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2-19(ラティス視点)

 初めて会ったのは僕の婚約者だと連れられた屋敷の一室だった。

 正直、なんで王子の僕が行かないといけないの?向こうが来るもんじゃないの?と朝から不機嫌だった。

 不貞腐れたような顔をしながらも対面したその子は綺麗なピンク色の髪にクリクリしたたれ目が印象的だった。


「……僕はラティス。君が僕の婚約者なんだね」


「お初にお目にかかります、ラヴィニア・アッティリアと申します。以後お見知りおき下さいませ。ラティス様の婚約者になれて嬉しいです」


 正直驚いた。

 綺麗なカーテシーに1個だけ年上とは思えない綺麗な話し方。

 あまりにも僕とはかけ離れていた。

 ただ、その笑顔が可愛いとは思ったんだ。


「まぁ!綺麗ですね、ありがとうございます」


「いや……気に入ったならいいんだ」


「勿論です!」


 初めは未来の妻になるのだからと関係は良好だった。

 この国では咲かない花を、会話の中で好きだと言ったからわざわざ取り寄せてみたり。

 彼女に似合うドレスを送ってみたり。

 でも、何を送っても恐縮して申し訳なさそうに謝られたり、最終的にはそんなに沢山はいりませんと、はっきり断られた。

 父が母に好きなものを送って喜ばそうとしているのを何度も見てきたから、女はこうしたら喜ぶのだと思ったのに。

 プレゼントを送り続けて1年、何故か呆れるような様子に変わっていったのだ。


「……なんだよ、何が不満なの?」


 今日も朝からラヴィニアに会った。

 朝はニコニコと笑っていたのに、昼には表情が翳り会話が続かない。

 こっちから話を振っているのに、思っていた返事じゃないんだ。


「……では、申し上げます」


 そこからは批判の嵐だった。

 何を言っても何をしても、あれはダメ、これはダメ。

 プレゼントにしても、「それを買うお金は全て国庫から出ているのですから、毎回会う度に高額なものを買うなど、あっという間に国庫が空になってしまいます」と、眉間に皺を寄せて言ってきた。

 そんなわけない。

 国の金だよ?無くなるわけないし。

 無くなったら鉱山から宝石を取って売ればいい。それだけの事なのに、何言ってるんだ。




 

 そう、思っていたんだ。

 融通のきかない、そのうち笑うこともしなくなった怒るだけの女に興味をなくし、小言を言うのを疎ましく思った。

 そんな中、いつも笑っていて優しい、口答えのしないアンジェリーナに惹かれていった。

 そうか、ラヴィニアとは真逆だな。

 気付いたらどっぷりとハマっていったんだ。


 それからだ。

 ラヴィニアの言うこと全てに反発するようになった。

 まるで自分が正しいとでも言うように、話すラヴィニアに嫌気が刺したんだ。

 公務に着いて来たがったが、また横からギャーギャー言われて僕のことを否定したいなら来るな、と突き放したら


「……なぜ、そうなるのです。ラティス様は国の為、働く人の為に良くなるようにとの助言も聞き入れては下さらないのですか?」


 何故か僕が悪いみたいな雰囲気で言われた。

 冗談じゃないよ、なんで僕が決めたことを覆す内容を聞かないといけないのさ。


 こうして、全てのラヴィニアからの話を聞き入れないようにした。

 だって、僕の話も全部拒否するんだから、別に変な話じゃない。そうでしょ?

 そうして数年、王太子としてやってした。

 僕に間違ったことは無いよ、やらなきゃいけないことはしてるんだから。

 ただ1つだけ、この婚約を辞めてアンジェリーナと一緒になれる為の正当な理由を決めないと。

 

 僕の生活は充実していた。

 2人が卒業して会えなくなったぶん、小言を言われる息苦しさから解放されて。

 でもアンジェリーナに会いたいから仕方なくラヴィニアに会いに行った。

 婚約者としての面子も保たれるしいい事だらけ。

 ただ、マーサの目がどんどん冷たくなってきたのはちょっと気になるけど。

 相変わらずあれはダメ、これはダメってうるさい。僕の何がダメなのさ。その理由も意味わからないし。

 相変わらずラヴィニアの話は聞かなかった。

 

 でも、もしあの時、ラヴィニアの話を聞いていたら。

 あの噴火の前の1週間、なにか変わっていたら違う未来があったのかな。

 国が崩壊した。

 城は残ったけど国民の大半はいなくなった。

 こんなになってしまったこの国は一体どうなるのか……

 僕はこんなになった国の王になるの?

 そんなの、無理じゃないの?


