第9章 第3話 第3回採用試験
翌日、運び入れた積み荷を皆に分配するとともに、希望者は船に分乗して、順次ダブルウッドへ向かってもらうことにした。ダブルウッドにはユファインからもドワーフや山エルフたちが続々と応援に入っており、集合住宅の建設が、急ピッチで進んでいる。
この海辺の土地には名前はなく、漠然と『村』とか『里』とか言われているそうだ。フミとボアを連れて村中を歩いたが、この海辺の寒村は、俺にとって、宝の山に見えた。
先ず、何といってもこのビーチの透明度が素晴らしい。正直、沖縄の離島以上かもしれない。波も静かで、白い砂浜が何キロも続く。サンゴ礁に熱帯魚の群れが、美しい。
こればかりは、ユファイン自慢の川サンゴも勝てない。
しかも、獣人には食べる習慣は無いのだろうか、もずくや、海ブドウがそこかしこに見える。ナマコも多数。酒の肴が食べ放題である。
ここで塩を造れば、どれほどのものができるだろうか。俺は、この世界に来てから、肉ばかりで、ほとんど魚を食べていない。正直、刺身は少し怖いが、魚の塩焼きを、思う存分食べてみたいものだ。
この村で獲れる魚で、一番美味なのは、シーバスというスズキに似た白身魚。無理を言って獲りに行ってもらい、一口食べると、これはもう、日本人にはたまらない味わい。味はスズキのまんまである。よって、俺はこの地を『シーバス』と命名することにした。そして、里に群生しているのは、何とサトウキビ! これでウチの女性たちが大好きなスイーツ事情が一変するかも知れない。
翌日、俺はビーチから少し離れた磯の奥で、海水を引き入れ、塩田を造ってみた。本来、塩づくりには、たくさんの行程があり、難事業なのだが、俺は魔法を使い、どうにか手軽にできないかを考えをめぐらす。
岩盤で作ったプールにろ過した海水を入れ、そこにファイアーボールを入れると、濃い海水が出来上がった。そこにもう一度、ファイヤーボールをゆっくりと沈めていくと、次の日には塩の結晶が出来ていた。
ひと舐めしてみると、今までの塩とは一味違う、磯の薫りが高い、ミネラルたっぷりの逸品に仕上がった。
サーラ商会に連絡し、大急ぎで来てもらったが、商会の調味料担当者もびっくりするほどの高品質な物なのだそうだ。この世界では、塩は岩塩が主流。海由来の塩は、製法に手間がかかるため、あまり流通していない。サーラ商会からは、是非、独占契約をして欲しいと懇願された。魔法使いなら、ファイヤーボールは、ほとんどの者が使える。後は魔力操作による火加減が難しいだろうが、騎士団の良い訓練になるかも知れない。
その後、サトウキビの群生地も見せると、是非、この地に支店を出したいと懇願された。
この後、皆に内緒で、誰もいないビーチでソフィと思う存分戯れたのは、絶対に秘密だ。俺の大好きな白ビキニを恥ずかしそうに用意していたソフィの方がけしからんと思う。そ、そうだよね?
あの時、商会との取引についての話し合いが終わり、関係者が退出。たまたま、俺とソフィだけの状態になったのだ。
「ロディオ様……」
ソフィはそう言うと、何故か上着を脱ぎだした。
は? いや、お前、な、な、な、何してるんだ!
俺は、2代目タイガーマスクが、試合中に仮面を自ら脱ごうとしているのを見た、解説のザ・グレート・カブキのように動揺している。
ぷるん……。いや、ぶるん。
白ビキニのトップスが現れた。
そして……スカートにまで手をかけてるぞ!
……。
布面積がとっても小さい下の部分が現れました。
ソフィは、そのまま俺にゆっくりと抱きついて、俺の胸に顔をうずめた。
「……好きです」
惚れてまうやろ!
