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あの後ラヴィニアは1冊の本を借りて部屋へと戻った後、すぐに食事の為に食堂へと向かった。
書物を眺めては借りる本を厳選していた為にある程度の時間が経ってしまい、アンジェリーナが呼びに来たのだ。
そこにサーシャも居ることで、目を見開いてはいたが、すぐにおすまししたアンジェリーナ。
慌てながらも優雅に部屋へと戻るラヴィニアの後ろをついて行った。
サーシャは先に食堂へ行くと別れ、ラヴィニアは身だしなみを整えてからアンジェリーナと共に食堂へと向かった。
「おふたりでなんのお話をされていたんですか?」
「どのような本があるか見ていただけで、特別話し込んではいませんわよ?」
「……へぇぇぇぇ」
「まぁ、何が言いたいのです?」
「なぁんでもありませんよぉぉ?」
ニヨニヨと笑うアンジェリーナにラヴィニアは眉を寄せながらも真っ直ぐ前を向いて歩き、食堂へと向かった。
この教会は3階建てになっていて、2階のラヴィニア達が泊まる客間から離れた蔵書室とは違う、緑を基調とした配色の観音開きの部屋が食堂となっている。
広い教会だけあり教会関係者の人数も中々に多く、また、ラヴィニア達のように立ち寄る方達も少なくない。
その為、食堂も自ずと広く設計されていて、長机が3箇所に設置されている。
その中の1つに、サーシャ達は既に着席していてラヴィニア達を待っていた。
真っ白なテーブルクロスが敷かれていて、綺麗なグラスに入っている食前酒が用意されている。
サーシャが所謂お誕生日席に座り、すぐ近くにマリア、マリアの正面にラティスが座っていた。
その隣の長机の椅子には、護衛騎士がずらりと並び座っていて、その隣にユンリが座っている。
護衛騎士のテーブルには、フロリアンやアビゲイルの姿もあり、他の騎士も同様だが腰には自身の愛剣や、手の届く所に槍が置いてあり、有事の際にはすぐに動ける体制を作っている。
同じく真っ白なテーブルクロスが敷かれているが食前酒は無く、グラスには水が入っている。
教会内でも彼らは護衛として主人であるサーシャを始めラヴィニアたちを守る立場の為に酒を窘めることは出来ないのだ。
「(何故マリア様がこちらにいらっしゃるのかしら)」
サーシャのすぐ近くに座るマリアはにこやかに笑いながらラヴィニアを見ている。
既に教会に送り届けた事になっているマリアは、ラヴィニア達と食卓を囲む必要は無いはずなのに、当然のようにマリアはそこにいた。
「ラヴィニア、座らないのか?」
「申し訳ありません、お待たせ致しました」
ラティスに促されたラヴィニアは、スカートの端を持ち、ふわりと広げて頭を下げ礼をし、遅れたことへの謝罪をした後、アンジェリーナに椅子を引かれて着席した。
その場所はラティスの隣である。
しっかりと座った様子を見てからアンジェリーナは隣の長机へと向かいユンリの隣に着席した。
ラヴィニアが椅子に座りサーシャを見ると、口端だけをクイッと持ち上げ笑ってから、食前酒の入ったグラスを持ち上げた。
「では、頂こうか」
合わせて全員がグラスを持ち上げ食前酒を口に含むと、観音開きの扉が開き教会関係者達がワゴンに乗せた食事を運んで来た。
コース料理とは違う、デザート以外が同時に配膳される。
ワンプレートの様に大きめのお皿に様々な食事が乗せられ、それ以外に小鉢に入った料理が3つそれぞれの前に置かれた。
贅沢な料理ではないが、それぞれ1品ずつ少量綺麗に盛り付けられている。
このような会食では、一番高貴な方が口を付けてから初めて食事が始まる。
皆、サーシャの初めの一口を確認してから己の皿に箸をのばした。
「……美味しいですわ」
鴨肉を柔らかく煮込んだ料理を口にしたラヴィニアは頬に手を当て微笑んだ。
柔らかくて甘辛くしっかりと味が付いている。
女性が1口で食べれる位に切り分けられ、タレで口周りを汚さない配慮もされていた。
そんな心遣いにラヴィニアは胸が暖かくなる。
いつの間にか教会関係者達は退出していて、緊張感の無くなった会食は穏やかに進む。
そんな中、サーシャに話しかけながら食事を進めるマリアに視線を向けた。
同じ食事をこの場所でとる何か理由があるのか、ラヴィニアは考察しようとしたが、小鉢に入っている野菜のゼリー寄せを口にした途端あまりの美味しさにマリアの存在が一瞬消え失せた。
「…………あっ」
「ん?どうかした?」
一瞬意識がゼリー寄せに飛んだラヴィニアは、思わず小さく声をあげ、隣にいたラティスに聞かれていた。
「い、いえ、なんでもありません。ラティス様ゼリー寄せがとても美味しいですわよ?」
「あ、そうなのか」
おもわず誤魔化すようにゼリー寄せを進めると、そんな事をラヴィニアに言われたのは初めてのラティスは驚きながらもゼリー寄せを手繰り寄せた。
よし、誤魔化せましたわ。と、胸をなで下ろしてると、そんな2人の様子を見ていたサーシャは片眉を上げた。
普段は絶対にありえない護衛騎士やメイド達とテーブルは違えど同じ部屋で一緒に食事をとったその経緯をラヴィニアは知らされてはいないのだが、サーシャやラヴィニア達よりも早く食べ終わった護衛騎士達が席を立たないその様子をラヴィニアは目の端で捉えていた。
心はソワソワとしているが、王妃教育の成果によって他者がいる手前では動揺は表に出ないラヴィニア。
おすましをしたまま残った食事を終わらせてナプキンで口元を軽く拭い、食事の際に配られた水を口に含む。
ラヴィニアが1番最後であった為に、その様子を頬杖付いて見ていたサーシャは、ゆっくりと近くに置いてあったベルを鳴らした。
その後数分で食事の片付けに現れた司祭と教会関係者達。
ゾロゾロと皿やグラスを下げて行く様子を横目に司祭は穏やかな微笑みをたたえていた。
「食事はいかがでしたか?」
「あぁ、美味かったよ」
「それは、ありがとうございます。料理人達も喜びますでしょう」
嬉しそうに笑って頷く司祭に、ラヴィニアもつられて笑ってしまう。
なぜか微笑みを誘う笑い方をする人のようだ。
「入浴は24時間入れるようになっております。
場所はここより右に、突き当たりを左に行って頂きますと浴室に付きます。立て札がありますので、ご確認の程お願いいたします」
ラヴィニア達が頷いたのを見たあと、司祭は退出しようとしたがマリアを見たあと立ち止まりサーシャへと向かい合った。
「サーシャ皇太子殿下、聖女マリア様の件いかがでしょうか」
「あぁ、それについてはラヴィニア嬢への確認が必要になる。多く行動を共にするのはラヴィニア嬢達になるだろうし」
「……なんのお話でしょう?」
それはここにマリアがいる理由の話なのだろう。
司祭は確認の様に聞いてはいるが、すでに確定しているかのような話の仕方にラヴィニアは自然とツンッと冷たい言い方をする。
サーシャがラヴィニアと行動を共にと言っていたし、何よりなんの相談もない状態で決まっている内容を事後報告されるようなものではないか。
ラヴィニアはむむ……と不快感を感じながらも表情には出さずにサーシャを見つめた。




