第8章 第1話 帰国
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俺たちは、トーチの要塞化という、やばい仕事を無事に終え、ユファインに帰国した。
付き従うのは、フミとサラ、セレン、セリアの3人の騎士団長候補たち。
運河の船旅を終え、無事にユファインの港に付くと、グランが出迎えてくれた。到着時間に関しては、ざっくりとしか教えていないのにかかわらず、相変わらず、時間に正確である。
「ユファインの様子はどうだ」
「はい、順調です。今の所、目立った問題は起きておりません。ただ……」
「ただ……?」
「やはり、人手不足が深刻です。あらゆる分野で労働力が足りません。ざっくり言いまして、需要に応えるには、供給量を今より1,5倍増やすことが必要です。それには最低でも、人手が新たに300人ほど必要です」
「わかった。無理をして体を壊すなんて本末転倒。焦らず、ゆっくり、着実に仕事を進めるよう通達してくれ。人手不足に関しては、もう少し待ってくれ」
俺としては、この人材難を解消するには、この手しかないと思うものがあるのだが、果たしてうまくいくだろうか。
◆
ユファインでは観光客をターゲットにした運河通りの営業も始まった。店の営業は、ソフィのサーラ商会に全面的にバックアップしてもらっている。直営の飲食店も、『キッチン☆カロリー』、『串のや』、『竜のや』、『湯の花うどん』はどれも長蛇の列。それぞれ、2号店の出店候補地を探している。
それ以外では、商人たちの協力を仰いで、屋台通りを計画中だ。しかし、現状では、旅人や貿易業者だけでなく、観光客が押し寄せてきて、とてもさばききれない。
温泉に関しては、10大温泉が開業し、それぞれ大賑わいだった。騎士団の募集も大々的に行われており、いつでも採用試験を実施できそうだ。
俺は、『四の湯』で寛いだ後、視察に向かう。ユファインでは、人口の大膨張のせいで、住居が不足していた。俺は帰国そうそう、住民用のマンションの基礎工事に駆り出されることとなった。
現在、ユファインの人口は、3万を超え、まだまだ増える見込みだ。トーチを大幅に上回るペースで膨張を続けている。トーチが10万規模の街を目指すのだとしたら、ユファインは、20万人以上の都市を目指してもいいだろう。政庁の工事は当分、後回しになりそうだ。
セレンやセリアの推薦を受けたエルフやドワーフの移住は、彼女たちの報告の割には少ない。何でもハウスホールドでは、人材流出を避けるため、エルビンが、新たに条件を設定したとのこと。
それにしても、エルビンは、姑息なことをする。何でも、ハウスホールドの全労働者に対して、他領への移動を禁止したそうだ。さすがにこれは、労働者をはじめ、良識のある貴族達からも猛反発をくらい、半年で中止された。
すると今度は、ハウスホールドの労働者が、他領で働く際は、数か月単位で許可が必要とするという制度が作られたそうだ。この許可書の申請に時間がかかり、ハウスホールドからの求職者は、思う様にこちらに来れないのだという。
少々うんざりするが、彼もまた、ハウスホールドを守るために必死なのだろう。
◆
そんなこんなで、俺は、ユファインに帰ってから、フミを伴い、連日、住居や商業施設の基礎工事に開け暮れていた。
その間、サラたち、元『サラマンダー』の3人には、守衛や市中の巡回、交通整理など、今までギルドに外注していた仕事をしてもらっている。サラはともかく、セレンやセリアは見た目が可愛い女の子なので、事情を知らない者から、なめられることもあったらしいが、一週間もしないうちに、3人はすっかり街の顔役となっていた。
彼女たちが街に着いて最初の頃は、ちょっかいをかけようとする者もいたらしい。しかし、周りの住民や旅人が気付いて止めに入り、何も知らずに絡みに行った本人たちが、冷汗をかきながら平謝りに謝罪するという事が何回かあったらしい。しかし、すぐにそんなこともなくなったようだ。
その理由の一つは、今回、俺が特注して作ってもらった、騎士団の制服と騎士団師団長の紋章である。これは共和国の騎士団や魔法師団のそれをモチーフに、それぞれ、より豪華なものに仕上げてもらった。普通、一般人が身に付けるものではないため、これを見れば、それだけで大抵の人は、一目置くようになる。元の世界で例えるなら、警察や自衛隊の制服の様なものである。
「これから創る騎士団は、何より高い規律持った、誇り高い集団にしたい。はっきり言って、腕力や魔力といった単純な戦闘力より、精神の高潔さを誇るものとしたい。ただ、そうは言っても、『竜の庭』で、ラプトルから自分の身を守るぐらいの能力は、最低必要なんだけど」
「3人には騎士団師団長候補として、この制服と紋章を付けている時は、それにふさわしい行動をして欲しい。具体的には、人々の模範となるよう振る舞って欲しいんだ」
俺の言葉を聞いて、セリアも顔を引き締めて小さく頷く。騎士団長候補としてユファインに来てからというもの、セリアは以前の様にセレンの服をつかんで、もじもじしたりすることは無くなった。騎士団長としての自覚がうまれたのかも知れない。セレンもそのあたりの事はわきまえていて、最近少しずつ、セリアと距離を置くようにしてくれている。それでも姉妹の様に仲良しの2人の関係には変わりはないのだが。
「もちろん、非番の日は私服で、一般の女の子として自由に過ごしてくれていいよ」
そして、彼女たちが、街で一目置かれるようになった理由としては、もう一つある。実は、ギルドを通して、『サラマンダー』の英雄伝説を流してもらっていたのだ。何せユファインは小さな街。噂はすぐに広まる。これで、すごいエピソードを持つ彼女たちにちょっかいを出すものなんていなくなるだろう。俺は、ハープンさんやララノアに相談し、『サラマンダー』のこれまでの“功績”を広めてもらった。
俺は、あらかじめ、彼女たちの凄さが広く認識されていれば、舐められたりせず、それぞれ騎士団長として仕事がやりやすいだろうと思っていた。しかに、噂という伝言ゲームは、すすむにつれて、どんどんウイルスの様に“変異”していくものだった。中には、俺も首をひねるような噂もある。
特に、『サラマンダー』に、男っ気が無いのは、実は男に興味がないからだというものまであり、これには彼女たちから大いに不満の声が上がっているようだ。
今日、彼女たちが勢ぞろいして、俺が執務室にしている『四の湯』のスイートルームに押しかけてきたのも、大方その件だろう。良かれと思ってしたことなのに、頭が痛いことだ。
俺は、大きなため息を一つついて、彼女たちを部屋に招いた。
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