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3-8


 不機嫌なラヴィニアにおや?と眉を上げたサーシャは、数秒ラヴィニアを観察した後マリアを見ると、ポッと顔を赤らめたマリアは花が咲いたように、はにかんで笑った。


「今回のルグニカからの招待状が教会にも来ていたようで、聖女からの祝福と祈りを捧げる為に聖女マリア様が向かう事になったようだ。で、俺達に同行させて欲しいと司祭より話があった。我々エスメリアとしてはこの話を承諾しようと思っている。そうなると女性である為、ラヴィニア嬢と一緒に行動することになる。」


 ジッとラヴィニアを見て話すサーシャに、マリア様がいらっしゃるのはこの為ですか……と、小さく息を吐き出した。

 すでに決定している事をラヴィニアは伝えられ、ここで嫌などと言ったところで覆ることは無いだろう。

 ラヴィニアは自分の爪先を見つめてから顔を上げてサーシャを見る。


「かしこまりましたわ、聖女様とご一緒いたします。」


 ラヴィニアの了承を聞いたマリアは両手を合わせて嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます、嬉しいです。ラヴィニア様、私の事は気楽にマリアって呼んでくださいね」


「いえ、敬称抜きでなど呼べませんわ。道中、どうぞよろしくお願い致しますマリア様」


「あら、すぐには難しいですよね。ではルグニカまでの間で仲良くしてくださいね」


 ふふっと柔らかく笑ったマリアに、ラヴィニアは貼り付けたような笑みを崩すことなく首を少しだけ傾げた。

 マリアは嬉しそうにサーシャに声をかけ、ラヴィニア様と仲良くなりますねと宣言し、ラティスは無表情でちらりとラヴィニアを見た。


「……お前、大丈夫か?」


「大丈夫ですわ、えぇ」


「あ、あぁ、ならいいんだ」


 ラヴィニアの張り付いた笑みはラティスには見慣れた笑みだ。

 長年共に居たラティスはこんな表情をするラヴィニアを良く舞踏会などで見ていた。

 更には自分自身にも向けられる事が度々あった円滑に

 だからこそ、あまりいい感情を持っていないことはすぐにわかり、そっとラヴィニアに声をかけたのだった。


 この笑みは王妃教育で出来た処世術である。

 どんな相手でも上手く対応し、円滑にする為に。

 しかしそれは、苦手な相手へ感情を上手く隠す仮面の役割も十分に担っている。


「同じ馬車での移動と、食事などご一緒でしょうか?他に何かございますか?」 


「あぁ……あとは、到着後の行動も一緒にいて欲しい。知っての通りルグニカの王宮は気をつけなければならない場所だから」


「……はい、わかりましたわ」


「サーシャ様は心配性ですよね、お話は聞きましたが、そんな危ない目には合わないと思うのですよね。招待された側ですし、私は教会の聖女ですからそのような事はありえません。そもそもそのような非道なことをするとは思えません。ですが、ラヴィニア様が不安になってしまっても困りますから、ここは私にお任せ下さいね!」


 安心してね、と笑って言ったマリアに危機感は一切無いようで、王の悪癖も初めて聞いたようだ。

 どうやら、そうは言っても実際にはそんな事ないんだろうと楽観視しているようだが、同じく話を聞いたラティスは顔を真っ青にして小さくアンジェリーナ……と名前を呟いていたようだ。

 婚約者では無い人の名前を無意識に出るラティスに聞いていたサーシャは冷たい一瞥をくれてやっていた。

 










「……まさかマリア様が一緒なんて、私嫌だなぁ」


「私も、あまり好ましくはないですね」


 これでもかというほど顔を顰めたアンジェリーナに、無表情で同意するユンリにラヴィニアは苦笑して両手に袋を持って歩いている。

 食事も終わり指定された場所にある浴室で入浴を終わらせたばかりだった。

 マリアと一緒に行動する事に憤りを覚え文句を口にするアンジェリーナにラヴィニアは小さくため息をつく。


「……しかたないわ、国とは別の勢力である教会ではあるけれど、どの国にも宗教は奥深くまで根を張っておりますから簡単に無視できることではありませんもの。特に聖女様方は教会のシンボル的存在ですからどの国も無下にはできませんわ。だからこそサーシャ殿下は教会の頼みをきいたのでしょうし。」


「……わかるんだけど、私聖女様ってちょっと苦手なのよね」


 口を尖らせて言うアンジェリーナにラヴィニアは振り返り眉を寄せて小声で諌めた。


「アンジェリーナ、いけませんよ。教会内で聖女様を悪く言ったら信者が黙ってはいません」


「教会内じゃ無かったら言っていいみたいよ、アンジェリーナ」


 揚げ足を取るユンリに、ラヴィニアはまぁ!と小さく声を上げた。


「でも、冗談抜きに聖女様って苦手。マリア様がじゃなくて聖女様が苦手。なんていうか……全員別の人なのに同じ雰囲気というか。まぁ、そんなに聖女様と関わることも無かったから漠然とそう思うだけなんだけどね」


「それは仕方ない、幼少期から聖女となる様に育成されるから。個々の差はあるけれど聖女はみんな同じ様に育つ。」


 ラヴィニアやアンジェリーナを見ることなく淡々と言うユンリに2人は目を見張った。

 ピタリと足を止めてユンリを見ると、ユンリも立ち止まり2人を振り返って見た。


「……ユンリ、それは本当ですの?」


「そんなの聞いた事ない……」


 驚きながらも声を抑えて言う2人にユンリはフッと笑った。


「本当。聖女の素質がある子供が現れたら、その両親に多額の金と引き換えに子供を教会が連れて行く。」


「どうして知っているの?」


「それは……」


 返事を返そうとした時、パタパタと足音が響いた。音的にスリッパの様な薄い靴底で教会関係者であろう。

 ユンリは振り返り、足音が聞こえる方を見ながら静かに話し出した。


「あとで話するから、今は内緒。2人は早く行って」


 何かに警戒している様なユンリの様子に2人は顔を見合せた後、アンジェリーナはラヴィニアの手を取り逆方向へと歩き出した。

 なるべく静かに、足音を立てないように。


 ユンリが何に警戒しているかわからないが、とりあえず離れようとユンリを置いて2人は足早にその場を離れたのだった。










「…………久しぶりですな、ユンリエッタ。息災でなにより。まさかエスメリアに居るとは思いもしなかったですよ」


「……お久しぶりですリンリー司祭」

 

 変わらない朗らかな笑みで挨拶を交わしてきたのは、既に就寝準備を終えたのかシャツに柔らかい生地の緩やかなズボンを履いた司祭だった。

 まだ髪がしっとりと濡れているので入浴を終わらせた後なのかもしれないが、浴室では無い場所から来たようだ。


 ユンリエッタと呼ばれた侍女、ユンリは暗い眼差しでリンリー司祭へと挨拶を返した。



 

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