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出発してから3日が経過した。
エスメリアに着くまでは予定では2日ほどかかるのだが、長期の移動にイライラし始めている貴族により平民が怯え始めている。
それもそのはずで、自分の家が無くなった貴族達は荷物は勿論馬車も無い為この数日間を徒歩でエスメリアへと向かっていた。
自分よりも位の低い貴族から、無理やり荷物の中の着替えや馬車を奪おうとした人もいたが、争いの種になるとサーシャはそういった行動を一切禁止した。
そして護衛として周りを歩く兵達にその見張りもさせていたのだが、その我慢も限界に近づいてきている。
むしろこの数日間よくもったほうだとサーシャは思っていた。
エスメリアの貴族達は武術に長けている。
それは、武術を極めるだけではなく、いつ争いがはじまっても対応出来る環境にも慣れておく必要があると徹底しているのだ。
つまり、エスメリアの兵達は文句しか言わないファイライトの貴族に呆れていたのだ。
「くそっ!!なんで私がこんなに歩かにゃならんのだ!!」
「あ、あなた……」
「あいつらよりも私は偉いのだぞ!なのに、私が歩いてあいつらが馬車に乗るなど可笑しいだろう!!」
「そうですわ!私、女の子ですのに、こんなに汚れてしまっていますのよ!……サーシャ様も見てますのに」
侯爵位を持つでっぷりと太った男性が汗をかきながら喚き散らし、いつもは隠している寂しくなった頭も隠しようがなく地肌が汗で光っていた。
その妻である侯爵夫人は焦りながらも服を引っ張るが、そんな妻の手を振りほどいた。
休憩中で立ち止まっているが勿論座る場所も無いため大半は地面に座る。
こんな所に座ったことなんてないわ!と叫ぶ16歳ほどの少女は着替えがないのだろう、真っ白だったドレスが薄汚れ、地面に座るためにスカート部分はかなり汚れていた。
まだ良かったのは噴火の影響なのかあれから雪が降っておらず地面で休めるくらいだろうか。
少女は自分の姿に恥ながらも、チラチラもサーシャを見ているのが誰から見ても分かった。
ラヴィニアはそんな様子を馬車の中から見る。
あまりにギラギラとしている貴族達に馬車を使う数家族を殺さんばかりの視線で見てくるのだ。
さすがに公爵であるアッティリア家に何か言ってくる人は居ないが、使用にも使わせているのを見て歯ぎしりしているのを見ているのだ。
「まったく!噴火などの災害に避難の為とはいえ歩きでエスメリアに行くなど災難にも程がある!」
飛び出す不満に怒り出す貴族達はあきらかに苛立っていた。ラヴィニアは不安そうに見ていると、大人たちのうちの1人がズカズカとラヴィニアたちの馬車に近づいてきてアビゲイルが入口の前に立つ。
「俺はアッティリア公爵に話がある!避けないか!!」
「許可できません」
「なんだと!!?」
「ここにはラヴィニア様がいらっしゃいます。護衛の任がありますので許可できません」
「このっ!俺を誰だと思っている!俺は子爵だぞ!!平民の小娘の分際で口出しするな!!」
怒鳴り声が聞こえ思わずラヴィニアが馬車から出ると、アビゲイルが手を横に伸ばしラヴィニアを守るように前に出る。
「私達はあなた達ファイライトの皆様を安全にエスメリアに連れて行く任務を請け負っております。ですので出発時にサーシャ様から話がありました、私達の話を聞き危機回避にご尽力頂かなくてはこの人数を守りきるのは難しい。……文句などを言わず体力の維持に勤め移動にのみ意識を向けて下さい」
「それが出来ないから! 使用人を下ろして私たちに貸し出すべきだと公爵に伝えるんだ! そこをどけ!!」
「父は今馬車にはおりません。 王様の所に行っております」
ラヴィニアがアビゲイルの腕に触れて言うと、男は顔をゆがめ、アビゲイル越しにラヴィニアを見た。
「では、せめて娘だけでもあなたの馬車に乗せてもらえないだろうか」
「……それは」
「同じ年頃の娘は歩いて貴方はゆっくりと馬車に乗るのは些か狡くはないか?」
ギラリとラヴィニアを見る男にラヴィニアはどう答えようか迷っていた時、サーシャ、ラティスとリーンハルトが戻ってきた。
「……何を騒いでいる?」
サーシャが眉を寄せ男を見る。
リーンハルトは馬車から出ているラヴィニアを目を見開いて見てから、開いてる馬車の入口から体を出して見守るカナリアを見た。
「リーンハルト様。もう歩き続けて娘は限界なんです。せめて娘は乗せて欲しい。使用人を下ろしてくれ」
リーンハルトが口を開く前にサーシャが言葉を遮る。
「前例を作ったら全員が黙っていないし、押し寄せて暴動が起きる。足の痛みや疲れなら聖女に治してもらっているはずだが?」
「っ!我々は貴族ですよ!それなのに平民と同じ扱いで歩かされるなどあってはならんことだ!」
「有事だ。 そうだろう? それに……」
サーシャはラヴィニアの前に立つアビゲイルを親指で指さし全員の視線を集めた。
「彼女も貴族だ」
「……は? 兵なのでは?」
「兵ではあるな。 勘違いしているようだが我がエスメリアは平民、貴族等関係なく武術を学び貴族のも兵として働いている。ここに居る兵の半分は貴族の位を持っているし彼女もその1人だ。俺の専属護衛だから腕は保証するが?」
「……貴族だと?まさか、冗談だろう?貴族の女が武術などただの護身術みたいなものだろう……」
顔を引き攣らせて言う男にサーシャは鼻で笑いアビゲイルを見る。
それに気付いたアビゲイルは、片腕を下ろしスカートの端を持って片手は胸に添えた。
軽く頭を下げてスカートを広げるエスメリアの礼をしたアビゲイルは頭を上げた後強い眼力で男だけでは無い、ファイライトの生き残り全員を見渡して口を開く。
「お初にお目にかかります、私はアビゲイル・エピリック。エピリック辺境伯の娘として幼少期より武術を嗜んでおります。お見知り置き下さい」
「エピリック!?アビゲイル、辺境伯様の娘なのですか!?」
ラヴィニアは驚き後ろからそっと背中に触れると、アビゲイルは振り向きニコリと笑った。
「……漆黒の髪に赤い瞳の一族と伺っておりました。本当なのですね」
「はい、 私達は皆一様に黒髪に赤い瞳ですね。土地柄的に鍛えていますから戦闘も心配しなくてよろしいですよ」
「エピリックの方の力を過小評価など致しません」
「光栄です、お嬢様」
その美貌を見せつけるように笑ったアビゲイルに、丁度馬車から降りていた使用人たちに混ざって見ていたアンジェリーナはポツリと呟いた。
「……サーシャ殿下の専属護衛」




