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本日3回目の更新です
「……似合うかしら?」
「勿論でございます」
姿鏡の前で振り向き使用人たちを見るラヴィニア。
満面の笑みと共に返ってきた返事にラヴィニアは頬を染めてはにかんだ。
白で雪をモチーフにしたドレスは動く度にフワフワと揺れて髪や瞳と同じピンクの差し色を入れた可愛らしいデザインとなっている。
髪も白のリボンで編み込み緩く三つ編みに結んでいる。
幸いにも右足は痛みも腫れも引きダンスも問題なく踊れそうだとホッと胸を撫で下ろした。
しかし、一応と昨晩遅くまでアンジェリーナのドレスの直しをしてくれていたヴァレンティノは痛めた足の為にローヒールのブーツの代わりに完全にヒールのない靴もあると見せてくれた。
流石に子供でもちょっとのヒールくらいは履くからと断ったのだが。その心遣いがまた嬉しかった。
「皆はパーティの間どうします?お祭りに行くのですか?」
「はい!今日はその、彼氏と一緒に行こうかと思いまして」
「まぁ、とても素敵!クララも楽しんできてくださいね」
「はい!」
「マーサは?」
「私も久々にラフティーとデートをしてきますのよ」
うふふ、と笑うマーサはまるで少女のように楽しみだと全身で表して伝えてくれた。
「それはいい事だわ、マーサもラフティーと楽しんで……あ、でも、私が帰る頃には居てくれないと嫌ですよ?」
毎年、花冠の日は特別で準備からパーティまでワクワクと楽しみでしょうがないのだが、ラティスに辛辣な言葉を投げかけられ落ち込むのは、通常のパーティと変わらない。
その度にラヴィニアをマーサが慰めてくれていた。
多分今年もそうなるだろうと、先手をうつラヴィニアにマーサは楽しそうにふくよかな体を揺らして笑った。
「はい、このマーサいつでもお嬢様の帰りをお待ちしておりますよ。えぇ、楽しい時も悲しい時もマーサに、話を聞かせてくださいな」
それも結婚までとわかっているからラヴィニアは今だけと、全力で甘えてしまうのを許して欲しいと困ったように笑ってマーサの手を握った。
「マーサのお祭りのお話も聞かせてね、ラフティーとのお話も聞きたいわ」
「まぁ、お恥ずかしいわ」
おほほほ、と笑うマーサだが、満更でもない顔をしているのがまた可愛かった。
「では、アンジェリーナ達も準備をはじめて」
マーサの手を離してラヴィニアはドレスが汚れないように椅子に座って外を眺めた。
今日はいつもより楽しそうな子供の声が聞こえる。
きっとまだお祭りは始まっていないのにワクワクした子供達は広場へと向かい準備する大人達に苦笑されるのだろう。
ファイライトの1番広い自然公園に、今は雪像が並んでいる。
この日のための準備は数ヶ月前から始まり町人達は休みの日に自主的に集まって雪像を作り出す。
芸術的な建物などを作る人もいれば人物を作る人もいて、毎年綺麗な女性を蠱惑的に作るおじいさんに敬意を持ちエロジジイと呼ばれているのだが、そのおじいさんは何度か雪像グランプリに輝いている。
今年も1番目立つ場所に緩やかに髪を撫で付ける蠱惑的な女性を作っていて満足そうに笑い、その周りには雄叫びを上げる男性達と、冷たい視線を向ける女性たち。
これも毎年の事だ。
子供達は炊き出しとして出される食事の他に用意されている出店を見て周りこれを買うんだ!とカウンター越しに話してはまだ早いよと窘められている。
いつもと同じお祭り前の風景を横切る白い服を着た栗色の髪を肩までに切り揃えた女性。
錫杖を持ち、その後ろには神官が一人ついていた。
「あら!聖女様!」
「こんにちは、皆さん。今日のお祭りも盛大ですね」
「年に1回の特別な日だからな!もう3ヶ月前から準備よ!」
「俺は4ヶ月前からだぜ!」
「まぁ!凄い」
年甲斐も無く言い争う男性2人に聖女はコロコロと笑った。
まだ20歳を過ぎたくらいのその女性は寒いだろうに羽織すらなく決められた法衣を身につけ赤くなった鼻先をそのままに微笑んでいる。
「では、この国の安寧を私はしっかりと祈らなくてはですね」
錫杖を両手で持ち笑う聖女様に町民たちも笑った。
「それでは行ってまいります。精霊様の御加護があらんことを」
ゆったりと頭を下げた聖女に、両手を胸の前で組んだ町民達も合わせて頭を下げた。
「精霊達の御加護があらんことを」
聖女は微笑み背中を見せた。
聖地巡礼の為に教会から来た聖女は、年間様々な場所へと向かう。
4人の聖女が振り分けられ、そのお役目を行う為にこの寒い地域にも薄い法衣1枚で半日から1日を跪き祈りを捧げるのだ。
その場所はこの自然公園から少し離れたホワイトライティアが群生する広場。
そこには昨日神官が用意した祭壇があり、そこに錫杖を置いて祈るのだ。
このファイライトで初めて花冠が出来、妖精が生まれた地と言われているこの広場で。
「……今年も素晴らしい花の群れですね。この寒い地域だけで見られる雪と花のコントラストが本当に素晴らしいです」
寒さに頬を真っ赤にさせながらも、聖女は嬉しそうにその光景を眺めた。
そして、錫杖を置き祭壇の前で跪く。
雪に直接足をつけるため膝から脛にかけて雪が体温に溶け法衣に染み込んでくる。
空からチラチラと振る雪も少しずつ頭や体に降り積もるが、それを気にする事もなく聖女はゆっくりと瞼を閉じてこの国の安寧と豊穣を祈りだした。
神官はその様子を無表情で眺めながらある方向に視線を向ける。
この国から離れたガスを発生する火山の方角を。
「そういえば、今年の神官様はおひとりだったわね?」
「昨日はお2人いたわよ?」
「あら、じゃあ体調でも崩したのかしら?」
「どうなのかしらね?」
毎年聖女のお付として一緒にいる神官は2名いて、今聖女の傍には一人しかいなかった。
それを集まっていた女性陣は話していた。
見目麗しい方が多い神官は、この小さな国の女性達にとって目の保養になると毎年密かな楽しみだったのだ。
銀髪を長く伸ばした優しげな男性が確かに昨日いたのに、今日は居ないね?と話す女性達も次第にバラけてお祭りの準備へと取り掛かったのだった。




