2-10
あれから2日、皇帝陛下はふたつの選択肢をサラバンに与えた。
ひとつは、ファイライトは今まで通り独立国家として国を上げての再建へと乗り出す。
その際最低限の支援として人員と機材の貸し出しを行う。
これは期間を儲け1年で国の復興にあたること。
もうひとつは、エスメリアの傘下に下ること。
人員、機材共に復興が終わるまで無制限に貸出し、また、エスメリアの技術なども駆使した雪国の発展を目指した街作りを行う。
経済が軌道に乗るまで、国独自で動けるようになるまでバックアップを実施。
ただし、国王などの国の中枢はエスメリア帝国で検討する為、国王の入れ替えも視野に入れている。
現実的にみて、どう考えても傘下に下ることが1番いいだろう。
街の復興は勿論だが、それだけでは国は成り立たない。
そして激減した国民達の今後も考える必要がある。
それを国王が全て出来るとは到底思えなかった。
だが、国の中枢の管理をエスメリアが請け負う、この言葉にサラバンは頷くことは出来なくなった。
彼は生まれた時から王族として育ち、周りに流される生ぬるい世界で生きている。
王としての器がないのは彼自身が1番わかっているだろう。
だからこそ、王籍を抜けさせられるのも、今更他の仕事を与えられるのも嫌だし出来ないのだ。
返事を出し渋るサラバンは暫く考える時間をと、返答の猶予をもらった。
それからリーンハルトはサラバンの元へ頻回に赴いている。
そしてラヴィニアはというと
「これは!これは素晴らしいものです!!」
あるお店の中でお皿を両手で持ち興奮したように言った。
その言葉に頷き凝視するアンジェリーナ。
後ろに立つ護衛のアビゲイルは顔を逸らして肩を震わせ笑いを必死に耐えていた。
この街で隠れた人気の洋菓子店でラヴィニアは初めて見るマカロンを見つめていた。
小さなそのお店は基本的には持ち帰り専用で席は奥にふたつだけ。
そのお店の座席に座ったラヴィニアとアンジェリーナは、お皿に乗った色とりどりのマカロンに興味津々なのだ。
「……た、食べますよ。」
「……はい」
「…………お!美味しいぃぃ……お口がとろけました……」
そんなラヴィニアの様子にゴクリと喉を鳴らしたアンジェリーナは恐る恐るマカロンに手を伸ばした。
この国に来てから部屋に閉じこもり気味なラヴィニアをアビゲイルが誘い出し久々な外出をしていた。
ラヴィニアはまだファイライトの答えが出ていない状態で迷惑をかける訳にはいかないと、無駄な行動は控えて室内でじっとしていた。
かなり立て込んでいるのではないだろうか、カナリアは数回逢いに来ているが、リーンハルトやラティスですら皇帝陛下と挨拶をした日から会っていない。
勿論、サーシャとも。
「アビゲイル、連れて来てくださりありがとうございます」
「楽しいですか?」
「はい!」
「……良かった」
嬉しそうに笑ったアビゲイルにラヴィニアも満足そうに見る。
「……今日の外出を進めたのはサーシャ様なんですよ」
「え?サーシャ殿下が?」
「はい、部屋から出ないラヴィニア様を心配されて、外出に連れ出すように、と。」
「まぁ!……気を使わせてしまいましたね。ねぇ、サーシャ殿下はマカロンお好きでしょうか?」
「はい、ここを進めたのはサーシャ様です」
「……じゃあ、お土産を買いましょう」
「喜ばれますよ」
2人が楽しそうに話しているのをアンジェリーナは黙って聞いていた。
サーシャが気にして外出の手配までしていたラヴィニアに黒くどす黒い物が浮かびそうになっている。
ラヴィニアの隣にいるのに、ラヴィニアしか見ないサーシャ。
使用人としてそばに居る顔見知り程度のアンジェリーナに、サーシャが気を配る事は無いのだが、やはり大きくなった恋心はラヴィニアに嫉妬してしまう。
そして、ラティスには見せない嬉しそうな顔が更にアンジェリーナの心を乱した。
「アビゲイル、お土産を頼んで良いかしら。こちらのセットを」
