第7章 第4話 開墾
国境運河の工事はスムーズに進み、程なくして完成した。
俺たちはその後、2つのグループに分かれて、大草原の開墾に取り掛かる。ひとつ目のグループは、用水路と農道の整備。俺とフミが、用水路と農道を張り巡らせていく。できたところからセリアに仕上げと点検。サラには御者として荷物運びなどの雑用をお願いする。
もうひとつのグループは、開墾からの農地造り。草原を耕すのはレインとセレン。土魔法と風魔法を組み合わせ、魔力を込めつつ土壌を攪拌すると、ふかふかで、栄養満点の土壌が出来上がる。こちらには当然の様にマリアが御者として付き従っている。どちらのグループも、あらかじめクラークさんからもらっていた『開墾実施計画書』に基づき、作業を進めた。
「サラもマリアもお願いだから、無茶しないでくれよ」
「大丈夫だ」
「そうですわよ」
2人ともいい返事をしてくれた。あの時とは違って、今は色々と満たされているせいか、曇りのない笑顔で、幸せそうである。
それから2週間かけて、立派な農地が完成した。
◆
運河が完成した翌日、小さな舟に乗って、クラークさんがやって来た。クラークさんは、俺たちの工事を見て大喜び。
「これならば、侯爵様にも、きっとご満足していただけると思います」
その日の晩は、クラークさんを迎えて、野営地でバーベキューパーティー。まるで『竜の庭』にいるみたいだ。クラークさんにある程度酒が回ったころ合いを見計らって、俺は例の件を切り出す。
「あの、クラークさん。実は、ユファインはこの度、新たに騎士団を新設したいと思っています。つきましては、『サラマンダー』の皆さんに、騎士団長として来て欲しいのですが」
「ロディオ様、そのような事を、酒に酔わせた後に切り出すなんて、何とも他人行儀ですね」
「……」
「いいんですよ。私たちの仲じゃないですか。ああ、これはもちろん、侯爵様も含めてですが」
「正直、『サラマンダー』は、侯爵家のお抱え冒険者だからといって、彼女たちの意思を無視した束縛なんてできません。大体、いくら、我が領が独立したとしても、新たな騎士団長はもう内定しています。そして、彼女たちの個人的な事情を考えれば……」
「リーダーのサラは、出来ることならハープンの近くで働きたいでしょう。セレンやセリアは、トライベッカより、故郷に近いユファインでの栄達の方がいいに決まっています。マリアだけは、レイン次第ですのでわかりませんが……。それに、一国の初代騎士団長ともなると、間違いなくその国の歴史に名が刻まれる大きな名誉。これを無理に引き留めるようなことはできません。」
クラークさんは、そこで一呼吸置いて、静かに語ってくれた。
「我々としても、自分たちのことだけではなく、それぞれの幸せを願っているのです。侯爵様にも、賛成していただけることでしょう。ただし……将来的には我々と同盟を結んでいただけることが条件ですが」
「お約束します。ありがとうございました」
次の日、皆でトライベッカに戻ることにした。
バランタイン邸では、サドルが修行していたはずだ。クラークさんに聞くと、サドルはかなり筋が良く、例えていうなら原石とでもいうべき得難い人材らしい。
「あの子はウチで面倒を見てもいいでしょうか」
「え? ご迷惑ばかりおかけしているんじゃないですか」
「とんでもない。あの子は将来が楽しみですよ。執事としての資質は、私が保証いたします」
クラークさんからそんなことまで言われて、俺は嬉しいやら、ありがたいやら、申し訳ないやら。とにかく重ねて感謝を述べた。




