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4回目更新です
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「ラヴィニア様、こちらを……あら?」
アンジェリーナが数冊の分厚い本を抱えて戻ってくると、ラヴィニアの隣にいるサーシャを見て足を止める。
未来の王太子妃に無遠慮にも隣に座り体を寄せて話をする男性がこの国に居たのかとアンジェリーナは目を見開くが、どう思い出そうとしても隣の男性に見覚えがない。
ラヴィニアもアンジェリーナに気付かず男性と話をし、ましてや笑みを見せ、時には頬を赤くしている様子に驚愕する一方だ。
そんなアンジェリーナに気づいたのはサーシャだった。
サーシャは黙ってこちらを見るメイド服を着用した女性に一瞬眉を寄せたが、すぐにラヴィニアが侍女に本を頼んでいると言っていたのを思い出し立ち上がった。
「ラヴィニア嬢の頼んだ本か?」
「は、はい……」
その圧倒的なまでの美貌にアンジェリーナは心ここに在らずな返事を返すと、重いだろうと颯爽とアンジェリーナから本を受け取りラヴィニアの元へと戻って行った。
「……え、誰あのかっこいい人」
ポツリと呟いたアンジェリーナは暫く動く事も出来ずサーシャを見つめていた。
普通だったら主人が誰かと公共の場で話す場合は少し離れた場所で主人の様子を見るのだが、アンジェリーナはラヴィニアから声を掛けられるまで赤らめた顔のままサーシャを見続けていたのだった。
「それで、何を読もうとしてたんだ?……地震についての本か?」
「ええ、個人的になのですが気になってしまいまして」
重なった本のうちから1冊を取るサーシャにラヴィニアは頷き別の本を手に取った。
本を机に置き片手でパラパラ中を見るサーシャは視線をラヴィニアへと向けると、膝に本を置き文章を指でなぞっている姿を見る。
「最近地震が多いからな」
「最近といいますか、少なくても1年前の私達が学生の頃には既に強い地震継続的にありました」
「1年前から……?」
「はい、それでも調べてないようなので私気になってしまいまして」
「……変だな、1年も前からこう頻発してるのに何もしてなかったなんて」
「正確には調査を中断した、が正しいみたいです」
「中断……?」
「私も詳しい事は……ですが、資料によれば元々地震について調査、研究されていたのが3年程前から中断されているようです。」
「……ラヴィニア嬢、悪いんだが詳しく教えてくれないか?俺が今回早めにファイライトに来たのも地震が関係してるからなんだ」
「地震が、ですか?」
「ああ、人伝にファイライトに強い地震が度々起きていると聞いてじい様が心配している。……ここには叔母上が眠っているからな。もし、何かありそうなら叔母上を連れて帰りたいと思っている」
「……そうだったのですね。私がわかる情報は少ないものですが」
そう言って調べていた内容を掻い摘んでサーシャに話をしていると、サーシャは顎に手を置き何かを考え込む。
「……3年前、ね」
「はい?」
「3年前なにか変わった事はあったか?」
資料は持ち出し禁止の為2人は普通の本を見ているだけで新たな情報は無い。
ただなんとなしに文章を目で追いながらラヴィニアの話を聞いていたサーシャが、ポツリと呟いた3年前という言葉。
ラヴィニアはサーシャへと視線を向けると、本から視線を外すことなく聞いてきた。
「3年前……は、イライザ王女殿下とガランディア国の王族との婚姻です」
「他は」
「その為に出来たガランディアとの貿易が盛んになりました。ガランディアからは麦等の食料を多量に安く購入、我が国からは宝石等ですわ」
「他は」
「設置されているアーティファクトの定期点検」
「他は」
「道路の補修作業の開始、こちらは資金不足により2年で中断しております。」
「……他は」
「…………異常気象……」
「異常気象?」
繰り返された質問、その内容が異常気象と答えた瞬間サーシャは顔を上げた。
「……今も続いています、気温の上昇です。年々少しずつですが気温が上がってきて雪の降る期間が短くなったり、溶けやすくなっております。」
「…………それじゃないか?」
「それ、とは?」
サーシャがじっとラヴィニアを見て答える。
「3年前から急に中断された地震の研究は他の何かの副産物だから隠すためと考えられるな、しかも他の研究も噛んでるみたいだ。なら、3年前からあるいはそれより以前から地震の強さや頻度を考えて急激に変わり始めた何かが別にあるんじゃないのか。」
「それが異常気象ですか?」
「地震は自然現象だ、それに近い何かじゃないか、と思ってな」
「……たしかに」
ラヴィニアは俯き包帯を巻かれた足を黙って見つめた後、膝の上に置いていた本をテーブルにおいて両手を組む。
「では、異常気象も地震と同じく何かの副産物の可能性がある、と」
「可能性にすぎないが」
「…………これは調べてみた方が良さそうですわ。しかも今異常気象についての研究が立ち上がったようなのです」
「随分タイミングがいいな」
「……これが良いタイミングなのか判断出来かねますが」
ふぅ、……と息を吐き出したラヴィニアをサーシャは面白そうに見る。
「それにしても、3年前の事を良くスラスラ出てくるな」
「え?あぁ、全て自分で調べたものですのである程度は記憶に残っております」
「……相変わらず記憶力がいいな」
「いえ、そんな」
記憶力が良いとわかっていたサーシャも、まさか3年前の出来事をこんなにスラスラと出てくるとは思っていなかった。
考えを巡らせ黙って聞いていたが、今更ながらにラヴィニアの記憶力には驚かされる。
サーシャは実状を見てしっかりと記憶し、それを的確に引き出せるラヴィニアの記憶力を高く評価していてラティスの婚約者でなかったらエスメリア帝国に勧誘したいくらいだった。
とはいっても、エスメリア帝国は武には男女共に力を入れているが女性の政治進出率は低い。
それはサーシャの悩みでもあるのだが。