「はい。こちらでお待ちくださいね」
店の中には客は居なく、若い女性の店員が1人だけ。
それを確認してからアビゲイルはラヴィニアの傍を離れてカウンターへと向かった。
「ラヴィニア、ラヴィニアはサーシャ殿下が好き?結婚したいとか、思う?」
「な!……何を……アンジェリーナ?」
飲みかけた紅茶が驚きで揺れる。
直ぐにコップを置いてアンジェリーナを見ると、なんとも言えない顔をしていた。
アンジェリーナの気持ちを知っているからこそ、ラヴィニアは考えてから正直に話し出した。
「……結婚、は、サーシャ殿下が御相手なら少なくともラティス様より幸せになれると思います。婚約破棄を実際にしていないとはいえ、告げられた私と幸せな結婚生活など出来ないでしょうから。サーシャ殿下は気を使って下さるし、お優しい。でも、私に対する優しさは子供を相手にするような優しさです。」
「……ラヴィニアは、どう思ってるの?」
「……そばに居たい、と思うくらいには感情が傾いています。」
確信的な言葉を避けて真綿にくるんだような言い方をするラヴィニア。
屋外でも人気の少ない店の中、人がいなく聞いていないとはいえ、不用意に話して良い内容ではない。
アンジェリーナは考え込み、そしてしっかりとラヴィニアを見た。
テーブルの上にラヴィニアの手をギュッと握り口を開く。
「…………そっか。あのさ、私ラヴィニアの所にきて構っているサーシャ殿下をずっと見てた。いいなって。勿論この国に来る間に少し話が出来たくらいの私に気安く話しかけるわけないのはわかってる。でも、私にはあの腐れ野郎の義兄とか、頭のとち狂った王太子とか、なんなの私変人ホイホイなわけ?って思ってたのよ」
「ぶふ……」
真剣な話のはずなのに選ぶワードに思わず吹き出す。
慌てて咳払いするが、全然隠せてない。
「……この恋はさ、到底無理なのはわかってるのよ。相手は皇太子だよ?男爵令嬢だからとかいう前に、素養がない!!あの人の隣に立つ!?無理無理」
「……アンジェリーナ」
「まぁね、でもさ、わかってても傍でラヴィニアと話すのを見てるとね、複雑なわけよ。くっそー!かっこいいな!!……だからってラヴィニアにイライラするのも違うじゃない?じゃあどうしろってなるから」
「…………」
「とりあえず、ラヴィニアに八つ当たりしようかなって!」
「や、八つ当たりですか?」
清々しいくらいに明るく元気に言ったアンジェリーナに、ラヴィニアはポカンと口を開けた。
「そう!それで私はすっきり、今までと同じ様にラヴィニアに尽くしましょう!」
まるで力こぶのように腕を動かすと、袖のたっぷり付いたレースが揺れた。
「……アンジェリーナ、八つ当たりってなにするのですか?」
「それは!明日のお楽しみ!明日1日は私のターン!」
「ターン……?」
「ターン」
頷くアンジェリーナは真顔。
小さく八つ当たり……と呟いたラヴィニアは、掴まれている手を握り返し真剣にアンジェリーナを見つめた。
「わかりました。八つ当たり、心して受けます。受け止めてみせます!はい!」
「それでこそラヴィニアよ」
明らかにおかしい会話を手を握りしめて言う2人。
頷きあって納得してからまたマカロンを口に運んだ。
「……そういえば、なんでサーシャ殿下はラヴィニアにあんなに気を使ってるんだろう?」
「それは私がラティス様の婚約者ですから、未来の王妃として関係をよくするという意味と、初めてお会いしたのが10歳の頃で、サーシャ殿下の妹君と私は同い年なのです。守る対象というイメージが強いのだと、何時でしたか話してくださいました」
「妹……」
「私への対応が家族に向けるそれと似ていますでしょう?」
「……妹……ねぇ」
頬杖をついてマカロンを上に掲げて見るアンジェリーナは、そうかなぁ……と呟いた。
「何か言いました?」
「なにもー」
「あーあ、あんな軽薄な王太子より素敵でかっこいい人がラヴィニアの婚約者だったら私も安心なのになぁ。」