もちろん、2人で楽しんだ翌日は、フミと2人で一日中過ごしたのは言うまでもない。これで、ばれても許してくれるはずだ。そう思いたい。
◆
そうこうするうちに、またもや第3回の騎士団採用試験が近づいてきた。住民の移住に関しては、騎士団と商会に任せ、俺たちは一旦、ダブルウッドへ。そこで一泊し、エリは本来の伐採、ボアは新たな領民を受け入れるための集合住居の基礎工事や、道路の舗装などの任務に就かせる。ソフィは商会の仕事で、しばらく各地を飛び回るそうだ。
俺とフミは、材木の輸送船に便乗し、久しぶりにユファインに向かった。
「ロディオ様、奥様お帰りなさいませ」
屋敷に着くと、グランとステアが迎えてくれた。ステアはほとんど一日中グランについて、勉強しているという。執事について深く学び、自分も務まるくらいにまでなることが、バランタイン候の希望だ。俺には到底無理な話である。気の毒なことだ。
ステアを呼んで正直な所を聞くと、やはり、グランと行動を共にするのは、相当きついらしい。俺が、誰にも言わないからと念を押すと、ステアも本音を話してくれた。
「正直言って、きついです。なんていうのかなあ、グランは悪い奴じゃないんだけど、あまりにもきっちりしすぎていて、俺には合わない。サドルに至っては、子供のくせに先輩風を吹かせているし。今まで自由にのびのびと育ってきた俺には、こんな窮屈な状況はうんざりだ」
そうだろう。俺も大きくうなづいた。
「その通りだと思う。俺もステアと同じ立場なら、同じことを思っていると思う。ただし、侯爵の目的が、まさにそこなんだよな。うまくいくことじゃなくて、苦手なことに挑戦して、失敗したり、我慢したりする経験を積むことなんだ。だから、俺としてもステアの気持ちはよく分かるけど、このまま継続して欲しい」
「いつまででしょうか」
「期限は、バランタイン侯に一任しているからなあ。でも、あと少し。世の中が変われば、必ず君の立場も変わるはずだ」
「……」
おそらくバランタイン侯爵の事だから、今後の独立に向けての混乱に巻き込まれて、万が一、自分の跡取り息子が危険にさらされたりすることがないように、スタイン領へ亡命させているのだろう。しかも、魔力が人一倍強いグランの近くに置いておくことで、ボディガードもしてもらえるとまで考えているのかも知れない。
侯爵も思い切ったことをされたものだ。自分の跡継ぎを、同盟の約束をしている小国に人質にやっているようなものである。日本の戦国時代に例えるなら、織田信長が、長男を徳川家に人質として差し出しているようなものだ。
この事は、本人に伝えるべきだろうか。何しろ、ステアはよく頑張っているが、辛そうだ。グランに相談してみた。
「一番良いのは、ステア様が今の状況をご自分で理解される事ですが……」
「そうだな。では、少しずつ匂わすか。それで察してくれるなら、構わないだろう。グランも、皇太子を預かっているのだから、さじ加減は難しいが頑張ってくれ」
「はい」
「それから、次の採用試験には、ステアも俺と一緒に面接官をして欲しいと思う。将来、自分の国の騎士団にもかかわることだから」
第3回目の騎士団採用試験は、何と、4千人の希望者が押し寄せた。今回の受験者急増は、あらかじめ、こちらも予想しており、2次の実技、3次の面接としておいて助かった。
ユファインは、10大温泉の客室をそれぞれ増設しているものの、収容はぎりぎり。街で宿泊できない受験者を対象に、騎士団本部の体育館に、無料宿泊スペースを確保することとなった。
今回の採用試験では、何と1次試験に千人以上が合格。これは、試験内容が広まり、受験生が事前に対策を立てて臨んだことと、再受験組が多かったからだと考えられる。試験期間中の街での様子も、問題行動の報告は少なかった。
という事で、2次の実技では、まず、希望者のみの魔法試験を行う。これは魔法が少しでも使えるものは受けてもらうよう周知していたものだ。20人ずつの班に分かれて、20メートル先の目標に向かって、攻撃魔法を放ってもらう。その後、治癒魔法や生活魔法が得意なものは個別に披露。
武術に関しても、希望者のみで、一人で複数のチャレンジを認めた。剣術は、20人が一列に並び、目の前の巻き藁に向かって、剣戟を叩き込む。槍術や弓、その他の獲物を使ったものも同じ。
格闘術は希望者同士の対戦。何でもありの総合格闘技とし、受験生には、勝ち負けより強さを見るのが主眼だということを徹底。そして、これらの試験は、どれだけ出てもよいことにした。
この2次試験の目的は、ボアやエリの様な人材の発掘。ところが、今回も彼らほどの魔力の持ち主は現れなかった。しかし、ファイヤーボールが使える受験生を多数発見。すぐにでも塩づくり班に任命したい。
基本的に、1次の合格者の内、魔法が多少でも使えるものは合格。武術に関しては太刀筋などの素質を見てもらい合否を決める。俺やサラとしては、騎士団員を大量に採用したいという思惑があるが、魔法も武術も苦手な人を採用するわけにはいかない。サラ、セレン、セリアの騎士団長たちと、俺とステアが選んで、2次の合格者を300人に絞った。
ここに残るものは、素行不良者や怪しい動きをする者などはほとんどおらず、面接では、200人近く合格者を出してしまった。バランタイン家へは100人余りの紹介となり、クラークさんからは渋い顔をされる。いや、そんな。だって元々、ウチの採用試験でしょ!
ユファイン領では、今回は何と千人以上の採用に成功。これに伴い、近く入国制限を完全に撤廃することが出来そうである。
連日押し寄せる入国希望者。あっという間にユファインの人口は10万を超え、ダブルウッドも2万を超えた。そんな急激な人口の増加に対応できたのは、騎士団試験に来た優秀な人材を囲い込めたからに他ならない。
一週間後には、バランタイン候から速達が届いた。何でも大森林の木材を今月から倍以上買うから、騎士団採用試験の第四回を開いて欲しい。早急に200人以上の兵が必要なのだとか。それなら自分の所ですればいいのだが、こちらとしても、あと数百人騎士団員が欲しい。ため、快諾する旨の返事を送った。
この雰囲気からして独立も近いとみるべきである。俺は、第4回の騎士団試験を1か月後に行うよう、大々的に募集をかけることにした。
「任せてくださいね!」
ララノアがやる気満々である。各地のギルドや、魔法学院、騎士官学校を直接まわって募集活動をしてくれるそうだ。
それはともかく、何かねだるように、人差し指をくわえて、俺の方をじーっと見てくる。
「ご、ご褒美は何がいい?」
「2人っきりで、遊びに連れてってください」
俺の腕をつかんで目を潤ませてせがむララノア。どうしようか、どうしようもない。あまりの可愛らしさに、思わず約束してしまった。
だって……この可愛さ、クセになる!




