12
12
王立図書館でサーシャと会ってから3日が経過した。
あれからラヴィニアは気温の上昇について調べる為に閲覧禁止区域から気温についての資料、さらにベンジャミンと新設された異常気象についての調査内容、資料を頼み込み調べ尽くしていた。
やはりベンジャミンからの協力は期待できなかったが、知り得た内容をベンジャミンに話すとその表情は如実に語っていた。
今現在手にしている情報は、間違ってはいない。
しかし、慌てる素振りがないベンジャミンはきっと全ての情報を持っている訳ではなくとも、それによって引き起こされる惨事をなんとなく予想出来ていたのだろう。
自分が調べた結果を良く調べ尽くしたな、と満足そうにラヴィニアを見ていたのだから。
自分はもう何も出来ないから、後は頼む……と掠れるような小さな声で呟いていた。
「……でも、これが本当なら大変な事です」
図書室の一角で広げられた書類を見つめるラヴィニア。
そこには信じられない内容が書かれていてラヴィニアの表情は強ばり青ざめている。
そばに居るアンジェリーナは、口元に両手を当てていた。
「……これ、本当に?本当に起きるの……?」
人目がある場所なのに素で話すくらいに余裕が無いアンジェリーナ。
ラヴィニアは顔を上げてアンジェリーナを見る。
「時期としてはまだまだ先になりそうではありますけれど、早めに王にお伝えして対策を取らなくてはなりません」
「……はい」
青ざめたアンジェリーナが真剣な表情で頷くのを見たあと、ラヴィニアはハッとしたように目を見開いた。
「そうだわ……アーティファクト、確認しなくてはいけません」
「何を確認するって?」
「!……ラティス様!」
散らばった資料を片付け立ち上がったラヴィニアの後ろから急に掛けられた声に弾かれたように振り向いた。
そこには怒りを顕にしたラティスの姿。
「お前は色々調べ回り一体何をしているんだ!」
「ラティス様!前から言っておりました地震についてです!これは単に地震が酷くなっているというだけではなく……」
「お前はまた!当てつけのようにこれは危険だあれは危ないと騒ぎ立てるのか!しかもエスメリアのサーシャまで巻き込んで!そのせいで弱みを握られたらどうする気だ!」
「弱みだなんて!今は国の存続の危機なのですよ!早く対処しなくては大変な事になります!私の話を聞いてください!」
「大袈裟に騒ぎ立てるな!他国の連中が来てる間は特にだ!お前は静かにしていろ。いつになってもお前は俺の感情を逆撫でするな、花冠の日まで屋敷から出るな。これは王太子命令だ」
「そんな!ラティス様!!」
ラヴィニアの動きを聞きつけたラティスが注意という名の暴言を吐き、後ろに控えている兵に顎で指示をするとラヴィニアは兵に優しくだが振り払われない力で腕を捕まれる。
「アンジェリーナ、ごめんよ学業は休みの期間に入ったのに僕はまだやることがあって……必ず花冠の日には君とダンスを踊るから許してくれるよね?」
ついさっき怒りの形相で怒鳴りつけていた人と同一人物とは思えない切り返しに蕩けるようなゆるゆるの表情にアンジェリーナは別の意味で顔を青ざめさせた。
「ラティス様!お願いします!王様にお伝えしなくてはいけません!」
「ああ、伝えておく。花冠のパーティの前、サーシャ様への接待は体調が優れないからラヴィニアはこれないと。無駄に変な事を吹き込まれたらたまったもんじゃないからな」
「ラティス様!」
「せいぜい足を治すようにおとなしくしてるんだな……アンジェリーナ、またね」
馬車に連れていけ、と兵に命令したラティスは呼び続けるラヴィニアに振り向くことなく図書館を出ていった。
ラヴィニアは膝から崩れ落ち床に座り込むのを兵が慌てて助け起こそうとする。
それに気付いたアンジェリーナがすぐにラヴィニアの力の入ってない体を支える。
「ラヴィニア様……」
「どうしましょう……」
兵に促され自宅に帰ってきたラヴィニアはマーサやクララといった侍女達に出迎えられた。
すでにラティスからの伝令が届いているようで
ラヴィニアは勿論情報を持っていると思ったアンジェリーナも花冠の日まで外出禁止を言い渡される。
「……お嬢様、大丈夫ですか?」
「暖かな紅茶を入れましたからクッキーと一緒に召し上がってください。」
ラティスからの伝令にどう書かれていたのかはわからないが、マーサ達のラヴィニアへの対応を見る限りあまり良い書き方はされていなかったようだ。
皆が皆心配だと物語っている。
「……皆、迷惑をかけてしまってごめんなさいね」
「何をおっしゃいます、お嬢様は何も悪いことなどしていないのですもの胸を張っていればいいんです」
マーサの暖かな手がラヴィニアの背中を優しく撫でる。
その温かさにじわりと目が熱くなるのがわかり両手で覆う。
「好かれていないのはわかっていましたが、私は気持ちを逆撫でしているらしいの。私の話、少しも聞いて下さらなかったわ。なんだか……とても惨めな気持ちに、なりますのね」
ジワジワと溢れる涙を何度もハンカチでおさえ、震える声で絞り出すように必死に話すラヴィニアを痛ましく見つめる使用人達は優しく労り自室へと促した。
「……お父様はいつ頃お帰りになるかしら」
「旦那様ですか?先程暫くは城に泊まり込みになると連絡を頂いておりますよ」
「……嘘でしょう?」
部屋に戻り飲み物を入れてくれるクララに聞くと、つい先程ご連絡がありました、と教えてくれる。
宰相をしている父から王に伝えてもらおうとしたが、それすらも出来ないとわかり愕然とする。
少し背中を丸めて口元を両手で覆うラヴィニアにクララはただ事ではない、と背中をさするが青ざめた顔は戻らなかった。




