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2-9

本日3回目の更新です

案内された部屋はかなり豪華なものだった。

 宰相である父のリーンハルトと、妻のカナリアも城の中の一室を借りて生活をすると案内してくれたアビゲイルが教えてくれたのだが、ラヴィニアは別に部屋を用意されていて侍女のアンジェリーナも使用人用の部屋を一室借りたらしい。

 今までと同じくラヴィニアの世話をすることが決まったのだが、あまりにも室内が豪華すぎてアビゲイルを振り返った。


「アビゲイル、お部屋を間違えていませんか?」


「間違えておりませんよ。皇帝よリこちらの部屋へご案内を申し使っております」


 まるで王族が住む部屋のような豪華な作りだった。

 続き部屋が3つあり、浴室もある。

 ファイライトには個室に風呂がある屋敷はほぼ無い。

 王城でも大浴場があり、王も大浴場を使う。

 寒さの厳しいファイライトでは浴槽に湯を張っても冷めるのが早いため、24時間入浴可能にしている大浴場を1つ用意するのが一般的だ。

 その為湯を24時間見る使用人が3~4人は必ず雇っているほど。


「浴室があります……」

 

 浴室入口に立ち尽くし呆然と呟く。

 初めて見る大浴場を小さくしたような浴室は、部屋の主のラヴィニア専用だとアビゲイルが教えてくれた。


「わ、私専用!?こんな贅沢……いいのでしょうか」


「勿論ですよ。今まで色々ありましたからね、疲れをとってください」


「……ありがとうございます」


「お礼はサーシャ様にお伝え下さい。サーシャ様が皇帝陛下にお部屋の準備をお願いしておりましたから」


「……サーシャ殿下が」


 サーシャに再会してからラヴィニアにとって、今までにないくらいに気遣われていた。

 王太子の婚約者としてしかみられないラヴィニアは、常に礼節を保ち淑女らしくと習ってきたそのままに生きてきた。

 周りからは融通のきかない女と思われていただろうし、知識だけの頭でっかちと影で言われていたのも知っている。


 遠巻きに見られていたのはわかっていたから、サーシャのように踏み込んで接してくれる人は両親以外はアンジェリーナやマーサといった使用人だけ。

 だから、ちょっとの気遣いがラヴィニアには嬉しかった。


「次に会う時に必ず伝えます。」


「はい、喜ぶと思います」



 部屋を一通り見て回ったラヴィニアは、ソファのある部屋へと戻ってきた。

 そこには日当たりの良い一日椅子とテーブルがあり、当たり前のようにラティスが座り紅茶を飲み、傍らにはアンジェリーナが。


「…………ラティス様、何故まだここに?」


「婚約者の部屋にいて何かダメな理由でもあるの?」


「……いえ。」


 一応と開けられた扉の外には2人の兵が立っているのが見える。

 ラティスの護衛だろう、2人のうち1人はエスメリアの兵のようだ。


「今日は夕飯を皆で食べる以外に予定は無いだろう。なら、別に構わないじゃないか」


 確かに予定はない。

 無いが、緊張と疲れの連続で休みたいと思っても悪くは無いだろう。

 むしろなぜ疲れない。


「……すみません、休みたいのです」


「追い出すって?」


「…………」


 疲れで頭が回らない。

 アビゲイルは呆然としているラヴィニアを見てから口を開いた。


「おそれながら、国から出たことの無いラヴィニア様が長期間に渡り他国に来るだけでお体に負担がかかります。ましてやあのショックは数日で回復するものではありません。……お体の疲れと汚れを落とす為にもご入浴をして頂きたい」


「……入浴か。確かに風呂に入りたいな」


 自分の体を見てから立ち上がり、「……じゃあまた後で」と呟いて部屋を出ていった。



「アンジェリーナ、手伝って下さい」


「かしこまりました」


 室内に用意された浴室は、人1人余裕に座れる浴槽に数種類のボディケア、ヘアケア用品。

 すぐ隣の部屋には入浴後のマッサージ用ベッドに香油等が揃っていた。


「……すごいわ、これを1人で使えるなんていいのかしら」


「凄いですね、ファイライトではお城にすらこんな設備はないんですよね?」


「ええ無いわ!……ラティス様は豪華なお部屋を見ても驚かれていなかったですし、訪問もした事があるから知ってらしたのね」


 事前に知っておきたかった……と思いながらも、温かい湯が張られた湯船に足を沈ませた。

 肩までしっかりと浸かって息を吐き出す。


「……ねえアンジェリーナ、なんだか色々ありましたね」


「そうですね……」


「……地震に気温上昇が続いて、そして噴火。沢山の人が亡くなったわね……家族たち、マーサも」

 

「……はい」


 アンジェリーナはラヴィニアの話を聞き返事をしながら髪にゆっくりとお湯をかける。

 香りのいいシャンプーを手で馴染ませてから髪に撫でるように付けて優しく泡立てていく。



「……疲れましたね。この香りがとても癒される」


「……ねぇラヴィニア」


「……なんですか?」


「……私達、これからどうなるんだろう」


「……わかりません。これから皇帝陛下とファイライトの今後について話し合いの場が設けられると。でも、アンジェリーナ」


 ザブンと音を立てて振り返りアンジェリーナを見る。


「きっと、大丈夫です。確信などありませんが、きっと。私達が今できるのは必死に生きることだけです。マーサが最後に残してくれた幸せな人生を送る為に諦めず生きるだけです。」


「諦めないで生きる……」


「全てをなくした人も居ます。私は甘いことを言っているでしょう。どんなに足掻き頑張っても、結局王太子の婚約者なんだから優先されてる、と、きっと言われます。ですがそれでも、私達は出来る事を1つずつやるしかありません」


 その言葉に嘘は無い。

 アンジェリーナは真っ直ぐ濡れたラヴィニアを見つめた。


「……じゃあ、私はいつか国に帰る日の為に出来る事はラヴィニアに仕えて旦那探しの継続だね」


 国に戻れるのか、貴族として今まで通りの生活が出来るのか。

 不安は尽きないけど、出来ることは今を頑張るだけ。

 2人で手を握り合い額を合わせた。


「頑張りましょう、ここが正念場です」


「うん、うん……頑張ろう」


 ラヴィニアのように気持ちの整理が出来ていなかったアンジェリーナは、こうして一緒に頑張ると言葉にした事で不安を少し払拭した。



 扉越しに警備の為に立つアビゲイルは手を握りしめて二人の会話を聞いていた。

 知り合い、家族、家も財産も失ったファイライトの人達は不安や恐怖から常にイライラしたり泣き出したりと情緒不安定だった。

 それはこの2人も変わらない。

 ラヴィニアは当然だが同じく側仕えで常に一緒にいるアンジェリーナにも気を配らなければ、と気持ちを新たにしたのだった。

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