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パーティ開始の1時間前、かなり前に準備を終わらせていたラヴィニアの前に白のタキシードを着たラティスが迎えに来た。

 全身白に纏めたラティスの差し色は紫。

 だが、胸ポケットには薄い茶色のハンカチがしまわれていて少しだけ見えている。

 その色はラヴィニアに何も関係する色ではなく、むしろアンジェリーナを連想させる。

 通常では、ラヴィニアの色であるピンクをつけるのだが、それを隠そうともせず茶色のハンカチを大事に持っていた。


 そばに控えるマーサは厳しい眼差しでそのハンカチを見るが今更ピンクのハンカチを用意するには間に合わないだろう。


「……では、マーサ。行ってまいります。」


「はい、お帰りをお待ちしています」


「ふふ、マーサはラフティーとも楽しんで来てお話を聞かせてくれるのを楽しみにしてますわ」


「勿論、沢山用意しておきますよ」


 朗らかに話す2人を横目にラティスはアンジェリーナを探す。

 それに気付いたマーサは口を開く。


「アンジェリーナは支度中ですよ、王子殿下」


「あ、あぁ、そうか。……マーサは祭りに行くのか?」


「ええ、ラフティーと行ってまいりますよ」


「そうか、気をつけて行けよ」


「はい、ありがとうございます」


 冷めた目で見ていたマーサに気付き慌てて話題を変えたラティスに、しっかりと返事を返す。

 その内容にラティスも思わず笑い楽しんでこいよ、と付け加えるとマーサも朗らかに笑った。


「「「お気を付けて行ってらっしゃいませ」」」


 屋敷の皆に見送られたラヴィニア達は馬車へと乗り込み向かい合わせに座った。

 ラヴィニアは、サーシャのおもてなしが中止になったため、アンジェリーナと一緒に登城する事が出来なくなり義兄との微妙な関係のアンジェリーナを心配しながらも城へと向かった。


「……お前は黙って僕の後ろについてくるだけでいいから、無駄なことは話さないように」


 馬車の中で外を見ながら言ったラティスにラヴィニアは小さく返事を返した。

 既に外は暗くなってきていて子供達がお金を握りしてめ走っている。

 子供らしいその姿に思わず笑みを浮かべるとラティスに怪訝そうに見られたが、2人は城に到着するまで話をすることはなかった。





「着きました」


 馬車が止まり外から扉をノックされ扉が開く。

 先にラティスが降りラヴィニアに向かって手を差し出した。

 お互い無表情のまま手を取り馬車から降りたラヴィニアはラティスに連れられ会場へと向かった。


 開始20分前、既に会場には貴族達が集まり皆が真っ白なドレスを着ているため一面が白に染っている。

 至る所に飾られたホワイトライティアが今日が特別な日だということ再認識させる。

 ラヴィニアはラティスの手を取り会場に入ると周囲の視線を一気に集めた。

 ラティスと一緒に居ることは勿論なのだが、今着ているドレスにも注目を浴びていた。

 可愛らしいデザインにショートブーツというラヴィニアに、ピンヒールを履く女性達は自分の足元を見る。

 華奢な靴は定番になっている白のフワフワした服に合っているのだが、少しゴツさのある可愛らしいデザインのショートブーツも雰囲気が変わりとても似合っている。

 さらに、足をしっかりとホールドしているので長時間のパーティや、ダンスにも負担が少ないだろう。


「素敵だわ」


「まぁ、ショートブーツをパーティに履くなんて……」


「あら、とても似合っていましてよ」


 なかには批判的な言葉を出す人もいたが、伝統的なピンヒールの靴に固執した考えを持っているのだろう。

 靴を履き替えても雪で滑りやすい床をピンヒールで歩く女性は会場までに転倒に気をつけなくてはいけないが、ショートブーツを履くラヴィニアにその注意は必要ない。

 作られた笑みは会場に着くまでも変わらず笑みを作っていた。


「ラヴィニア様お久しぶりにございますね」


「まぁ、ガーネット様!お久しぶりでにございます」


 男性の腕に手を回している真っ白な髪をした女性は、黒い瞳を細めて微笑んだ。

 ガーネット・カーディナル、ラティスの異母姉である。

 すでに嫁がれていて王席を抜けているガーネットは、ガーディナル公爵夫人として夫であるダダンと共に参加していた。

 ガーネットはラティスから手を離して礼をする。


「ラヴィニア様、とても似合っています。ドレスにショートブーツとは斬新でいいですね」


 社交辞令とは思えない暖かな微笑みに賛辞を向けてくれるダダンにラヴィニアは微笑み礼をする。


「ありがとうございます。今年もカサンドラのヴァレンティノに作って頂きました」


「カサンドラのドレスは素晴らしいわよね!」


「はい、とても」


 カサンドラの店名にラティスがピクリと反応するのを横目で見たら、ガーネットがラティスにラヴィニアに似合っての一言でも言ったの?とチクリと釘を刺す。

 不仲な様子は周りに知れ渡っていて、会う度にガーネットはチクチクとラティスに言っていた。


 ガーネットはラヴィニアの事を気に入っているので妹になるならラヴィニア以外いないと思っている。

 だからこそ、不仲の為に婚約破棄からの新たな婚約しとして娘をと企む貴族が後を絶たない今の現状を憂いていた。

 しかし、ラヴィニアは強い権力と発言を許された家紋である為王族からも簡単に婚約破棄は言えない。

 これには政治的立場があり、完全なる政略結婚なのだ。






「……ラティス王子」


「サーシャ殿下」


 ガーネットと別れた後、2人はまた腕ん組んで歩いていた。

 明らかにラティスの機嫌は急下降しているが、自然に笑みを浮かべ、王太子としての面子は守られている。これは子供の頃からの癖のようになっていた。

 パーティで不機嫌な程完璧に近い笑みを浮かべる。

 そんな二人の前にサーシャと、その後ろに控える護衛騎士のフロリアンが来て渡されたワインを軽く掲げた。


「サーシャ殿下」


「ラヴィニア嬢今日も可愛らしいね」


 サーシャは笑ってラヴィニアを見ると、昨夜の事を思い出し顔を真っ赤にさせた。

 真っ白なドレスに包まれたラヴィニアは赤らめた顔を隠すように、コツリと靴音を鳴らして足を引き礼をすると、頭を下げた事によりサーシャとフロリアンの足元もよく見えた。

 同じく白の礼服を着たサーシャと、特注であろう白一色の軍服を着たフロリアン。唯一グレーの靴だけ色があった。


「ありがとうございます。サーシャ殿下もとても素敵ですわ……それとフロリアンもお久しぶりです。白の軍服も素敵ですわよ」


「ありがとうございます、アッティリア令嬢」


 ふわりと微笑みラベンダー色の髪が揺れる。

 彼、フロリアンはサーシャの乳母の息子で幼少期から親交のある人物であった。

 身分は平民であるが、その鍛え抜かれた肉体と魔法技術や武術の鍛錬を怠ることなくストイックに、いや変態的なまでに強さを求めた完全なる叩き上げでサーシャの護衛騎士を勝ち取った猛者である。

 見た目は細くしなやかな筋力をつけ甘いマスクの青年だが、敵とみなした人には容赦のないサーシャ至上主義である。


 今回もサーシャの護衛として一緒に来ていたのだが、ラヴィニアは今日まで会うことはなく久々な再会であった。

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