第1章 第6話 ギルド その2
俺は翌朝、寝不足のまま朝食も摂らずにフミとギルドに出かけた。すると、ギルドの壁一面に貼られた張り紙の中に『ポーション買い取り実施中!』というものを見つけた。
魔力を聖水にとどめ、それを飲むことでヒール効果を得る飲み物がポーション。そのランクによって、疲労回復から、けがや病気の回復までも治せる万能薬。ひょっとすると、俺でも聖水さえあればポーションが作れないだろうか。
受付でララノアに尋ねると、聖水は会員価格で1瓶千アール。早速2本買って家で造ってみることにした。
フミに魔力の込め方を教えてもらい、試行錯誤しながら試してみる。
◆
いつしか辺りが暗くなってきた頃……できた! ような気がする。どのくらいの品質なんだろう。フミに見てもらうと一番下のランクくらいだそうだ。売り物になるかどうかもわからないが、すぐにギルドへ向かう。
ギルドでは、もう登録済みしていたおかげでスムーズに買い取りに進めた。
「ちょっと待ってくださいね」
買い取りカウンターの向こうで、胸の布地が小さめの人間のお姉さんはそう微笑むと、俺のポーションを持って奥に引っ込んだ。
「……お待たせしました。買い取り価格は2千アールです。どうされますか?」
俺とフミは2千アールを大事に受け取ると、もう1本の瓶を持ってララノアを探す。
「俺、1日かかって初めてこれを造ったんだ。買い取りとかしてもらえるかな?」
「ロディオさんの造られたポーションですか! 是非ぜひ買い取らせてください!」
ララノアはそう言って一旦奥に引っ込む。奥では何やら言い合うような声も聞こえたが、しばらくしてララノアが笑顔で出てきた。
「お待たせしました。5千アールで私が買い取らせていただきます」
……え?
「ギルドの買い取りじゃないの?」
「はい。ギルドは頭が固くて、2千アールでしか買い取りしない様ですので。ですから私が、個人的に買い取ることで話がつきました。5千アールでは少ないですか?」
瞳をウルウルさせるララノア。
「そんなに出してくれて、本当にいいの?」
「もちろんです。記念すべきロディオ様の初めてのポーションが5千だなんて、私からすれば安すぎます」
ララノアが無理してくれていることはわかる。彼女は、俺たちの事情を知っているのだ。
「ありがとうララノア。この恩はいつか返すからな」
「期待してもいいのでしょうか?」
ララノアは、笑顔全開でこちらに駆け寄って来た。そして俺がララノアに近づこうとした瞬間、上着をフミに引っ張られ、後ろに大きくのけぞる俺。
「ロディオ様、いい加減にしてください! お金なら私が畜奴隷になってでも工面いたしますので!」
俺は、フミに引きずられるようにギルドを出る。ララノアに『ごめん』と手を合わすが、彼女は何事も無かったかのように、笑顔で小さく手を振って見送ってくれた。
「全く……ロディオ様はエルフに甘すぎます」
「え……?」
俺には全く意味が分からない。
「あれはエルフの常套手段。ロディオ様の気を引くために、身銭を切って振り向かせようとしているだけです。以後、お気を付けください」
気を付けるも何も、かわいく優しいララノアに、俺はどうすればいいのだろう。
◆
その日の夜は、昨日の反省を踏まえ、俺は2人の布団の間隔を10センチ程度空けて敷いた。
「あっ」
しばらくして気付いたフミは、2人の布団の距離を詰めようとして手を止める。これが俺がわざと広げたことに思い至った様だ。
そして、すぐにフミは何事もなかったかのように横になった。
「お休みなさい」
「お休み」
しかしその晩、またもやフミは寝返りを打ち、俺の上着の袖をつかんですいよすいよと熟睡。この程度の距離では全く効果がなかったようだ。おかげで俺はこの日も寝不足である。
◆
「なあ、フミ」
「はい」
翌朝、俺はフミに寝室を別にしようと提案するつもりだった。もちろんフミは俺を台所で寝かせようとはしないだろうが、そこは交代制でもいだろう。
……。
しかし、俺を見上げるフミの瞳があまりにも眩しくきらきらしていて、俺は結局何も言えなかった。
「な、何でもない」
「……ありがとうございます。ロディオ様」
……?
フミは何か読心術か、特別なスキルでも持っているのだろうか。