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あれから3日が経ち出発の日になった。
ラヴィニアには侍女としてアンジェリーナと他にサーシャが用意したユンリという銀髪の女性をつけた。
サラサラの銀髪を黒いリボンがついたバレッタでまとめている青のロングワンピースを着た無表情の女性。
綺麗な見た目のためお人形に見え、初めて会話をした時ラヴィニアは思わず「……しゃべりました……」と呟きサーシャを笑わせていた。
「……どうしたの?」
「……いえ、なんでもありません」
今は移動を開始して4時間が経過し昼食の為に進行を中断しているところだ。
アンジェリーナがチラッとラヴィニアを見て聞いたのだが緩く首を横に振るだけだった。
しかしその視線の先にはサーシャとラティス、そして聖女のマリアがいて、何か話をしている様子が伺える。
楽しそうに笑っているマリアはサーシャと目が合うと微笑みかけているのが見ていたラヴィニアにはよく分かった。
「聖女のマリア様かー。いい人だよね、無償で怪我治してくれたり、騎士に囲まれて窮屈な生活でもニコニコしてて」
「そう、ですね。いい人です」
「……ラヴィニア?どうしたの?元気ないね?」
「いえ、そんなことは……」
「アンジェリーナ、ラヴィニア様は嫉妬している」
「嫉妬!?」
「いえ!?まさか!?」
突然聞こえたユンリの声に振り返り声を上げた2人。
ラヴィニアは目を見開いて焦りながら、アンジェリーナはワクワクと目を輝かして。
「ああ、またマリア様が腕に触れた」
「……サーシャ殿下の腕だねぇぇぇ?あらあらあら?ラヴィニアァァ?なぁにその顔ー?珍しく眉なんか寄せちゃってぇ?」
アンジェリーナはその表情の変化に気付いてニヤニヤニヤニヤと笑いながらラヴィニアの腕をぺちぺちと叩く。
そんなアンジェリーナの手を軽く叩き返して唇を突き出す。
「そんなわけありません!それに、アンジェリーナはいいのですか!?サーシャ殿下の事お好きでしょ!?」
「……アンジェリーナが?サーシャ殿下を?それはないよね?」
「ないわよー、とっくに!あんだけラヴィニアに気を使って大事にしている様子見てたら……ねぇ」
「だ!大事…………」
「なーんか数日前から変よねラヴィニア?なんかあった?」
「なにも!!ありません!!」
「……あやしい」
3人集まって話をしているのをサーシャ達は見ていた。
女性が3人集まったら騒がしくなるのはわかっているが、珍しくラヴィニアが声を張り上げている事に驚いた。
ふわりと淑女の笑みを浮かべることが多いのに、今は取り繕うことなく楽しそうに話している。
「……ユンリに頼んで正解だったな」
歯に衣着せぬ物言いをするユンリだが、その言葉は不思議と人の心にするりと入っていく。
きっとラヴィニアとも相性が良いだろだろうと選んだのだ。
昨日初めてあったユンリとラヴィニアにアンジェリーナ。
しかし、昔からの知り合いのように気兼ねなく話す3人にサーシャは頷く。
ユンリは見た目が整いすぎていて同じ女性に嫉妬される事もあるが、何故か溶け込むのも早く懐に入りやすい。
いまもラヴィニア達の警戒など欠片もなく仲良く話をしている様子にサーシャは安堵した。
「ラヴィニア様、お可哀想ですよね」
「……なぜ?」
「だって、ご家族の殆どを失ってしまって。それでも笑顔を浮かばせるのは時期王妃としての意識からなのでしょうか」
頬に手をあて言うマリアにサーシャは気付かないくらいに眉を寄せた。
あまりにも無情で相手を心底憐れんでいるその表情は好きでは無いな、とサーシャは無言を貫きラヴィニアを黙って見つめた。
「……別に家族を失ったのはラヴィニアだけじゃない。むしろ家が残っているからまだマシな方ではないか」
光の無い瞳で小さく呟くラティスに、マリアは顔を向けて……確かにそうかもしれません。と返事を返した。
「あれは天災だった。これからファイライトの国民は復興に向けて動かなくてはいけない。悲しみに心が支配されているだろうし、復興地に戻ってその現状を見たら、また悲しみが深くなるだろ。でも、このまま立ち止まる事も……出来ないからな」
サーシャはマリアを見る。
「……だから、安易に可哀想とか憐れむな。どんな表情をしていようともその心の内にどんな感情を抱えているかはわからない。」
サーシャでさえも、まだあの災害が起きてから月日が浅い、心が癒えていないラヴィニアに今でも対応に迷う時は多々あるのだ。
サーシャの言葉を飲み込むように考え込まむマリアは小さく頷いて返事を返した。
出発して暫くが経った。
ラヴィニアは馬車に乗りその揺れる体を背もたれに預けながら流れる外の様子を眺めている。
少しづつ痛くなるお尻を浮かせたりしながら。
「……ここら辺は綺麗な小麦が植えられているのですね」
街から離れた場所に簡易結界が張られ、その広大な面積に広がる小麦が風に揺れている。
その周りには働く人達が籠を持ち移動していた。
そんな普段見ない様子にアンジェリーナは思わず声を上げ、ユンリが答えた。
「畑等は街から離れた場所、更に土の状態がいい場所を探し出して植えているんです。他にも野菜等も別の場所で植えられていますよ。」
「……そうなのですね」
知らなかったエスメリアの畑の様子にアンジェリーナは興味津々に見つめる。
「これなら復興の時に街以外で先に畑の開拓が出来るのではないですか!?」
ラヴィニアを見て言ったアンジェリーナに、ラヴィニアはニッコリと笑う。
「知識としては知っていましたが、実際に見たら壮観ですね。……でも、雪深いファイライトで小麦が育つかしら……」
真剣に悩み詳しく調べなくてはいけませんね、雪深い場所で効率よく育つ作物が何か。と呟く。
「……滾りますわね」
「……その情熱は一体どこから来てるんですか」
「面白い感性をお持ちですね。滾りますか……」
呆れるアンジェリーナに、不思議な物体を見るかのような眼差しを向けるユンリ。ラヴィニアは何故この素晴らしい疑問に血潮が沸き立たないの?と首を傾げて呟いたのだった。
「そんな奇特な人はラヴィニア様くらいじゃありませんか。……普通の令嬢だと思っていましたが、しっかり変人でしたか。さすがサーシャ様が気になった人ですね」
「…………何故かしら、全力で貶されているのに嫌な気持ちにならないの。むしろもっと言って欲しい気持ちになるのはどうしてかしら……」
「気持ち悪い感性をお持ちで。そうですか、おめでとうございます、新しい扉ですね」
「まって!やめて!ラヴィニアしっかりして!!絶対だめだと思うの!気のせいよ、開いてない、開ききってない!!やめて!今すぐに閉じて!!」
アンジェリーナが慌ててラヴィニアの肩を持ち激しく揺さぶり出すと、ハッと目を見開いたラヴィニアは震えながら口を両手で覆った。
「……何だか、ダメな気分になりました、アンジェリーナ、なんだか危ない、危険です!」
「そう、閉めてー、閉めてー、ラヴィニアはなにも気づいてない、大丈夫、閉めてー」




