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第9章  第2話 猫耳氏族




 俺は、はやる気持ちを抑え、第一村人に声をかけてみることにした。


「はじめまして」


「……」



 俺たちを見て、呆然と立ち止まる猫耳お父さん。


「……」


 お父さんは、ビックリしたように、大きく目を見開き、何も言わず、そのまま俺たちに背を向けて集落の方に走り去ってしまった。言葉は通じているよね……。


 彼らは俺の領民ということでいいのだろうか。いや、逆に俺たちが侵入者に当たるのだろうか。





 そうこうするうちに、前方から猫耳の集団がこちらに近づいてきた。手に武器を持っている。俺たちはエリにウインドウォールをかけてもらい、武器を手にすることなく歩み寄る。  


 中には筋骨たくましい壮年の男性もいるが、あの程度の武器なら、突かれたり弓で射られたとしても、ウインドウォールという強烈な風のカーテンで十分に防げるだろう。


 猫耳の集団は、こちらの防御魔法に気付いていない様である。俺は、十分に距離を取ってから、風魔法で声を乗せ、もう一度話しかけてみることにした。


「はじめまして。ユファイン領主のロディオ=スタインです」


「!」


 猫耳集団は、一瞬動きを止め、互いに顔を見合わせている。


 しばらくして、先頭の長老風のおじいさんが地面にひざまずくと、全員がそれに倣うかのように片膝をついた。



「これは、夢か……。よくぞお越しくださいました」



 その後、俺たち一行はこの長老の家に招待された。流石に全員は入りきれないので、騎士団は村の公民館の様な所に入ってもらっている。今この場にいるのは、俺の他、主だった者だけである。


「私は、この里の長老で、カストリという者です。まず、何から話せばよいのやら……」


 カストリが、口ごもっているので俺から話すことにした。


「我々は『竜の庭』から海を目指して工事をしていただけなのです。ここには誰も住んでいないと思っていました」


「そうですか。そうでしょうとも。実は……我々は、ここにきてまだ数年しか経っておりません」


 彼らは、元々がハウスホールドに程近い里に住んでいた猫人の一氏族。ところが、ハウスホールドがエルフの王国として正式に国として建国され、大臣にエルビンが就いた頃から暮らしが苦しくなったらしい。


 エルフから借りた金が返せず、このままでは一族全体が奴隷落ちする状態になり、夜逃げの様に借金を踏み倒してこの地に逃げてきたというのだ。


「ロディオ様の事は、風の噂で聞いています。何でもハウスホールドの運河は、エルビンの手柄ではなく、ロディオ様たちが善意で造られたということ。そして『竜の庭』に、どこの国にも属さない新しい領地を造られ、そこでは、例え奴隷であっても夢のような暮らしが出来ているとか……」


 長老はそう言って、涙を流しながら手を合わせてきた。


「どうか、わしらを、ロディオ様の民に加えてはいただけないでしょうか」


 話を聞くと、この氏族だけでなく、いくつもの獣人たちが借金を背負わされ、この近くに逃げ込んでいるという。


「わかりました、私の民として受け入れましょう。ただし、善良な者だけです。凶悪だったり、他者に対して意地悪をしたり、人をいじめる者、集団の輪を乱す者まで我が領民として受け入れることはできません」


「分かりました。私が責任をもって信頼できる者を選びますので、ロディオ様の民としての受け入れをお願いします」





 カストリに詳しく話を聞くと、村人総勢200人。借金の総額は、アール計算で2億程。一人当たり、たったの100万円の借金で奴隷だなんてどうかしている。


「早速、バランタイン侯爵を通して、ハウスホールド側と交渉してみます。もし、我が領民になってくれるのなら、私があなたたちの借金を肩代わりして領民として受け入れましょう。我が領で働いて頂き、借金分を納めてくだされば、後は好きにしていただいても構いません。もちろん、衣食住と温泉は保証します」


 俺の言葉に、その場にいた猫耳獣人たちは、全員涙を流して感謝してくれた。



 その日は、俺たち一行は全員村に泊めてもらったのだが、俺は、彼らの貧しさが気になった。できたばかりのこの村には主な産業がなく、せいぜい漁業くらい。それでも夕食は精いっぱいのもてなしだろうが……。


