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第6章  第6話 同盟



 1か月後、『アイアンハンマー』さんたちから、大量の米と小麦、野菜を納入してもらった。実家が兼業農家だった田舎育ちの俺から見ても、お世辞抜きでかなり品質が良さそうだ。ご飯を炊いてみると、もう絶品。匂いだけでよだれが出そう。米以外の作物もつやつやしていていい出来だ。


 早速、竜丼と釜揚げうどんを試作する。『一の湯』のフードコートで試食販売してみたところ、これが大人気。俺も試食してみたのだが、元の世界のものよりおいしいのではないか。


 何しろ全ての食材が、無農薬の自家製であり、伝統的な製法を守って作られているからだろう。


 その中でも特に気に入ったのが、釜揚げうどんのトッピング用に開発した野菜のかき揚げと、ラプトル肉のてんぷら。竜丼なんて、どう考えても牛丼よりうまい。しかも、元の世界のものより値段も抑えて販売できそうだ。


 しばらくして、温泉の蒸気で蒸しあげた白米の上に、薄切りしたラプトルの肉をタマネギと共に甘辛く煮たものを乗せた丼の専門店『竜のや』が、ユファインの直営3店舗目としてオープンした。

 店長にはコザさん。申し訳ないが、年収1千万プレーヤーとして新店舗の立ち上げにまわってもらったのだ。もちろん、ベースアップに加えボーナスも考慮しますので頑張ってください。


 来月には、ユファイン産小麦を100パーセント使ったセルフうどん店『湯の花うどん』と天丼の店『てんや』がオープンする予定だ。ユファインの作物は、他の地域より大きくてたくさん実る。しかも収穫できる回数が多いことから、米や小麦をはじめとする農作物は、この世界の一般的な市場価格に比べ、3分の1以下のコストで調達できる見込みである。


 米を炊いたり、うどんを茹でたりするのも、それぞれ天然の源泉を使うので、燃料代も掛からない。ハンバーガーとポテトを中心としたファーストフード店の計画もある。


 その他、我が領内には風車が複数設置され、製粉や精米などに活用が始まった。領内の開発は順調に進んでいる。


 そんなおり、バランタイン侯爵からの使者がやって来た。



「お久しぶりです、ロディオ様」


 俺の前で柔和に微笑むクラークさん。一体、どんな要件だろう。


「実は、領地のことなのですが……」


「侯爵様は、大森林『竜の庭』の間にある空白地帯『大草原』に関して、所属をはっきりさせたいと考えられておられます」


「はあ」


 正直俺にとっては緊急の課題ではない。しかし、バランタイン侯爵からすれば大問題なのだろう。


 実は、バランタイン候の領地は、トライベッカを中心にして人口が急増している。もともと、伯爵だった頃から税金が安い上、領民に対してサービス精神が旺盛なだけあって、バランタイン領は人気が高く、人口は増加傾向にあった。

 それが、ハウスホールドとの交易が盛んになるにつれ、ハウスホールドだけでなく、サンドラからも人がどんどん流入してくるようになった。


 来月には、領都トライベッカは、共和国の商都サンドラを人口でも経済規模でも抜くのは確実だと言われているのだ。それに伴い、今後増え続ける人口を養うだけの大規模な農地の確保が求められているという。


「侯爵様の御意向は『大草原』の真ん中に運河を造って頂くことです。その運河を、2国間の国境にしたい。もちろん事業費として、バランタイン家から30億アールを支払いたいという事です」


 ユファインの開発には金がいくらあっても足りない。サーラ商会には借金もある。ラプトル肉だけでなく、温泉や外食店が好調なためそれほど深刻ではないにせよ、ずっと赤字財政が続いているのは気持ちのいいものではない。ここで30億アールが入れば、何とか一息つけそうである。


「グラン、どう思う」


「賛成です」


 グランはそう言うと、俺の耳元で囁いてくれた。


「我が領の負債は、来月で50憶を超えるのは確実です。この件が実現すれば、財政も一息つけると思われます」

 

 クラークさんは、実の父親を前にしても、スタイン家の執事としての立場を崩そうとしない息子に満足そうだ。俺は、クラークさんに引き受けることを告げた。


「ただし、こちらにも条件があります。平原の真ん中に運河を造るという話ですが、これを空白地帯の真ん中ではなく『竜の庭』に接する大森林ぎりぎりの所に造るのはどうでしょうか」


 もちろん、運河よりトライベッカ側にあたる大平原は全て侯爵領。俺には何も問題は無い。


「大森林をはじめ、周囲の危険地帯からは運河でドラゴンの侵入を食い止めますので『大草原』一帯は豊かな農地となるでしょう。費用は、運河の建設費の30億と土地代で、100億程度でいかがでしょうか」


「……っ!」


 さすがのクラークさんもあまりの規模に言葉を失っている。広大な空白地帯の半分を70億で譲るのは、破格の条件であることに違いない。大草原に今まで人の手が入っていなかったのは、ひとえにドラゴンの被害を考えて入植しなかっただけである。運河を築いてドラゴンの侵入を阻止さえできれば、肥沃な穀倉地帯が手に入ることだろう。


 俺としては現在、ユファインの中ですら造った農地の半分以下しか使えていない。今後農地が足りなくなったら、大森林の中にいくらでも作り出すつもりなので『大草原』には興味はないのだ。


「少しお待ちを!」


 クラークさんはそう言って、傍に控えている執事の一人に耳打ちする。


「今から侯爵様にお越しになってもらいます。今、港で出港の準備をしておられるはずですので、しばらくお待ちください」



 しばらくして、バランタイン侯爵が現れた。やや息が荒い。よほど急いできたのだろう。


「ロディオ殿久しぶり。今回は何とも思い切ったことを提案されたようですね。私からはその条件で十分です。すぐにでも現金を届けますので、準備が整い次第工事にかかっていただきたい」


「侯爵様。こちらにいらっしゃったのなら、お迎えにあがりましたのに」


「いや、実は、ハウスホールドに用がありまして。港でクラークたちと別れて、我々は直接向かう予定だったのです」


 本当に貴族とは思えないフットワークの軽さである。というか、バランタイン侯爵の中では、30億<ハウスホールドでの用件<100億ということなんだろう。


「それともう一つ。ロディオ殿の領地は、そろそろ国家を名乗られてはいかがかと思います。できれば独立に当たっては、我が領と同盟を結んで欲しいものです」

 

 同盟? 貴族同士の密約のようなものだろうか。バランタイン侯爵の登場により、この話は一気にきな臭いものになってきた。


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