 それからの1週間は正直あまり記憶がない。

 なにか怒涛に色々変わって、それを理解出来ない僕は不安をぶつけるようにラヴィニアに何かを言っていた。

 でも、何を言ったのか覚えてないんだ。

 こうして気付いたらエスメリアに到着して、エスメリアの皇帝と会っていた。

 数回面談をした事で、やっと我が国の置かれている立場が分かったんだ。


「我が国の傘下に入る場合についての条件は様々あるが、必ずしなくてはいけないこと。それは王を変える事だ。今日の滞在中の様子を見て、貴殿に私が望む王としての器が欠落している。王として采配し民を、国を繁栄する。これは我が国の傘下に入る国に等しく提示している事。これが出来ず王としての勤めを果たせない者は愚王であり国は傾く。貴殿は聞いていた数年前からの異常気象や地震は知っていたか?それに対しての対策は?アーティファクトが破損していたと聞く。それを知っていて修復を怠ったのは何故か。国を守る物は最優先して整備するものだろう。何故しなかった?結果がこの惨状だ。これを見て貴殿自身を見て、王としての器が欠けている。そのまま王として座すなら、我が国の支援は無いものと考えよ。たとえ、妹が嫁いだ国でも。」


 

 復興する為に傘下に入り、父王は王座を下ろされる。

 それに憤りを覚えたけど、父王を見たその顔は真っ青になって冷や汗をかいていた。

 今まで全てをリーンハルトに任せたままの父王には無理な事だろう。

 でも、僕は違う。

 学び考え、公務をしてきた。

 だから、大丈夫。


 でも、次期王となるならその素質を見せよとサーシャ殿下の元で視察を繰り返しているけど、ファイライトの公務より視察よりやる事あるが膨大だった。

 その内容の緻密さも、難易度も何もかもが違う。

 どうして。

 王太子と皇太子、国は違えど立場は余り変わらないはずなのに。

 確かに僕の方が年下だけど……

 あきらかに、僕との差が開いている。

 サーシャ殿下程の能力を求めているのなら、ファイライトの人には務まらない。

 いや、それをこなしていたリーンハルトを初めとする臣下の数人だけだ。

 こんなに仕事があったなんて、知らなかったんだ。

 

 サーシャ殿下から学ぶ物は考えられる事ばかりで、日が経つに連れて今までの全てを否定され書き換えられる。

 そして久しぶりに玄関で会ったラヴィニアを見てハッとした。


 ラヴィニアは、言っていなかったか?それはダメだと。

 ちゃんと理由を付けて僕に伝えていなかったか?

 臣下の皆は僕が不機嫌になったらそれ以上は何も言わなくなった。

 だが、ラヴィニアだけは違った。

 いつも、良い王にと、そう言っていた。

 小言ではない、助言を受け入れては貰えませんか?と。


 そんなラヴィニアはお土産と渡した袋を僕にくれる。

 話を聞かなかった僕にでも変わらず辛抱強く言い聞かせて来たラヴィニアの優しさは少しも変わらず昔と同じだった。

 顔を見ることも出来ないでアンジェリーナにも話しかけられずすぐに離れる。


「……うまい、な」


 自室に戻って扉によりかかりながら袋の中のクッキーを1口食べると優しい甘さが口の中に広がった。

 それと同時に、何故か涙が止まらなくなった。

 僕は、間違っていたのか?



 翌日、今日も視察だと玄関に人が集まるが何故か出発しない。

 すると、階段を降りてきたラヴィニアが綺麗にカーテシーをした。

 緑のドレスにショール、外出着だ。

 嫌な予感がした。


「お待たせ致しました」


 その一言に目の前が真っ暗になった。

 一緒に、行くのか。

 僕を否定していたラヴィニアなら、今の僕を見てやはり否定するんだろう。

 色々見えるようになったけど、それでも今までの積み重なった拒否の言葉が必死に立っている僕を打ち崩してしまいそうで、怖いんだ。


 それからは必死だった。

 ラヴィニアを牽制して余計なことを言わないように、自分よりも目立つ態度は控えるように。

 でも、ラヴィニアは僕の予想を遥かに飛び越えた。

 たった数枚の資料、僕にはわからなかったその内容を的確に当ててみたり、働く男たちに混じって模型を見て会話を膨らませたり。

 なにより、見たこともない笑顔で楽しそうに途切れることなく話をしているのだ。

 僕との会話は義務的な内容で無表情だというのに。

 ……そういえば、昔のラヴィニアはこんな感じだったのかもしれない。


 愕然とラヴィニアを見ていた僕は、サーシャ殿下に見られていたなんて微塵も気付く事無く視察は終了した。

 その後の食事で、僕は爆発してしまう。


 

「何を仰っているのです。何が平民にそんな事ですか。私たち貴族は、王族は平民あってのものです。皆さんが常日頃必死に働き街の発展に協力して下さり貢献してくださるからこそ国が生きるのです。私たち貴族だけで一体何がやれると仰るのですか。企画も設計も実行についての裁決も確かにできますが、実際にそれをして下さるのは臣下の皆さん、そして平民の皆さんです。決して蔑んでいいわけではありません!私たちには私たちの、平民には平民の役割がある。ただそれだけの事です!階級は決して上のものが好きに振舞っていいという意味ではありません!


貴方は後の王となる方です。国の再建にも、これからもっと様々なことをしなくてはなりません。そこには貴族、平民全ての人が力を合わせなくては実現しないのです。してもらうのが当たり前なのではありません。指示だけすれば良いのでもありません。貴方は皇太子が、王が何をすべきなのか、今一度考えた方がいいのではないでしょうか。」


 そんなの、わかってる。

 今それを示せと言われている僕が1番わかってるのに、それを君が!ラヴィニアが指摘してくるな!

 城に着いてからいてもたっても居られなくて部屋に逃げ込んだ。

 ラヴィニアは、間違ってはいなかったんだ。

 ……僕が、間違っていたんだ。

 僕はこれから、どうすればいい?

 

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