の部屋。
床にも落ちているようで、慌てて部屋を出た後のようである。
ひとまずその部屋にするりと入った2人は息を整えながら廊下を盗み見る。
遠くで司祭とユンリが何か話しているようだが、残念ながら声は届かなかった。
「教会に来てからユンリ無口だったけど、なんかあるのかな」
「なにかとは?」
「いや、それはわからないけどさ。」
憶測で話すアンジェリーナは、まだ廊下を見ているが、ラヴィニアは机にある紙が気になり、勝手に見てごめんなさい……と呟いてから1枚手に取った。
そこにはホワイトライティアが描かれ、細かく何かが書き込まれている。
あまりにも精密に描かれたホワイトライティアに、ラヴィニアはまぁ、と声を小さく上げたのだが、その描かれた文字を読み目を丸くさせた。
「……これは」
それからラヴィニアは他の紙を数枚掴み見てみるが、見れば見るほど顔色を変えていく。
アンジェリーナが廊下を警戒しているのをいい事に、ラヴィニアは紙数枚を折って着替えの袋に押し込んだ。
さらに、奥に小さな扉を見つけて音を立てないように開けると、そこには有り得ない風景がありラヴィニアは目を見開いた。
「ア……アンジェリーナ……」
「なに?」
「こちらに来てください!早く!」
「どうしたの?……な……えぇ?」
中を見て!と指を指すラヴィニアの隣からヒョイと中を見たアンジェリーナは声を上げそうになりながらも何とか手で口を覆いくぐもった声が漏れた。
「どうしてホワイトライティアが咲いてるの?」
呆然と部屋を見るアンジェリーナが呟くように、部屋の右半分が見事にホワイトライティアで埋めつくされていた。
年に一度の花冠の日しか咲かない幻の花が、教会の一室に咲き乱れている。
ふくよかな花の香が部屋に広がり、左半分には机と縦長のロッカーが3つ並んでいる。
机には乾燥しているホワイトライティアがかなりの量無造作に置かれていて、ラヴィニアはそっと手を伸ばす。
全体的にカサカサとしていて、しっかり乾燥されたホワイトライティアは、純白だったはずなのに少しピンクがかっている。指先でそっとなぞると思ったよりも滑らかな触り心地に目を丸くした。
「え?それもホワイトライティア?」
「えぇ、乾燥しているようですわね……どうやって乾燥出来たのかしら」
もう3本手に取ると、廊下から足音が響いてきた。
スリッパの様な薄い靴底ではなく、硬質なカツンとなる様な男性的な重さを感じる足音にラヴィニアとアンジェリーナは顔を見合せた。
近づく足音に、ラヴィニアはアンジェリーナの腕を引きすぐ隣のロッカーを音もなく開け押し込むと、自分も無理やり入って扉を閉めた。
「ラヴィニア!?」
「シッ!静かになさって」
口に人差し指を当ててアンジェリーナを諌めたラヴィニアは、2人で身を寄せ合いながら響く足音に心臓を高鳴らせていた。
それは決して心地いい高鳴りなどではなく、不安で落ち着かない心理が働いている。
「……あぁ、やはり閉めていなかったか。これはサーシャ殿下には……いや、部外者には決して気付かれてはいけないものだからな。いやぁ、焦った焦った。司祭にどやされる所だったわ」
奥の小部屋の扉が少し開いているのに気付いたその男性は、ズンズンと近付きホワイトライティアの咲き誇る室内をグルっと見た後扉をパタリと閉じた。
硬質な足音はまだ響いているが、特に何かを調べたりはせずに、乱雑に置かれた紙の束をかき集め紙袋にばさりと入れて持ち去っていった。
しっかりと施錠する音が響きラヴィニア達の耳にも聞こえている。
「…………はぁ」
「……部外者には知られてはいけない事……」
「このホワイトライティアの事かな?確かに1年に1回しか咲かないのに、どうしてここで咲いてるのかな。今日がここら辺の花冠の日……?いや、まさかねぇ」
暫く息を潜めていた2人は、戻ってこないのを確認してからロッカーから出てきた。
狭い上に2人でぎゅうぎゅうだったのでゼィゼィと息を上げてしまったが、奇跡的にロッカーに何も入っていなかったで難を逃れた。
「それは違うわ、花冠の日ならこの地域一帯にホワイトライティアが咲くはずですし、何よりここは建物の中ですわよ?人工的にホワイトライティアは育てられませんもの。」
「聖女様の聖地巡礼もないしね、そりゃそうかぁ」
ホワイトライティアは自然に場所を問わず咲き始める自然現象の1つと捉えられており、人の手で育てる事は不可能と言われていた。
育てる為にホワイトライティアをつんでもすぐに枯れてしまい株分けが出来ないのだ。




