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2-1

本日2回目の更新です


 あれから数日が経過した。

 ラヴィニアは何度となく自分のせいだと思い泣いては、あの時サーシャが言ってくれた言葉を思い出してなんとか浮上することを繰り返していて精神状態は安定していない。

 そんなラヴィニアに言いたいことがあるのか何度もラティスが訪れていた。

 しかしその度に必ず隣にいるサーシャが追い払っていた。

 時には父のリーンハルトが、時には母のカナリアが、沈みこんだ娘を守るため気丈にも王太子に歯向かい続けている。

 余計に怒りを募らせてラヴィニアに食ってかかるラティスを周囲はどのように見てるのか少しも理解していなかった。


「まだ来ないか」


「そろそろかと思いますが」


「悪いが外の様子を見るついでに確認して来てくれ」


「はい、我が君」


 フロリアンは頭を下げて城からの外に向かうと、それを聞いていたラヴィニアは自然と顔を上げた。


「……何が来るのですか?また、噴火ですか」


「いや違うエスメリアから援軍と物資だ。俺がいる事と、叔母上がいるから必ず何らかの連絡はあるはずだ」


「……エスメリア帝国」


「あぁ」


 噴火はどうやら1回だけではなく、その後2回噴火した。

 それからはガスも発生しないで山は沈黙している。

 まだ危険と判断されてその場に待機の命令が出され国全体に王城から魔法で拡張された音声が響く。

 自宅や使えている屋敷にいる人々はまだいいが、外にいた人々は温かさはあるが食べ物や飲み物がない場所で数日過ごすこととなった。

 近くに家があればそこに身を寄せようとしたが、それが貴族であったら入ることを拒否された平民は屋外で空腹に耐えるのだ。

 また、追加で襲いかかる噴火からの溶岩や炎を纏う石が飛来するのを守られているとはいえ目の前で見続け心に傷を受ける人が多数いた。


 そんな日を数日過ごしたファイライトの生き残り達は、ようやく訪れたエスメリアからの援軍にやっと生きた心地を味わったのだ。


「……ご苦労だったな」


「サーシャ様、怪我は無さそうですね」


 フロリアンと共に来たのはサーシャ専属の護衛騎士のうちの1人、サーシャの無事を確かめるとホッと息を吐き出していた。


「皇帝より、復興への支援を行い事と皆さんの受け入れを行うとの事です」


「まぁ、予想通りだな」


「はい、それにつきましてアンナ様の帰還が絶対条件であるとのことです」


「あぁ、わかっている」


 ふぅ……吐息を吐き出したサーシャは、護衛騎士である女性を見た。


「アビゲイル、頼みがある」


「はい、なんでしょうか」


「護衛を頼みたい。相手は彼女だ」


 指さしたのは落ち込み下を向くラヴィニア。

 まだすぐに気持ちを切り替えれないラヴィニアはボーッとしていることが多い。

 ラティスは何度かラヴィニアに怒鳴りつけに来ていたが、今のラヴィニアを放ってはおけないとサーシャとフロリアンがそばに付き添っていたのだ。

 今からはサーシャも動かなくてはいけない。

 その為ラヴィニアから離れなくてはいけなく、アンジェリーナが常にそばに居るとは言ってもラティスの暴言から守ることは難しいだろう。


「頼めるか?」


「お任せ下さい」


 アンジェリーナもそばに居たが的確にラヴィニアだと認識したアビゲイルはニッコリと笑って左胸に右手の拳を押し当てた。


「たのんだ」


 ラヴィニアを一瞥してからフロリアンと共に歩き出したサーシャを見送りアビゲイルは歩き出す。


「お嬢様、失礼致します」


「……どなたですか?」


「私はアビゲイルと申します。サーシャ様の専属護衛をしています」


「フロリアンと一緒?」


「はい、フロリアンと一緒です」


 ラヴィニアが座る椅子の前に跪き右手を左胸に当てて挨拶をするアビゲイル。

 そんなアビゲイルを首を傾げて見た。


「我々はエスメリアからの援軍としてきました。これより各自散らばっている皆さんを城へと集めた後一時避難としてエスメリアへと向かいます。」


「エスメリア……へ?」


「はい。その後は我が皇帝とファイライトの王との話し合いになるかと思いますが、それまでの皆様の身の安全はエスメリアが援助を行いますので御安心ください」


「ありがとう……ございます」


「はい、つきましては私アビゲイルはこの時よりラヴィニア様付きの護衛となります。どうぞよろしくお願い致します」


 笑って言ったアビゲイルにラヴィニアは目をパチパチとさせる。


「……え!護衛って私にですか!?」


「はい、我が君からの命です」


「サーシャ様が……」


「私がしっかりとお守り致します」


