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第7章  第2話 国境運河



 船の中で軽い昼食を取った俺たちは、大草原の南端、大森林の入り口に到着。上陸後は早速、運河を造ることにした。


 いつもはフミに500メートル程先に立ってもらい、少しずつ工事を進めていたのだが、今回は見通しが良く、人家も何もない場所なため、フミも俺の横に下がってもらった。


 これだけ条件がそろうと、俺はかつて調子に乗ってやらかしてしまったことを、もう一度試したくなってしまったのだ。


「なあフミ、あれをしてみてもいいか?」

「はい、ロディオ様ならきっとうまくできると思います」


 サラたち『サラマンダー』やレインは怪訝な顔をしているが、俺はかつてコザさんとフミに迷惑をかけた“あれ”をやってみるつもりである。


「倒れるかもしれないから、もしもの時は支えてくれ」


 俺は皆に頼んでから、静かに集中する。


 手のひらから少しずつ魔力を解放していく。目の前の森と草原の境目が徐々に広がり、地面が圧縮されて、U字状に押し固められていく。底からは石が浮き上がり、敷き詰められるようにゆっくりと前方に伸びていく……。


「何度見てもすごいな」

「さすがですわ」

「ロディオ殿の魔力とはこれほどなのか……」

「ロディオ様すごいです」

「です、です」

「さすがは私のロディオ様です」


 出来たところから、フミとセリアが、仕上げと点検をしてくれる。セリアの近くにはセレンが寄り添い、サラとマリアは周囲を警戒する。ほれぼれするような連携だ。



 そして、2時間後。俺はやっぱり気を失っていた。



 目を開ければフミの顔が見える。またもや気を失った俺は、フミの膝の上に何とか帰還できた様だ。


「ロディオ様、今回はすごかったです。2時間で運河を予定の3日分も造られました」


 フミは俺を膝に乗せながら嬉しそうに報告してくれた。笑顔で答えるフミだが、何とフミは俺を支えて船に乗せ、そのままずっと、自分のトイレも我慢して膝枕をし続けてくれていたという。


「そんな人間の女の子、どこの世界を探しても、フミちゃんくらいだぞ」


 レインに言われてしまったが、確かにそうだ。

 

 人間の女子にモテモテの、お前にだけは言われたくはないがな!



 くらくらする頭を押さえ、外に出た俺は、出来た運河を目にして言葉を失っていた。


 何と、俺が造った運河は一発で全長が50キロ以上に及んでいた。レインが水を引いてくれ、出来たばかりの運河の水面が夕日にきらきら輝いている。その晩、俺たちは運河沿いの侯爵領に、農道を造って野営した。


 次の日からは、さすがに気絶するような無茶はせず、力を抑えて、一日当たり、20~30キロのペースを保って運河の建設を進めた。前回、ハウスホールドで作った運河よりスムーズにサクサクと作業が進む。


 ああ、平和でほのぼのしてるなあ。でも、こんな時に限ってお約束が起きるんだよなあ……。


 俺は緩みがちな気分を引き締めて、前回の事を反省しつつ、いつトラブルが起こってもいいように、頭の中でシュミレーションしていた。感覚は令和のサラリーマンの仕事モードそのものである。



「来るぞ」


 地響きを立ててやってくるのはラプトルの大群。どうやらディラノに追い立てられている様で、こちらに向かってくる。


 俺たちの一団は、左手に運河をみつつ、西へ進んでいる。そんな俺たちめがけてドラゴンの一団が、突っ込んできた。


「ここは、私たちに任せて欲しい」

「たまにはいい所をお見せしたいですわ」

「久しぶりで、腕が鳴ります」

「ですです」


 ラプトルの群れに向かって、『サラマンダー』が飛び出していく。


 レインの方を見ると、「大丈夫」と、うなずいていた。


 先ずは、セレンによる弓の乱射。一度に2~3本同時に射出し、空中で風魔法を乗せる。たちまち弓の雨が、ラプトルの群れに降り注ぐ。10匹程が倒れ、派手な砂煙を上げた。だが、ドラゴンの突進は止まらず、倒れた仲間を踏みつぶしながら迫る。


 ここで、セリアがすっと前に出てた。握ったメイスを静かに上にあげる。


 一瞬、雷鳴が響き渡り、雷が地響きをたてて突き刺さる。荒れ狂うドラゴン、たちまち半数が焼き焦げて転がる。血と光と煙、焼け焦げた臭いが周囲に広がる。


 阿鼻叫喚の地獄絵図の中でも、戦意を失わず、突進してくるドラゴンたち。その集団の中を、サラがゆっくりと歩き出す。何頭ものラプトルとすれ違うが、彼らの目には、まるでサラが映っていないかのようだ。


 悠然と歩き出すサラを横目に見ながら、マリアが、槍を手に構える。


「はあああ!」


 マリアの槍さばきは、瞬き厳禁。槍先が視認できないほど速く動く。10匹以上のラプトルが、一瞬で胴体を貫かれて地面に横たわる。


 サラは大剣『フェンリル』をすらりと抜き、無造作にドラゴンの群れの中を歩く。やがて、ラプトルを追い立てていたディラノの前に出た。


 抜きはなった大剣を無造作に握り、同じペースで歩いていくサラ。まるで散歩でもしているかのようだ。ディラノが目の前に迫るが、そのまま歩みを止めない。


「*****!」


 焦った俺が、叫びながら助けに入ろうとするが、後ろからレインに羽交い絞めにされながら口を押えられた。


「ロディオ、落ち着け。今が『サラマンダー』の見せ場なんだから」


 横を見ると、フミも同じように、セレンとセリアに口と胴体を押さえられていた。


「……」


 ゆっくりと歩いていたサラが、ディラノとすれ違いざま、大剣を振ったような気がするが、はっきりとは見えなかった。



 ……。



 しばらくして、サラが歩みを止めて、振り返る。


 ディラノの胴体が袈裟懸けにずれ、地響きと共に、前に倒れた。



「ようやく、『私の仕事』が出来たよ」


 頭から返り血をかぶった壮絶な姿で微笑むサラ。結婚しても、妊娠するまでは現役でいる予定だそうです。


 残りのラプトルも、『サラマンダー』が片付け、レインだけじゃなく、俺やフミの出番も無し。


 それにしても、『サラマンダー』は、なんて強さだ。ハウスホールドから帰った後、山籠もりの秘密特訓に明け暮れていたらしいが、一体、どんなことをしてきたのだろうか。


 急ぐ旅でもないので、ドラゴンは傷まないように、凍らせておくことにした。レインが魔法をかける。『永久凍土』というものらしい。


 生きものなら定期的に魔力を送ると、数年はそのまま凍ったままだが、ほうっておくと、そのまま自然解凍して、命を吹き返すという、なかなかすごい魔法だ。レインが自ら作り出したオリジナルの魔法だという。


 皆で、マリアにドラゴンを運んでもらうために、トライベッカまでお使いに行ってもらうよう、お願いする。マリアはお約束の様に一旦嫌がった後、レインに頼まれ、意気揚々と出発していった。


「ウチの商会からたくさん、人手を連れてきますわ!」


 マリアはそう言うと、笑顔で馬にまたがり、手を振りながら、元気に出発していった。


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