第6章 第8話 もふもふ一家
サドルが、姉と母を伴ってやって来た。荷車に家財道具を山のように乗せて汗まみれである。
「ようやく着いたっす。よろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げるサドル。もふもふ尻尾をゆっくりと揺らしている。
「この度は、ありがとうございます。サリアと言います。よろしくお願いします」
お礼を言うのは、サドルのお母さん。大柄でふっくらとしている。サドルの話では、やせて病気がちな人を想像していたのだが……。
そしてサリアさんの後ろで恥ずかしそうにしているのは、リサ。次女だそうだ。もうとっくに成人はしているのだろうが、お母さんの後ろに隠れてもじもじ。もふもふ尻尾が恥ずかしそうに小さく揺れている。
「お母さんとお姉さんは、サドルと一緒にすぐにでもウチが用意した宿舎に入って頂いて構いませんよ。家賃は頂きませんし食事はウチの直営店ならカードの提示で無料です。もちろん温泉も、同じようにカードの提示で無料の入り放題です。何か不便なことがあれば、いつでもウチの者に言って下さい。それより、お母さんの具合はいかかでしょうか。体調が悪いように聞いたのですが……」
「え……? 私は元気で病気なんてしたことありませんが……」
「おい、サドル!」
「すみませんっす! 不幸そうに言った方が、採用されやすいと思ったからっす」
サドルはそう言って尻尾をしゅんと垂らす。
「全くこの子は!」
お母さんは、あきれ顔で両腕を組んで頬を膨らませている。もふもふ尻尾が怒ったようにぶんぶん動いている。今までハウスホールドの市場や食堂で働いて家計を支えていたそうだ。2番目のお姉さんは、長女やサドルとは大違いで極度の人見知りだそうで、今も顔を真っ赤にしているが、仕事は出来るという。
「もし、可能ならお姉さんには、教会の手伝いをしていただいてよろしいですか。シスターに伝えておきます。落ち着いたらサドルを通して、教会まで連絡をください。1日8時間労働、週休2日制、月15万からでどうでしょう。もちろん毎年昇給もありますよ」
「そんな好条件でいいのでしょうか」
「はい。もちろんです」
「ところでお母さんはどこで働きたいですか」
「できれば、宿屋か食堂で働きたいのですが」
ちょうど、『三の湯』のオープニングスタッフが足りていなかったところだ。お母さんには、中居さんとして働いてもらおう。
サドルの一家に用意した宿舎は、4LDKの一戸建て。もし、長女が帰って来ても、家族水入らずで暮らせるだろう。




