第8章 第10話 拠点
俺は丘陵地帯の手前で、隊長以上の幹部たちを招集。相談に入る。
「元々、今回の遠征は海を目指したものだった。それに騎士団の演習をのっけたんだが、実は少し変更したいと思うんだ」
この丘陵地帯に、向こうに抜けるトンネルを掘るのは後回しにして、ここに拠点を造りたい。はっきり言ってトンネル工事は難事業。いくら、チート能力を持った俺でもすぐにできるようなものではない。
そこでここに拠点となる街を造ってから、トンネル工事を進めるのはどうだろう。急な提案だったが、全員了承してくれた。
すぐにユファインへ山エルフやドワーフの大量求人の連絡を出す。エリが木々を伐採し、俺とフミ、ボアの3人で、1キロメートル四方の運河を作成。その内側を造成することにした。
倉庫や宿舎、更には井戸や温泉の源泉を掘る。当然露天風呂は一番に造った。資材も人手もあり、街の基礎工事は一週間であらかた出来てしまった。
その晩は、全員で打ち上げである。訓練をしたがるサラには苦い顔をされたが、何とか許してもらった。ごめん。次の訓練は俺抜きでして下さい。
ラプトルのバーベキューに、作ったばかりの源泉を利用した、山菜や肉の蒸し料理。氷でキンキンに冷やされたグラスに注がれるのは、濃い目のドワーフエール。
人生、楽しんだもん勝ちだから。俺は元の世界で楽しめなかった分を、取り戻すかのように、乾杯を繰り返す。
しばらくして、山エルフとドワーフの一行が到着。出来たばかりの運河を船でやって来てくれた。彼らを迎えて、再度の乾杯。どんちゃん騒ぎにも、拍車がかかる。
俺は酔った勢いで、この地に更に3本源泉を掘り、露天岩風呂、そして岩盤浴の温泉まで造った。騎士団員たちからは、酔った勢いで温泉造る人なんて初めて見たと言われたが、俺だってそんな人は見たことも無い。
この日は、深夜まで大騒ぎして、その後は皆で温泉に入浴。何か、かつての『竜の庭』の旅を思い出した。
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翌日、さすがに騎士団は、整然と整列している。俺は何とか自分のテントからはい出し、皆に挨拶してから、朝飯を食べる。
そこへ、サーラ商会の従業員から、ここまで伐採し続けてきた材木を是非譲ってほしいという申し込みがあった。
詳しく話を聞くと、この『大森林』の材木は、ハウスホールド産のチーク材に相当するような高品質な逸品が、多数含まれているらしい。今後は、この材木をユファイン領で使い、余った分は、トライベッカやトーチへ輸出したいのだとか。
俺は、早速、ソフィに連絡をして、来てもらうことにした。
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「まあ、何ですの。宝の山ですわ」
ソフィに査定してもらったところ、やはりここの材木は、ハウスホールドのチーク材と比べて、品質はさほど変わらないということだった。早速、商会を通して、ハウスホールドからの材木の輸入を取りやめ、逆にトライベッカやトーチなどのバランタイン領に、ウチの木材の売り込みをかけてもらうことにした。
大森林の木材は、サーラ商会の独占品として、この後、共和国のみならず、遠く帝国まで輸出されることとなる。
そして、俺は、エリを第一補給隊長に任命した。主な任務は、山エルフやサーラ商会と共に、この丘陵地前の拠点に常駐し、樹木を伐採し、ユファインまで輸送すること。木々を伐採した後には、必ず植樹をするよう厳命した。
普通、材木は植樹して伐採されるまで数十年かかるが、大森林では数年で出来そうである。騎士団で最初の具体的な任務を与えられて、エリは大いに感激してくれた。
「エリ、任官して僅か1か月にしての大抜擢、心してかかるように」
エリは、顔を紅潮させて、「我が剣は、お館様とその民を守るときのみ振るわれる」と、宣誓してくれた。
ボアは、俺の個人付にしてもらった。彼には、俺の土魔法ならぬ土建魔法を習得してもらい、今後の土木工事において、俺の右腕になって欲しい。
そんなこんなで、今回の出征は、当初の予定とは、かなり違った形で大成果を上げ、無事終了することとなった。




