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2-18


「!!」


 1口口にしたら蕩ける甘さが口いっぱいに広がった。

 少し熱いくらいの温度で溶け出たちょこれーとを少し固めのケーキに着けて口に運ぶ。その手が止まらない。

 ベッタリと口に絡みつくような濃厚なケーキに、甘ったるいちょこれーと。

 喉が渇いて飲んだ紅茶は普段飲まないセイロンのストレートだった。

 ちょこれーとの濃厚な甘さをさっぱりと洗い流してくれる。


「……アビゲイル、あなたの領地の木の実はとても素晴らしいものですね」


「ありがとうございます」


 一瞬で食べきったちょこれーとけーきをラヴィニアは残念そうに見てからアンジェリーナを見る。


「また、このケーキを出して頂けるか聞いてもらいたいです」


「かしこまりました」


 あまりにも衝撃的すぎる甘味に、ラヴィニアはうっとりとする。


「……入っていいか?」


「え……?まぁ、サーシャ殿下!」


 慌てて立ち上がり礼をしたラヴィニアは、部屋の入口に立つサーシャを室内へと促した。

 入口の隣にはヴァイオレットが立っている為、扉を開けたのはヴァイオレットのようだ。

 フロリアンを伴い入ってきたサーシャは、ラヴィニアの向かいに座った。

 サッと出される紅茶を1口飲んでからラヴィニアを見る。


「……今回の視察、ラティス様も同行していただろう?実は今回が初めてではない」


「そうなのですね」


「驚かないんだ?」


「今回が初めてでしたら、もっと不機嫌になり早く帰りたいと仰るのではないかと」


「まぁ、初めて行った時はそうだった。よく分かってるな」


「これでも幼なじみですので」


 残念感が滲み出た言い方。

 あんな態度をされたらそれも仕方がないだろう。


「視察に着いてきている理由は1つ。父からの傘下については聞いてるな?」


「……もちろんです」


「その傘下に入る話は、ほぼ確定になった。その結果、王を変える」


「決定……なのですか?」


 その事も検討とは聞いていたが、サーシャの言い方ではほぼ確定だ。


「傘下に入ったからには全ての審議や決定を宰相に任せる王などいらないってのが父の考えだな。自分の頭で考えて裁決をする。それは勿論国の王として的確な裁決を。……あの王にそれは出来ないだろ?」

 

「……出来ませんね」


「王には、資質が必要だ。生まれ持っての天性とも言える。国を繁栄し豊かにするには何が必要か。知識も情報も、それを知るための人脈も全てが必要。完璧に出来るなんてそれは無理だろう。その為に臣下がいる。その臣下が優秀か、如何に信頼、信用出来るか。そして自分はその臣下が信頼を寄せる事が出来る王であるか。」


 紅茶を飲みながら話すサーシャを黙って見つめる。

 きっとそれは、サーシャが目指す王の姿なのだろう。

 それに近づけるように日々努力をする人。

 それは、今日の視察でよく分かった。


「……まぁ、似たようなことを話し合いの場でファイライトの王に伝えてある。真っ青な顔をしていたな。でだ、次の王になるのは……普通ならラティス様ってなるが、その素質をみせろって事でな」


「……それで視察の同行をなさっていたのですね」


「あぁ。だがな、あの生ぬるい湯に浸かったような王家で学んだ王子は自分のいいように変換される都合のいい頭を持っている」


 テーブルを人差し指でコンコンと叩きながら少し苛立ちが垣間見えるサーシャ。


「今日まで視察に同行し、王太子としてのやらなくてはいけない事や情報に資料の内容、人との繋がり、それによって生まれる情報の大切さをわかっていない。現地視察をあまりしてないんじゃないか?現場でだからこそわかる資料には無いその場所の本質を理解していない」


 君はそれを正しく理解しているようだ。


 コンコンと鳴らしていた指を止めてラヴィニアを見るサーシャ。

 今日港に行って、実際にラヴィニアがしていた事だ。

 情報を元に資料を見て理解し必要な時期や個数を頭の中で瞬時に計算、答えを導く。

 また、現場とのコミュニケーションを測り知りえない新たな情報を持ち帰る。

 些細なことでもいい。

 国にとってではなく、働く人達にとってプラスになったり利益になる情報もあるからだ。

 そこで、港の男達からラヴィニアはしっかりと新しい船舶の情報を持ち帰ったのだ。


 

「民は王によって守られ、王は民によって繁栄される」


「それは……?」


「王の教訓みたいなもんだ。奢り高ぶらず、国と民を守れ。さすれば民は王に付き従い国は繁栄する……あれが王になるなら意識から変えていかないと駄目だな」


 はぁ、と息を吐き出し背もたれに体重をかけるサーシャを見てラヴィニアはうつむいた。

 ラヴィニアは今の話を聞いて、サラバンのやり方を見て育ったラティスの考えを、どう変えていくのか不安だった。

 サラバンは本当に政務をラヴィニアの父や臣下にほぼ丸投げする人だった。

 ラティスは自分から公務をしたり、視察を数回しているとはいえ王位継承権第一位である事を揺るぎないものと考えている為そこまで意欲的に行動をしてはいなかった。

 幼い頃から黙っていても王になるとわかっていたから。

 それが、母が望みで父が叶えるように動いているから。

 王としての資質はラティスより現在10歳の弟、ギルバートの方が上だろう。


 しかし、ここに来て王になれる土台が崩れた。

 ラティスは今、王になる為には何が必要なのか必死に模索しているだろう。

 予定通り王となるのか、それともギルバートにその座を譲ることになるのか。

 その場合、王家とアッティリア家で結ばれたラヴィニアの婚約は、王太子妃となるべく教育され未来の王妃となる契約の元結ばれている為、ラティスとの婚約は破棄となり場合によってはギルバートとの婚約を再度結ぶことになる。


 噴火によって全てが無くなったラヴィニアは、その未来までも見えなくなっていた。

 

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