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本日3回目の更新です

「今日も行くのですか?」


 朝、ラヴィニアの髪を櫛で撫で付けながらクララが困ったように口を開いた。

 そんなクララを鏡越しで見たラヴィニアも困ったように笑う。


「無理はしないでと言われてしまったから今日は大人しく本を読むことにしますわ。あまり歩き回れませんものね」


 右足をゆらりと動かしため息をひとつ零す。

 今日も色々動き回ろうとしていたが、流石に痛みがまだ引かない為無理はやめようと思う。

 アンジェリーナが新しい包帯を持ってきて用意をしながら会話を聞いていたが、やっぱり動きたいんだろうな……と考えて


「ラヴィニア様、王立図書館の閲覧禁止区域でなければ私もご同行してよろしいですか?」


「え?」


「ラヴィニア様がご指示された本を私が取りに行きます。ですので、ラヴィニア様は座ってお待ちください。」


「……いいのですか?お願いしても」


「もちろんです」


 アンジェリーナの提案に笑顔で頷き、ラヴィニアはクララを見る。


「クララ、今日は髪を上げないで下さい。ゆっくり読書しますからキツく結ばないで欲しいの」


「かしこまりました」


 嬉しそうに笑ったラヴィニアにクララも笑い返して両サイドの髪を緩く編み込みそれをひとつに纏めて大ぶりの花の髪飾りを付ける。

 腰まである緩くウェーブのかかった長い髪は背中を覆い尽くすし、動く度にふわふわと揺れた。

 アンジェリーナに包帯を変えてもらい、しっかりと固定されているのを確認した後、緑と白のツートーンのクラシカルワンピースドレスを着てマーサの前へと立つラヴィニア。


「どうかしら?似合っています?」


「えぇえぇ、とても良く似合っておりますよ」


ラヴィニアの肩から流れる髪を優しく後ろに直しながら頷くマーサに、ラヴィニアは嬉しそうに笑う。


「今日のドレスはマーサが選んでくれたものでしょう?私はこれが気に入っているのです」


 スカートの端をちょこんと持ち上げ照れたように笑うラヴィニアに、マーサも目じりのしわを濃くしながら笑った。


「それはようございました」


「行ってきます、マーサ。」


「はい、行ってらっしゃいませ」


 上着をマーサに着させてもらったラヴィニアはそのままコートを着たアンジェリーナと共に馬車へと乗り込んだ。

 マーサと入れ違いに見送りに出てきたラフティーに笑みを見せてから王城へと向かうラヴィニアはどこかソワソワとしていた。


「どうしたの?」


「アンジェリーナ、なんだか胸騒ぎがするのです。」


「胸騒ぎ?」


「えぇ、何でしょうか……」


 首を傾げて言うラヴィニアに、アンジェリーナも同じく首をかしげる。


「なんだろ、本が楽しみだからとか?」


「いつも読んでいますよ?」


「そうだよねぇ」


 2人で首を傾げていると、外から子供たちの騒ぐ声が聞こえて馬車のカーテンを開ける。

 一面雪景色の中、3人の子供がモコモコになるくらい防寒をしてはしゃぎ走り回っていた。


「元気だねぇ、毎日の事とはいえ寒いから外で遊ぶのは嫌だわ」


「アンジェリーナは以外とインドア派ですよね」


「そういうラヴィニアはアクティブだよね」


 ふふふと笑うラヴィニアを、嫌そうに見ながらアンジェリーナは答える。

 そんなアンジェリーナが城から出てきてラヴィニアと図書館に行ってくれるのだ。

 嬉しさを隠すことなくアンジェリーナにありがとうと伝えると、アンジェリーナはキョトンとした後、当然でしょ?と朗らかに笑った。





「さあ、なんの本を読みますか?」


 王立図書館に着いた。

 窓際の日差しが入る暖かい場所にラヴィニアを座らせたアンジェリーナがニッコリと笑って聞くと、ラヴィニアはそうですね……と呟き


「雪の国の気象について書かれている本が読みたいかしら」


「わかりました。それなら司書に聞いた方がはやいですね。本を選んでもらいます。ここから動かないでお待ち下さい。」


 まっすぐ司書のところに行くアンジェリーナを見送ってからラヴィニアは近くにある椅子に座った。

 陽の光が入る窓際の席でいい具合に椅子が温められている。

 冬の冷たさも感じない静かな暖かい空間に落ち着く。

