第6章 第5話 出店
ユファインで必要とする人材は、基本はギルドを通して募集する。しかしそれでも足りない分は、ソフィを通してサーラ商会から派遣してもらっている。今日も商会から紹介された山エルフとドワーフの技術者がやって来た。商会の従業員も続々とユファイン入りしており、俺は、商会の従業員専用の宿舎建設のため、朝から基礎工事をしてきたところだ。
明日は、大通りに面した一等地にサーラ商会の大規模店が開店する日。普段は、トライベッカやサンドラ、更にはトーチやハウスホールドまで飛び回っているエルとロイの姉妹が、久しぶりにユファインまで来てくれた。
「「お久しぶりです!!」」
山エルフの美人姉妹が笑顔で俺にぶんぶん手を振りながら走って来た。2人とも、商会の制服なのだろうか、正統派のメイド服。短すぎるミニスカートが大きく揺れている。さすがはサーラ商会のナンバー2と3の自覚からだろうか。下にはいているものも、純白である。
……いや、見せんでいい!
2人は俺たちに近づいて握手。うーん、この2人がどちらも○○歳だとは……。エルフ恐るべし。
「2人ともご苦労様。少し休んでから、お店に来てくださいね」
ソフィが、優しく2人を労う。
「私たちは、船の中でお昼寝していましたので、少しも疲れていないですよ」
「今からでもすぐに働けます」
「まあ」
俺の隣でソフィが微笑み、俺にユファインの将来性について説明してくれた。
「ここは、本当に近い将来、名実ともに我が商会の本拠地にしたいのです。人口が現在約千人に対してその数十倍の人が毎日ここを訪れています。私たち商会の予想では、恐らく、近いうちに、ユファインの人口は10万を超え、その後も増え続けると思っていますの」
こんな大商会からそこまで見込まれているなんて、何てありがたいことなんだ。
「ソフィ。俺に遠慮することはないよ。しばらくは商会の仕事をしてくれても構わないから」
「ありがとうございます。ですが、何だか申し訳なくて」
「こちらこそ、満足な給料も出せなくて申し訳ないんだ。せめて副業というか、逆に本来の仕事かな。それくらいは認めてあげたい。それに、ユファインでサーラ商会が大きくなってくれることは、我が領の発展にもつながる。遠慮は無用。ソフィは、好きなだけ商会の仕事をしてくれていいよ」
「ありがとうございます」
ソフィは笑顔で2人を伴って、サーラ商会の出店予定地にまで向かう。最近のソフィは、自分に自信を持つようになったせいか、少しずつ、外出する機会が増えてきた。俺としてもうれしい限りである。
サーラ商会ユファイン店は、すでに壮麗な店舗の外観が仕上がっていた。グランが贖罪の意味を込めてか陣頭指揮を執り、ユファインギルドを上回る規模にまでに仕上げてくれていたのだ。元の世界の日本に例えるなら、床面積で言えば、老舗大型百貨店にも引けを取らない規模である。地上2階、地下1階の大理石造り。直営店やテナントも決まったそうだ。
ここの店長には、ソフィが直々に就任して、ゆくゆくは、商会全体を統括したいらしい。俺からは、商会への今までの感謝の意を込めて、工事費を無料にすることにしている。
◆
「……ふう。ようやく、離れてくれましたね」
そう言って俺にぴたりと寄り添い、腕を絡めてくるのはララノアである。
実は彼女は昨日ギルドに『年休』出して休暇を取っており、一人ボートに乗って俺たちの後をつけていたらしい。
昨日、俺がソフィと共に運河の視察を終えて、『二の湯』へ戻ろうとすると、旅館の入り口の前にララノアが腕組みをして立っていたのだ。どうも、俺が挙動不審な、怪しい態度を取っていたので、もしやと思って後をつけてきたそうだ。
どうして、俺の周りは、探偵みたいな女の子ばかりなのだろうか。
◆
「……ちょっと私としては、許せないレベルでした」
眉をぴくつかせるララノアを見て、俺は一瞬ですべてを理解した。
「ごめん、許して。そしてフミには内緒で!」
「まさか、あの後、結婚の約束なんてされなかったですよね」
「し、してない、本当だ! 」
ソフィからは、あんなことを言われたけど、俺は無言だったから、ぎりぎりセーフだと思いたい。
「分かりました。フミさんには内緒にしますが、その代わり、明日は私がずっとロディオ様とご一緒していいですか」
「ギルドの仕事は?」
「新しい受付嬢が入ってきましたし、彼女たちも仕事をずいぶんと覚えてくれました。個人的にも『年休』がまだまだたっぷり残っていますので、多少休んでも大丈夫です」
まさか、俺が取り入れた年休制度がこのように悪用されるとは思ってもみなかった。
ということで、俺は今日一日、ララノアを連れて、というか、彼女をエスコートしつつの領内視察となったのだ。
サーラ商会の新店舗を視察した俺は、次に農地に向かう。
南の農地では、『アイアンハンマー』さんたち一族の移住も完了し、本格的に農業が始まっていた。
「もう、すでに作物が実ってるだろう。明日から早速収穫させてもらうぜ」
ボルグさんの話によれば、俺が試しに植えた小麦やコメも収穫できるらしい。来月から、丼やうどんが試食できる見通しである。
「あと、どれくらい人手がいるかな」
「そりゃ、故郷の村がそのまま越してきても足りないくらいだな。まあ、俺たちで、南側の農地はできるところまで耕したい。北は、全く手が回らんが」
その後の領内の視察は、完全にデートモード。ララノアは、腕を絡めて、ここぞとばかり甘えてくる。
2人で足湯に浸かり、土産物店を見てまわる。お土産としてインパクトのある『名物』が欲しいな。何かいいものはないだろうか。
運河通りを船で遊覧し、最近できたカフェへ。ララノアはスイーツが好きだそうだが、まだまだ出せそうにない。砂糖と小麦粉の安定供給を急がないと。今のままではどうしても割高になってしまうらしいのだ。領主として、やることはまだまだ山積みである。
◆
長いような短いような一日も終わった。今日の記念に、ドワーフの工房に立ち寄った際に注文しておいた宝石をちりばめたネックレスをプレゼントすると、ララノアはすっかりご機嫌。宿舎の前まで送ると、目を閉じて体を寄せてきた。
「こんなことで、全てを許してしまうような、チョロい女だとは思わないでくださいね」
……
おかげで、昨日の事は、フミには内緒にしてもらえることになった。




