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ヴァレンティノと職員2人の頑張りにより深夜にはアンジェリーナのドレスの直しが完了した。
アンジェリーナはほぼフィッティングの為に部屋を行き来していて花冠の日の準備とフィッティングにその日はあっという間に終わってしまったとラヴィニアの就寝準備の時に話していた。
「それにしても、ラティス様は何を考えているのでしょうか。あんなドレスを着たら噂の的になるのは考えなくてもわかるでしょうに……それともわざと……?」
頬に手を当てて言うラヴィニアにアンジェリーナは頭を抱えてしまう。
なによりも結婚相手を優先して探しているアンジェリーナにとって困ることばかりだ。
「……困るわ、それに私……」
「アンジェリーナ?」
うっすらと頬を染めて言うアンジェリーナにラヴィニアは前屈みになる。
「まさか!気になる方が出来たのですか!?」
「気になる……というか、あんな人初めて見たなって……」
「誰!?」
「…………この間ラヴィニアが図書館で話していた人」
そう微笑んで言うアンジェリーナにラヴィニアは絶句した。
思わずはしたなくも机に頭を押し当ててしまう。
そういえば、あの時は他者と話をするからと話しの内容が聞こえない位置に、しかし2人の姿が見える場所で待機していたアンジェリーナ。
まさか地震の話をしているとは思っていなかったのだろう、真剣な表情で話をして時には笑みを見せるサーシャをあの時のアンジェリーナはラヴィニアを見守る事すら忘れてサーシャを見つめていた。
帰宅の時も普段は必ず聞くだろう相手の確認すら怠ったアンジェリーナは惚けた表情で窓の外を眺めていた。
そのアンジェリーナの様子に心配になったラヴィニアは何度か声を掛けたがアンジェリーナには聞こえていなかった。
その後の仕事中も何度か動きを止めて顔を赤らめている時があったが、まさかアンジェリーナが、サーシャに気を持っているとは思いもしていなかった。
「……アンジェリーナ、あの、ですね?あの方は……」
「あ、ラヴィニアに誰か聞き忘れていたわ職務怠慢だった!あの方は誰?」
それは自分が知りたい思いが強いとアンジェリーナ自身もわかっていた。
目をキラキラとさせ言いずらそうに口を開くラヴィニアをじっと見る。
「……あの方はエスメリア帝国の皇太子、サーシャ殿下です。パーティの賓客として早めに来ておりました」
「こ……皇太子、殿下?」
「ええ……アンジェリーナ、あの……」
「…………いや、素敵だなって思っただけだから!私も素敵な結婚相手早く欲しくなっちゃったよ!明日が楽しみだなぁ!ラヴィニア、明日のためにもう寝た方がいいよ!うん!ほら、ベッド行って、おやすみ!」
震える声で、早口でまくし立てるアンジェリーナにラヴィニアは眉を下げた。
腕を取られてベッドへと引っ張られる。
無理やりベッドに上げられ少し乱暴に布団を掛けられたラヴィニアは心配そうにアンジェリーナを見るが、目を合わせることなく早口に就寝の挨拶をして部屋を出てくアンジェリーナに声を掛けることが出来なかった。
「……皇太子殿下……かぁ……望みないじゃん、私って本当に男運ないなぁ……」
ラヴィニアの部屋を出たアンジェリーナは扉に寄りかかり俯く。
髪で隠れた表情は暗く涙が溢れていたが、早くわかって良かったんだ、切り返えなきゃ……と呟き、外出禁止令が出ているが寝静まった屋敷を1人後にしたのだった。
アンジェリーナが外出したのを誰も気付く人は居なかった。
そしてアンジェリーナが屋敷を出て数十分後、別の人影が屋敷の前に現れた。
屋敷を見上げ、まだ電気がついているラヴィニアの部屋を見たあと足音を消して歩き出す。
そっと屋敷に侵入したその人影は真っ直ぐにラヴィニアの部屋へと向かい静かにノックをした。
周りを見渡し誰もいないことを確認していた人影は、室内から聞こえるラヴィニアの入室許可の声を聞いて扉を静かに開けた。
「こんな時間にどうしましたか?何か忘れ物でも?」
薄い青のナイトドレスを着たラヴィニアがストールを手に取り扉までくるとそこにいる人に目を見開いた。
「!サ……」
「しっ……静かに」
優しくラヴィニアの口を片手で隠すように覆った人影、サーシャは周りをもう一度確認した後軽くラヴィニアを部屋の中へと押す。
ラヴィニアはそれに逆らうことなく3歩程後ろに下がった。
「……サーシャ殿下、なぜ……」
「悪い、話をしたかったんだが城には来ないし、先触れを出しても返事はないし屋敷に来ても謹慎中だと門前払いされてな。こうしか方法がなかった。」
「も、申し訳ございません」
外出禁止になってサーシャと話ができない事はラヴィニアも気にしていた。
しかし、屋敷から出れないラヴィニアには何も出来ずパーティまで待つしかないと思っていた。
しかし、サーシャは待ってはくれずこうして忍び込んで来たと言う。
パーティが終わった次の日には帰国するから明日の朝には叔母の帰国をするかどうか決めなくてはいけないという。
「俺も女性の部屋に深夜に忍び込むような礼の欠けたことをして悪いと思ってるが」
かなり動揺してはいるが、流石に部屋に入れるのは……と断ったが、サーシャの方足は扉の中に入っていて閉めることが出来ない。