「ありがとうございます」


 サーシャの心遣いに胸が打たれる。

 暖かい気持ちが溢れ久しぶりに笑った気がした。

 そんなラヴィニアの生気無かった表情にちょっとだけ表情が浮かんだ事にアビゲイルは安心する。


「(王太子妃として教育された人だとは言っても精神は武人とは違って脆いのだろう。我が国には居ないか弱い女性だ、気をつけなければいけないな)」


 エスメリアは平民にも徹底した武術の心得を学ぶよう教育課程にプログラムされている。

 その訓練で女性も皆強い。肉体的にも精神的にも。

 生まれたての子供を相手にするように優しく優しく。

 胸元が大きく見える黒のワンピースに黒と光沢のある紫の甲冑は服の上から動きやすいように軽く改良されている。ボリュームあるスカートが立ち上がった時にふわりと揺れた。

 シュッとした頬に切れ長の赤い目、漆黒の髪を肩よりも少し長く伸ばし、前髪も頬まで伸ばしているアビゲイルは髪を手で払い除け、珍しく他人を心配する主人を思い出し少しの興味をラヴィニアに抱いた。

 









 数刻の時間を待ちエスメリアへと出立する事が決まり、王から拡張された声明が全員に届いた。

 それに伴い家の残っている貴族達は1度帰宅し荷物を纏めて城に再集合する事となった。


 ラヴィニアもアビゲイルを伴い父母、アンジェリーナと共に帰宅する。

 家の周辺は溶岩が流れてたのがわかり目を細めて周りを見る。

 既に固まりその上を歩くのだが、生きた人の気配は無かった。


「………………」


 「ラヴィニア」


「……早く、帰りましょう」


 リーンハルトが心配そうにラヴィニアを見る。

 あの噴火の後、取り乱して叫ぶように前兆はわかったのに王に伝えられなかった、私のせいで!と言いサーシャに支えられる娘を見て心が抉られる気持ちになった。

 あのパーティの前、数日間は何故か仕事が途切れず緊急だと帰宅すら出来なかった。

 それもほとんどがラヴィニアから無駄な話が王に行かないようにと考えたラティスからの指示だったのだが、それを知らないリーンハルトはただただ仕事に明け暮れた。

 娘の謹慎すら聞かされずに。

 もし知っていたなら王に直談判して何がなんでも帰っていただろう。

 母もパーティの準備に家を開けていて、ラヴィニアはあの時話をする人がいなかった。

 カナリアも唇を噛みラヴィニアを見つめた。


「……ただいま」


 静まり返る屋敷にリーンハルトの声が響く。

 その瞬間、侯爵家ではありえない足音をたてて玄関ホールに現れた使用人達は泣き腫らした顔をしていた。


「……みんな」


「……無事、だったか……」


「……この人数しかいない、のね」


 100人以上いた使用人達は17人しか居なかった。

 料理人2人、侍女6人、執事3人、庭師2人、下働き2人。そして、外に放置されていて助けを求めてきた平民2人。

 アッティリアの使用人は15人しかいない。

 花冠の日だったからだ。

 通常ならみんな居たのだが、花冠の日はパーティに出たり祭りに出たり実家でお祝いをしたり最低限の使用人を残して数時間の自由時間を儲けられる。

 だからこそ、使用人のほとんどが生き残らなかった。

 そこにはマーサもクララもいない。

 ラヴィニアはボタボタと涙を流すと、リーンハルトはそっと背中を撫でた。


「……みな、数刻でエスメリアへと避難を開始する。荷造りをしなさい。我々のは勿論自分たちのもだ。……しばらく帰れないだろうから貴重品などは忘れないように」


「「「「「かしこまりました」」」」」


「君たち、よく逃げて来たね。君たちの荷造りも我が家のものを使うといい。誰か手伝いを」


「あ、ありがとうございます……」 


 兄弟だろうか、まだ幼いふたり。姉は弟を守るようにギュッと抱きしめていた。

 そんなふたりの前にしゃがみこんで言ったリーンハルトに、張り詰めていた姉は涙を滝のように流した。

 侍女の1人は2人を連れて離れ荷造りを始める。

 荷造りに使うものは沢山ある。

 100人以上の人達がいて、その人たちはすぐ隣の使用人用の建物で暮らしていたのだから。


「……ラヴィニア様、荷造りを致しましょう」


「……ええ」


 涙が流れる顔を手で拭って頷くラヴィニア。その後ろにはアビゲイルがいる。

 アンジェリーナも自室に向かい荷造りを始めた。


「アビゲイル様、お手を煩わせてすみません」


「いいえ、それと私のことはアビゲイルとお呼びください。……アビー、でもかまいませんよ」


 笑って言ったアビゲイルにラヴィニアは弱々しい笑みを向けた。

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