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2-7



「……なんだこりゃ……」


 誰が言ったのか探す事すら頭にないラヴィニア。

 初めて見る街並みや見た事もない想像もつかないものに溢れたこの王都ギリタニアをただただ見つめた。


「ラヴィニア、これがエスメリア帝国だ」


 小さくリーンハルトが言った言葉にラヴィニアはこくりと喉を鳴らした。






 あの魔物の襲撃の後は特別魔物が出る事も無く穏やかな旅が続いた。

 どうやら魔物避けのお香を炊いていたらしいのだがあの魔物には少々効き目が弱かったらしく、もう1段強いお香に変えたらしい。

 こうして安全に王都ギリタニアに着いたラヴィニア達は街へと入る入り口に巨大な門があり、そこを通らないといけない事を教えられた。


「大丈夫です、門兵が持っている見聞き石と呼ばれる宝石に触れてくだされば」


「見聞き石……?」


「はい、ギリタニアは王都ですので他よりも警備が厳しくなっております。そこで、入場許可の無い人は身分に関係なく見聞き石という宝石に触れてもらうのです。」


「それは、どんなものですか?宝石……ですよね?アクセサリーですか?どんな作用があるのでしょうか」


 一息で聞いてきたラヴィニアにアビゲイルが数度瞬きをする。そしてクスリと笑った。


「……なるほど、我が君が仰っていた事の意味が分かりました」


「え?……サーシャ様がなにか?」


「未知の知らないものに対しての追求心がお強い、と。」


「い、いえ、普通です。至って他の方と変わりありません」


 頬を赤らめ言ったラヴィニアにアビゲイルは優しく笑った。


「いい事じゃないですか。知らないことを知るのは悪いことではありません。それに、目を輝かせて聞いてくるお姿は愛くるしく思います」


「あ!愛くるし……わ、私……はしたなくありませんでした……?サーシャ様にまでそのように思われていて恥ずかしいわ」


「サーシャ様はそのように思ったりしませんよ」


 頬を染めて俯きがちに言うラヴィニアに、アビゲイルは思った。


「(外見、反応、そして知りたい欲求の強さや話す内容といい、多分我が君の興味を引く女性。王太子の婚約者であるのが悔やまれる)」


 馬車の窓を開けて馬に乗って護衛するアビゲイルと話をしていたら、あっという間に王都ギリタニアについた。

 ここでは先程アビゲイルが言ってたように検問があり、エスメリア帝国に住む全員が持つ身分証の提示が出来ない人に限り見聞き石に触れる。

 これは全員で、王も例外では無い。

 馬車を降りて検問を受けるのだ。


「これはサーシャ殿下!おかえりなさい、ご無事のご帰還安心しました」


「ああ、ただいま。門の警備ご苦労だな」



 肩を叩いて労うサーシャと、ガチガチにかしこまった様子もない、笑いながら話しかける門兵の思っていた以上にフランクな様子にファイライトの人々は驚いた。

 ファイライトでは階級制度が厳しく、特に王族が一般兵と話す事などあってはならないとすら言われていた。


「……そのままお話されるのね」


「我が君だけでなく、王家の皆様は市場によく足を運びますし、視察だけでなく息抜きにもふらりと立ち寄ったりしますよ」


「フロリアン!……まぁ、凄いですね」


「市民を見るのも王の勤めですから。市場を知って安心安全に生活出来るようにと、心を砕いているんです。それは特別な事では無く息をするのと同じだと仰っていましたよ」


「……息をするのと同じ」


「随分綺麗事を言うんだね。まぁ、言うだけなら誰でも出来るもんね」


 サバラン達王家のすぐ後ろにいたラヴィニアの達の話が聞こえていたのだろうラティスが振り返り話に割り込んできた。


「街を良くする、市民を守るのは王家の者なら当然でしょ。」


 ふんっ!と前を向くラティスの隣には聖女の姿。

 逆隣は開いていてアンジェリーナを呼んだが拒否されている。

 ラヴィニアも移動期間は人の目もあるし、何より馬車が違う為ゆっくり話す事も出来ないままギルタニアに到着した。


 前では検問に文句を言っているラティスにやれやれ。と首を横に振ってから門兵の所に。

 にこやかに笑っている門兵は元気よくラヴィニアに話しかけた。


「いらっしゃいお嬢さん!入場許可書持ってないからこれ触ってねー」


 そう言われ取り出されたのは見覚えの有る物で出来たブレスレットだった。


「……これが見聞き石……?」


「お!知ってくれてるのは嬉しいねぇ!」


 門兵は朗らかに笑ってラヴィニアに触れろと差し出してくる。

 それに恐る恐る触れるとブレスレットは淡く白に光ってから消えた。

 門兵はニッコリ笑って「ようこそギルタニアへ!」と朗らかに歓迎してくれた。

 頭を下げて門を通った瞬間ラヴィニアは足を止めてはしたなくも口をポカンと開けたのだった。


「……ラヴィニア、口」


 父リーンハルトに窘められ慌てて口を閉じるが、たまたまそれを見ていたラティスは珍しいものを見たと、目を丸くする。


「あ……あれはなんですか……」


 なにやら動くロボットのようなものを見るラヴィニア。


「あれは自動回転式の掃除ロボット」


「あれは……」


 次に見たのは道路を走る四角い箱に、周りを行き来する長方形の巨大な馬車。人が多く乗っていて、3頭の馬が引いている。


「魔法列車と、回送用の寄り合い馬車」


「……あ!サーシャ様!いつの間にいらしてたんですか?」


「ラヴィニア嬢がポカンと口を開けていた時から」


 いい笑顔で言い放つサーシャに、ラヴィニアは顔を真っ赤にさせた。


「は!はしたない姿をお見せして申し訳ありません!」


 ばっ!と頭を下げるラヴィニアにゆっくりと頭を撫でた。


「君は気を張りすぎている所があるから少しは肩の力を抜いて、気になる事は素直に聞いてそうやってポカンと口を開けるくらいの余裕を持った方がいいな」


 優しく言われ全身が燃えるように熱い。

 小さな頃のように言い聞かせる様に言ったサーシャに、ラヴィニアは真っ赤な顔を上げて抗議する。


「……そんなこと……私は王太子妃としてしっかりしなくてはいけませんし、それは余裕では……」


「知っている。もっと力を抜けってこと」


 肩を軽く叩いてから離れていったサーシャの背中を見送ったラヴィニアはまた、街を見た。

 あまりにもファイライトと違いすぎる活気ある街にただただ驚いてしまう。

 その後続々と門を通ってきたファイライトの人々は街を見て息を飲む。


「なんだこりゃ……」

 

誰かが言ったその言葉が全てを物語っていた。

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