至近距離で顔を寄せて言うサーシャ、いつもセットしている髪が今はサラサラと落ちていて目元を隠している。
「……あ、あの……サーシャ様、男女が2人きりで部屋にいるのは……あの、いけませんので、その……」
「そうだな、分かってるよ」
「わかっているのでしたら……いけません」
「しー……静かに」
優しくま肩に手を掛けられ軽く力を入れられる。
その時、遠くから足音が聞こえてラヴィニアの顔は強ばる。
眉を下げてサーシャを見上げると、廊下の奥へと視線を向けていたサーシャが、ぐっ……とラヴィニアを押して部屋へと入ってきた。
ぱたり……と小さく音がなり完全に部屋に入った2人は無言で見つめ合う。
「……サーシャ殿下……」
「……部屋に入ったな。今更出ろとは言わないだろ?」
「……狡いです」
渋々ラヴィニアはサーシャを誘導した。
部屋の前で立ち尽くすのも……と、どうぞこちらにと促したのはベッドがある続き部屋だった。
その部屋を見て少し目を見開いたサーシャを横目にベッドサイドにあるランプに明かりを灯して他の灯りを全て落とした。
「まさか寝室に連れ込まれるとは」
「ち!違います!……椅子へどうぞ、いつも眠る時はこのランプだけ付けるのです。これ以外に灯りがありましたら乳母か侍女の誰かが眠っているか確認に来てしまうので」
「……なるほど」
過保護だな、と小さく笑って座ったサーシャにラヴィニアは困ったように笑い正面の椅子に座った。
「まず、謹慎って何をしたんだ?」
足を組み肘掛に手を置いてゆったりと座るサーシャに、姿勢を正して座るラヴィニア。
どちらがこの部屋の主かわかったものじゃない。
「……何もしてません。調べ物をしているだけでしたがラティス様にしてみれば私のする事は目に余るようです」
「……あぁ、ラティス王子か」
納得して頷くサーシャ。サーシャから見てもラヴィニアに対するラティスの対応は誠実ではなく見苦しいと思っているのだ。
「最悪明日のパーティ前にでも話を聞こうと思っていたが……」
「申し訳ございません……」
「君が謝る必要はないだろう?」
パーティ前のサーシャへのおもてなしという名の接待すらラティスから外されてしまったラヴィニアはサーシャに接触ができない。
パーティの間はラティスが隣にいてサーシャと話し込むことは出来ないだろうから。
「サーシャ殿下、この間の話しの続きなのですが地震と異常気象の気温上昇、これらが合わさると起きる現象……いえ、逆ですね。原因が巨大過ぎるのです」
「……原因はなんだった?」
サーシャはじっとラヴィニアを見つめて聞くと、薄いナイトドレスのスカートをギュッと握りしめるその手が小さく震えていた。
サーシャは立ち上がりラヴィニアの隣に来てその場で跪き震えながら強く握る白くなったラヴィニアの手を掴んだ。
優しくその手をスカートから離させラヴィニアのピンクの瞳をじっと見る。
「……噴火ですわ」
「噴火?」
「ええ、火山の噴火の予兆です」
まっすぐにサーシャを見て言ったラヴィニアのその顔色は青を通り越して白に近い。
サーシャの手を無意識に握りしめながら口を開く。
「……この国には活火山が丁度王城から後方の街の外にありますの。その活火山の噴火が予測されます。頻発する地震に火山の活性化によって地面からの熱が高まり気温の上昇と雪解けをうながしております。他にも……火山の周辺にガスが噴出される様子も観測されましたわ」
「王に進言は?」
「する前に謹慎ですわ。お父様にお知らせしようとしましたが王城からお帰りになりませんの」
「……ラティス王子から足止めをくらってるのかもな」
「…………」
俯き言葉を失うラヴィニアを静かにサーシャは見る。
「幸い、今すぐの噴火ではなさそうなのです」
「それはなぜわかる?」
「……今から2000年程前、まだ精霊様たちがお姿を見せてくださっていた時代のお話なのですが、その時も大規模な噴火があったようなのです。その時も少しずつ気温は上がり地震が頻発されていました。今と同じ状況のようです。それから雪が全く降らなくなり地面に雪が無くなりこの国で長袖を着る人が居なくなった頃、街を覆い尽くすガスが火山から流れてきて……そして……そして……そう、強い地震が起きて……そして、火山が噴火しました。街に溶岩と岩石が飛んできて、住民の八割は火山にのまれ街は……ほぼ全壊して……」
「ラヴィニア嬢!」
「…………え?」
「……大丈夫か?」
ダラダラと涙を流しているラヴィニアは焦点の合わない目をサーシャに向けた。
「……私?」
「……その2000年前の噴火の話は誰に聞いた?」
「…………これは、誰もが寝物語に聞かされるこの国の、童話……で……お母様が……」
そこまで話したラヴィニアはカッと顔を赤らめ動揺した。
「私……私、調べていたはずですのにいつの間にか童話と混同していたのですか!?」
それはいつも情報を納得するまで調べ尽くすラヴィニアにはあまりにも珍しく、自分自身も激しく動揺している。
サーシャは、ふむ……とラヴィニアを見てから掴んでいた手の上にもう片方の手を重ねてギュッと握る。
それに気付きさらに顔を赤くしたラヴィニアは空いている手を無駄に左右に振った。