 座って数分が経過した頃、外を眺めているラヴィニアのすぐ隣でカタン……と椅子を動かす音がした。

 図書館内に人はいるが真横に座るほど座席が埋まっている訳では無い。

 知り合いかな?と横を見るとそこには予想外な人が座りラヴィニアに笑みを見せた。


「久しぶり、ラヴィニア嬢」


「サーシャ殿下!?」


 図書館内だと言うのに少し声を張り上げてしまい慌てて口元に手を当て周りを見る。

 たまたま周りに人が居なかった為こちらを注視している人はいなかった。

 ホッと息を吐き出したラヴィニアはサーシャへと向き直り立ち上がる。


「お久しぶりでございます、サーシャ殿下。お恥ずかしい姿をお見せしまして申し訳ありません。」


「いや、俺もいきなり話しかけて悪かった。知った顔だったから思わず声をかけた」


 座りなさい、と言うサーシャに礼の姿勢をとったままのラヴィニアは失礼しますと小さく囁き椅子に座った。


「サーシャ様、随分お早い到着だったのですね」


「元々は前日に来る予定だったんだが、じい様のお願いという圧が凄くてな。叔母上の墓参りに行ってくれと」


「……前王妃様、アンナ様ですね」


「ああ、じい様にとっては可愛くてたまらない娘だったらしいからな」


 机に肘をつき頬杖をして窓から外を見るサーシャの横顔を黙って眺めていた。



 サーシャはこの世界、ラナという星にある3つの大きな大陸のひとつ、武術と魔法に特化した国エスメリア帝国の皇太子である。

 サーシャ・フォン・リンチェスター、深い碧の髪に青と黒を混ぜた暗い瞳の色をしている。

 高身長で見目の良いサーシャは武術の国ならではの筋肉のついた無駄のない体躯をしていて周りの令嬢の目を集めている。


 花冠のパーティに賓客として来るのはサーシャだったのだ。ラヴィニアがラティスと共におもてなしをする相手でもある。

 なぜ大国であるエスメリアが特段特徴もない小国の花冠のパーティに参加するのかというと彼の叔母、つまり、現皇帝の妹であるアンナがこの国の王サラバン・ジェット・カルチェに一目惚れをし嫁入りした為、親戚となったからだ。

 現在、前王妃アンナは既に輪廻の輪に還っているがリンチェスターの前皇帝、サーシャの祖父がアンナを溺愛していたこともあり最後まで自分の意思でファイライトにいたアンナを思って今も少しばかりの支援と命日である花冠の日は弔いの為に王族が訪れていた。

 新たに迎えた王妃にも礼を尽くすエスメリアの王族にサラバンは勿論否とは言えず毎年王族の誰かが来訪しているのだ。


「それにしては早いですね」


「……まぁね」


 また、小さく揺れた。

 天井から吊るされる大きなシャンデリアが小さく揺れる様子をサーシャは見つめる。

 それに合わせてラヴィニアも天井を見上げた。


「ファイライトは随分揺れるな」


「はい、最近は強い揺れも多発しております」


「昨日もかなり強い揺れがあったな、怪我はなかったか?」


 頬杖をついたまま天井からラヴィニアへと視線を向けると、その溢れ出る色気に心臓を跳ね上げたラヴィニアはそっと視線を外しながら答える。


「少し、足を痛めたくらいです」


「足を?出歩いて大丈夫なのか?」


 体を起こしてスカートに隠れた足へと視線を向けるが、不躾に見る訳にはいかないとすぐに視線をラヴィニアの顔に固定する。


「はい、今は固定しておりますので……。見たい本も今侍女に頼んでいるところです」


「……そうか、無理はするなよ」


 少し眉を寄せて言うサーシャにラヴィニアは頬を染めて頷いた。

 ラティスから女性として扱われない為、サーシャのこういった心配や気遣いに慣れないラヴィニアの心臓は早鐘をうつ。

 一時期遊学の為半年程ファイライトに来ていた時にラティスと共に会ってからの付き合いだが、サーシャはラヴィニアより6歳上の22歳。

 当日ラヴィニアは10歳であった為、まだ幼いラヴィニアには構ってくれるお兄さんくらいの認識だった。

 10歳から見た16歳のサーシャは既に雰囲気が大人のそれと同じように感じてはいたのだが。それくらい当時のサーシャは既に大人びていたのだ。

 そんなサーシャも17歳になったラヴィニアを子供のようには扱わない。

 だからこそ、年1回すらなかなか会えないサーシャにラヴィニアは対応に迷ってしまう。

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