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「現状、変わりはないとエピリック辺境伯から定期連絡は来ているから、今すぐ何かあるとは思っていない……が」
「生まれたお子の性別が男の子でしたら……」
「ああ、現状がどうなるかわからん」
「……一体、どういう……」
「ラティス様、現在ルグニカ王国にいらっしゃるのは3人の側妃様達との間にいらっしゃる王子様お2人と王女様お2人です。正妃様にお子はいらっしゃいませんでした。ですので、生まれた順に第3側妃様の王子様が継承第1位でしたが、ここで正妃様が男の子を産みましたら自動的にお世継ぎは正妃様のお子になります」
「……お家騒動……というやつか?」
「そうですね、正妃様は生まれも公爵出身の為身分も申し分ないのです。ですから男の子でしたらどなたも文句の付けようがありません。ですが……」
困ったように首を傾げてラティスを見るラヴィニア。
まだ続きがありそうだと、黙って話を聞いていたら、冷えてきた室内に暖かなお茶が配られた。
フロリアンは体調を崩しているラヴィニアを気遣いまだ時間が掛かりそうだと判断して侍女に言付けていたようだ。
「まあ、ありがとうございます」
ゆっくりと口をつけて息を吐いたあと、サーシャを見る。
眉をはね上げさせてから、口端を持ち上げ笑ったサーシャにラヴィニアは小さく息をついた後ラティスに向き合う。
「側妃様たちのご実家も古くから王家に仕えていた格式あるお家なのです。さらに王子を産んだ側妃様のご実家は貿易を統括しているご実家と、国外への牽制や攻撃を担う武術に優れたご実家。その2つのご実家が水面下で牽制しつつ争っていたのが正妃様のお子が生まれたことにより過激化する可能性があります。」
「……過激化?」
「はい。それこそお家騒動ですね。側妃様からの嫌がらせくらいはあると考えますが、ご実家が出てきてしまいましたら……」
「凄く、面倒だ」
大袈裟に息を吐き出した。
何となく事情を把握したラティスは顔を上げラヴィニアを見る。
「実家が出てきたら、どうなる可能性があるんだ?」
「……内紛です。そして豊かなグルニカから全国に沢山の物が流れます。食材や木材、鉄製品、日用品雑貨に至るまで。それが滞り……勿論エスメリアや、今後復興に着手するファイライトにも大打撃です。……そして最悪、他国を混じえて戦争になる恐れもあるかと」
「……そ、そんな簡単に内紛や戦争など……」
「起こり得るのです。……それがルグニカ王国なのです。」
難しそうに眉を寄せて話を聞き、俯くラティス。
確かにどの国にも王位継承でお家騒動が起こる可能性はあるのだが、ルグニカ王国はまた別なのだ。
それは一重に国の風習にある。
国政に明るく上手く国を纏めている。威厳があり的確に判断する王は民に好かれていた。
だが、悪い風習がありそれによって女達の戦いは他国よりも過激なのだ。
それを、ラティスは知らなかった。
「ルグニカは……そうだな、特殊と言えばいいのか……。ある一点に置いて俺には理解し難い事がまかり通っている。上手く説明が出来ん……と言うかしたくない。自分で見た方が納得出来るだろうな」
「……」
サーシャですら不快感を顕にしながら言うのだ。ラティスは思わず頬をひきつらせてしまう。
「まぁ、その祝いの宴に招待されたから実情を確認する為にも行くことになった。それで今後は傘下に入ったと言う報告も兼ねて王太子とその婚約者である君たちに同行をしてもらいたい。」
「……あぁ、わかった。……庇護下に入ったからファイライトに手を出すなっていう警告と、僕を通じてエスメリアの弱みを握る為の女性避けとしてラヴィニアもって事か」
「……ああ、ラヴィニア嬢。承諾しては貰えないか」
同行と言われて青ざめたラヴィニアは震える口を開いて答えた。
「……私も一緒に……」
「…………悪い、やはり嫌だよな」
「いえ、あの……そう、ですね、はい……わかりました」
震えそうな手を握りしめて膝に押さえつける。
そんなラヴィニアの様子にラティスは小さく目を見開いた。
サーシャは、小さく「そうだよな……」と呟いたが、今回の出産はエスメリアにとってもファイライトにとっても放置してはおけない事だから、青ざめた表情で迷いながら、それでもしっかりと返事を返した。
「ラヴィニア嬢への護衛は増やすつもりだ。ただ、侍女は最低1人は連れていかないと怪しまれるから誰か選出しようと思う。必ず、その侍女と護衛と共に行動するようにしてくれ。アビゲイルと今回はフロリアンもラヴィニア嬢に張り付かせる」
「……心遣い感謝します」
座ったまま頭を下げてフロリアンを見ると、ラヴィニアを安心させるように微笑んだ。
フロリアンは強い。
サーシャが常にそばに置いているくらい。
それはアビゲイルも同じで、その2人をラヴィニアの護衛にと預けてくれる事にラティスは不思議がっていた。
そんなにラヴィニアの周りを囲う必要があるのか、今のラティスには判断がつかなかった。
「で、だ。今後の動きについて」
「出発についてこちらをご覧下さい」
フロリアンが全員に1枚の紙を配布した。
そこには移動についてのスケジュールが書かれていてラヴィニアは両手でしっかりと持ち読み始める。
今までは書類など面倒くさそうに見ていたラティスも、そんな様子は微塵もない。
「………………なるほど、教会を経由していくのだな」
「(聖女様、まだお帰りになっていなかったのですね)」
そこには今いる王都ギルタニアから馬車で7時間かかる場所にある教会により、ファイライトに来ていた聖女を送り届ける。
その後教会で1泊した後に、教会にある転移装置、通称転移門を使ってグルニカ王国に1番近い教会に移動。
転移門はアーティファクトで、各教会に1つ設置されている。
これを使うことで聖女は世界各地に花冠の聖地巡礼を行えるのだ。
教会の人だけでなく、王族は勿論一般人まで転移門を自由に利用出来るがそれには人数や荷物の量、王族や貴族、平民かを見極めたお布施が必要となる。
その転移門を使った後はまた丸1日かけて馬車で移動をし夜中に着く手筈になる。
祝いの宴は今から2週間後の為、余裕を持って移動を行いルグニカ王国に入って様子を見る事になったのだった。
聖女がいることも理由のひとつではあるが、これが一番の最短ルートなのだ。
王都ギルタニアからエピリック辺境伯の領地はかなり遠く、今から出たとしてもルグニカ王国到着は少なくても1週間は遅れるだろう。
エピリック辺境伯の領地の1番近い教会は馬車で半日ほどだが、海を渡る為その準備が必要なのだ。また、その海は静かな時と荒れている時の差が激しく、出港出来なくなったら完全に足止めされてしまう。
安全で確実な方を選びルートが確定したのだった。