 地元名産のスズキのような白身魚の薄造りは絶品だったのだが、どう考えてもユファインの奴隷たちの方が、豊かな生活を送っている。


 長老に相談すると、この村の者は、この地には何も未練がなく、より良い暮らしができるなら、移住してもいいという事だった。俺は早速、ダブルウッドとユファインに使者を送る。


 

 翌日、俺は長老をはじめ、村の主だった者を集めて説明した。


「あの山にはトンネルを掘って、街道と運河を造っています。トンネルを抜けた先に、『ダブルウッド』という街を造りました。皆さん、ひとまず、そこに移ってみてはいかがですか」


「さらにそこから、100キロほど進むと、『ユファイン』という街がありますので、将来的にはそこへ移られても構いません」


 皆、余りの事に呆然としている。それも無理はない。いきなり現れた若造が領主を名乗り、人々をより豊かな地に導いているのだから。


 ダブルウッドやユファインには彼らにも出来る仕事があるだろう。働けるものには仕事を紹介するが、給料が入るまでは、俺が衣食住の面倒を見ると再度告げると、皆喜んでくれた。ユファインのいい風評の成果だろう。


 俺たちはその後、街道と運河を村の入り口まで伸ばした上で、ドラゴン除けのため、運河で村全体を囲った。獣人たちは初めて見る大規模な魔法を目の当たりにして、呆然としている。



「ところで、今日の夕食は、皆でバーベキューをしましょう。食材を取り寄せますので。それから、この近くにいる、他の村の人たちも、出来るだけ、たくさん集まって欲しいのです。せっかくですから、大勢で楽しみましょう」


 俺たちは、村を見て回り、公民館にほど近い所に、源泉を掘る。予想通り、ここも温泉が湧き出た。ボアやフミにも手伝ってもらい、簡易の露天風呂と、蒸し料理用のかまど、冷泉の井戸などを造った。


「ロディオ様は、神の御使いではないだろうか」


 信心深い村の老人たちからは、手を合わせられて、拝まれる始末である。


 昼過ぎには、運河を渡って大船団が到着した。20隻もの船に乗せられた、大量の肉とエール、野菜や穀物、薬や衣類、日用品まで次々と騎士団によって荷揚げされていく。


 広場には、セリア率いる工兵部隊が、広場に何か所もの、バーベキュースペースを設置。炭火の準備も万端である。エールは水魔法でキンキンに冷やされ、夕方にはすべての準備が整った。


 全員が入れるような、広いパーティースペースを確保するのは大変だったが、そこはさすが騎士団が誇る工兵部隊である。驚くほど手際がいい。早速、ラプトル肉を焼きはじめると、いい匂いにつられるように、村人が続々とやって来た。


 村の人たちを全員案内し終えたところで、他の集落の獣人たちも到着する。犬耳や狐耳、同じような猫耳の人たちもいたが、別の氏族だそうだ。彼らには、後で説明するとして、とりあえず飲もう。エールは全員に行き渡ったかな。


 大規模なパーティーでは、乾杯まで意外と時間がかかるものだが、この辺りも、騎士団が、抜かりなく手配してくれたおかげでスムーズだ。さすが宴会慣れている者は、手際が違う。


「こんばんは。ユファインで領主をしているロディオ=スタインです。うまい料理に冷えたエール、俺たちの出会いに、とにかく、カンパーイ!」


 俺の掛け声で、皆大歓声と拍手。しばらく飲み食いするうち、俺の前にカストリに案内されて、他の獣人の族長たちがやって来た。俺が、カストリに告げたのと同じことを言うと、皆大喜びで平伏する。


 この周辺に落ち延びた亜人の数は、数千人以上にも上るのだが、正確な数はわからないらしい。彼らの借金の総額くらいなら、どうとでもなるだろう。全員、ダブルウッドやユファイン行きを希望しているため、先ずはダブルウッドで受け入れる予定である。それにはダブルウッドの更なる拡充が必要である。また、忙しくなりそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] >ロディオ様は、神の御使いではないだろうか 少なくとも中南米のビコラチャやケツァルコアトル、日本ではアイヌラックルやスクナビコナ並みにロディオさんは文化英雄してる(ぉ
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