第7章 第3話 騎士団
マリアが連れてきた商人たちに、チルドされたドラゴンを引き取ってもらった日の晩、俺は個人的な懸案事項に関して、このパーティー全員に相談することにした。
「実は、ユファインは、どんどん人口が増えている。このままでは治安の維持が心配だ。そこで、俺はユファインに騎士団を創設したいと思っている」
俺が言うや否や、すぐにサラとセレンが喰い付いてきた。
「噂のように将来、国として独立するのだろうか」
「なら、今、騎士団に入れば、初代騎士団長になれるのですか?」
サラマンダーの面々が一気に色めき立った。この世界で、一国の初代騎士団長とは、何物にも代えられない栄誉である。しかし俺の知らない所で、一体どんな噂が流れてんだ!
「ロディオ殿、この話、誰かに話したことは?」
サラが身を乗り出す。レインは相変わらず無関心らしく、そっぽを向いている。
「いや、誰にも。今、他人に初めて話したところだけど」
「ならば、この話、しばらく内密にしていただくことはできないだろうか」
「ああ、構わない。この場だけの秘密にしておこう」
俺は、全員を近くに呼び寄せる。
「ぶっちゃけた話、おそらく来年中には、スタイン領は、国として独立する。独立のタイミングはバランタイン領が、共和国から独立するのと合わせたい。これはあくまで現在の予定なので、確約は出来ないが。皆はどうしたい?」
互いに顔を見合わせて固まる『サラマンダー』の皆さん。
「……分かった。この話は本当に内密にする。俺は絶対に誰にもばらさないから、皆がどうしたいのかだけ教えて欲しい」
「このままバランタイン侯の筆頭冒険者でいるのか」
全員がごくりとつばを飲み込む。
「それとも、ユファインに移籍して、初代騎士団長として、歴史に名を残すのか」
俺に聞き方も悪かったのかも知れないが、『サラマンダー』は概ね俺の所に移籍し、それぞれ初代騎士団長になることを希望してくれた。唯一、希望が保留なのはマリア。彼女はレインの方をチラチラ見ながら、両手を握り締める。
「私は、レイン様の側がいいです」
「レインはどうすんだ」
「俺までロディオの方に付いちまったら、世話になった侯爵家も困るだろ。俺はこのまま残る気だ」
どうやら、いざとなったら『サラマンダー』は解散し、それぞれが自分の道を歩むことになりそうだ。
「何か、俺のせいで、こんないいパーティーが解散してしまうなんて、複雑だな」
「そんなに気にすることはない。今後、『サラマンダー』は、私たち4人が再会したときの呼び名にしよう。道はそれぞれ分かれても、4人で会う度、再結成だ」
「私はサラの結婚が決まってから、『サラマンダー』の解散は既定路線だと思っていました。マリアもレインさんに付いていくんでしょうから、丁度いい潮時だと思います」
「ですです」
マリアもレインの腕を掴んで頷いている。
「ところで、ロディオはどんな騎士団にしたいんだ」
「3人が来てくれるなら、それぞれ初代騎士団長になって欲しい。最初は少数で、規律の徹底を重視する。第一騎士団はサラが団長で配下には、騎士が中心。第二騎士団はセレンが団長。配下には弓や魔法などの遠距離攻撃部隊。セリアは第三騎士団の団長として、工兵部隊を率いてもらいたい。物資の補給や修繕を含めて、全騎士団の装備全般を任せるだけでなく、街の開発にも駆り出すことにもなると思うんだけど」
「人材は、各地のギルドで募集する他は、魔法学院と騎士官学校に求人を出したいと思う」
「普段の任務は、守衛や街の巡回。火災やハリケーンなどの災害復興や人命救助もある。当然、他国との戦争もあり得る。将来は『竜の庭』の探索もしたいので、生半可な者は入れたくない。最初は少数の募集にして、騎士団のレベルが上がってから少しずつ人数を増やしていきたい」
俺は皆に元の世界の警察と消防と自衛隊を合わせた様な仕組みを説明した。
「騎士団への入団には採用試験を実施する。受験生の能力や適性を見て選びたいから、採用者は、少なくても構わない。どんなにやる気があっても、能力が低ければ、人の命にかかわることだから採用できないんだ。逆に、高い能力があっても性格に難があれば、集団の規律や力が削がれるから、不採用とする」
現状は、一領主の騎士団の募集に過ぎないが、給料と待遇は共和国の騎士団や魔法師団以上にするつもりである。俺としては、ゆくゆくは『ユファイン騎士団』を、世界一の待遇にし、それを自分たちのプライドとしてもらいたい。世間から、「さすがは、あれだけの好待遇で働いている騎士団だけはある」と、評価してもらえるように育てたいのだ。
俺の提案に3人は、顔を輝かせて賛成してくれた。ユファインに帰ったら早速ハープンさんにも相談してみよう。




