第8章 第6話 カップル
結局、レインに手伝ってもらうのはここまで。俺は騎士団に、海を目指して大森林を抜ける大遠征をすることを通達した。出発を5日後とし、3日ですべての準備をするように伝える。それに合わせて、ギルドには、騎士団が遠征中、手薄になるのを補充する人員を依頼した。
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これは、ユファイン騎士団初の大仕事である。俺たちがトライベッカからハウスホールドへ街道と運河を造りながら旅をしたのは、今にして思えば『竜の庭』を突っ切る工事だったとはいえ、少数精鋭で、街から街へつながる道の拡張工事に過ぎなかったが、今度は一からの工事。しかも、大森林『竜の庭』の原生林を切り開きながら縦断するという大掛かりなものだ。
これに大喜びしたのは、3人の騎士団長たち。特にサラは、目を輝かせ、久しぶりに自分の力が存分に振るえる機会が来たと思っている様子だ。そんな筆頭騎士団長に、俺はくぎを刺すことを忘れない。
「今回の調査と工事は、あくまでも、騎士団を鍛える意味もあるんだから、あまり無茶しないでくれよ。というか、サラがすごいのは十分わかってるんだから、手柄を部下に譲るくらいの気持ちでいてくれ」
しかし、サラは新婚なのに家庭の方はいいのだろうか?
「まあ、冒険している時が、アイツの一番輝いている姿なんだから、いいって」
正直、新婚家庭に出張を命じているようなもので、心苦しいのだが、なぜかホッとしているようなハープンさん。
……。
ま、まあ、いいか。他所の家庭に首を突っ込むなんて野暮だろう。
俺は今回も、街道を大森林のど真ん中に延ばし、両脇に運河を造りながら少しづつ進もうと計画している。もちろん、野営前には目の前にも深い堀を造って安全に留意するつもりだが、未知の領域では何が起こるかわからない。騎士団には、交代で警戒してもらおう。
騎士団が使う物資は自前で用意してもらうとして、全体の食料をはじめ、旅の備品は
ソフィを通してサラ商会にお願いした。騎士団以外では、俺とフミが参加する。
慌ただしく出征準備を整えている騎士団本部に、何と『アイアンハンマー』さんたちが顔を出してくれた。どこからかこの話を聞きつけて、協力を申し出てくれたのだが、今回は若手を育てる意味合いもある。俺と騎士団長たちが、騎士団員を鍛えつつも守るのでと、遠慮してもらった。
皆さんの無私の善意はしっかりと伝わりました。ありがとうございます。
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レインたちは、3日ほど時間が取れるそうなので、ウチの温泉やアクテビティーを楽しんでもらう事にした。俺も仕事は午前中だけにして、午後は半休を取ってユファインを案内する。
レインは、人造湖のコテージとライリュウと一緒に泳ぐ『ドラゴンシュノーケリング』に興味津々。マリアもハイレグの大胆な水着を持ってきていた。まるで最初から遊ぶ気満々だったみたいだ。
いつもはメイド役をしてくれているフミも、今日はシュノーケリングに参加してもらった。仲のいいマリアと昔からよく知っているレインと4人で遊ぶという事で、前日からずっとご機嫌。昨日なんて、
「ロディオ様、この服はどうですか」
「こちらの水着の方がいいですか」
と、いちいち着替えては、俺の部屋まで来て、ご機嫌で一人ファッションショーをしてくれた。
4人で、運河をクルージングし、グラスボートで水中を景色を楽しんだ後は、川サンゴのポイントへのシュノーケリング。ランチにアフタヌーンティー。そして人造湖でのドラゴンシュノーケリング。ライリュウのカップルや親子に癒され、ユファインの魅力を存分に満喫してもらった。
2人とも、すっかりご機嫌で心から喜んでくれたと思う。その日の夜は、レインとマリア、俺とフミがそれぞれ人造湖のコテージに宿泊。
グランに頼んで、頃合いを見計らって特別に花火を打ち上げてもらう。美しい花火の競演を、俺たちは、それぞれコテージのベランダからカップルで眺めた。最後のとどめは、コテージ正面から見える石壁の仕掛け花火。
「アイ・ラブ・ユー・マリア by レイン」
「きゃいーん♡」
隣から何か悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
フミも仕掛け花火を見てうらやましそうだ。すると時間差で俺たちのコテージ正面の石壁にも同じく、仕掛け花火がともった。
「きゃ~ん! ロディオ様……♡」
◆
翌日、朝からマリアが謝りに来た。
「ロディオ様、数々の非礼をお許しください。昨日はありがとうございました。今まで生きていて一番幸せな一日でした。私は一生忘れませんわ」
その後、こっそりレインがやって来た。
「いくら何でもやり過ぎだろ! 恥ずかしいって! ……でも、ありがとな」
「ところで、ロディオ、今更なんだけど、お前、**人だろ」
「え……?」




