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第6章  第2話 サドル



 目の前の領地経営も大変だが、我がスタイン家の現状を見るに、大黒柱のグランがフル回転し続けている。これは様々な点からまずい。


 まず、労働条件についてである。グランは採用に当たり、最低時給での出仕が取り決められていたのだが、現状、グランはユファインで俺に次ぐナンバー2。その地位に比例して仕事量や責任も増えている。このような得難い人材の活躍に対して、今のままの待遇でいいのかという点。


 もうひとつは、グランに『もしも』の時があった場合の代替要員の問題。グランは我がユファイン領では唯一無二の存在なのだが、これは逆に、代わりが効かない状態を意味している。

 グランが何かしらの理由で仕事から離れれば、我がユファイン領はたちまち立ち行かなくなってしまうだろう。


 そして何より、グランにもゆっくりと休暇を過ごして欲しい。その為には、ぜひとも後継ぎになり得る人材の確保が必要なのである。


 執事の募集についてグランに相談すると、「大丈夫ですよ」と、一度はやんわり断られたものの、最終的には何とか納得してもらえた。


「執事が一人じゃ、余りにもグランが大変すぎるぞ。しかもこれからますます忙しくなる。もし、けがや病気にでもなればどうする。それに、グランにも休暇が必要だろう」


「ありがとうございます。そこまでおっしゃられるならお願いします」


 何とかグランには納得してもらい、ギルドで大々的に募集をかけたおかげで、しばらくすると何人かの候補者が見つかった。


 一人目は狐の尻尾の男の子。15歳だそうだから、俺からすれば、この子はまだまだ学ばせてやりたいところだ。

 面談すると、ハウスホールドの貧しい母子家庭出身。母は病気がちで、姉は2人いるが、長女は何と、『竜の庭』をつっきって、サンドラの方へ家出したという。残された家族で肩を寄せ合うようにして貧民街に暮らしているらしい。

 ハウスホールドでは若すぎて雇ってもらえなかったそうだが、ここでなら雇ってもらえるかもしれないと思い、一大決心でやって来たそうだ。フミはもう、ハンカチで涙をぬぐっている。


「『竜の庭』のど真ん中にある街なんて怖くなかったか」

「そりゃ、怖かったっす。だけど、ハウスホールドで働けそうなところは、全部断られたから、仕方なかったっす」


「もし、この街でも仕事を断られたらどうする?」

「その時は、トライベッカ、トーチ、サンドラ……」


 指を折りながら数え、俺に向けて、“ニッ”と良い笑顔を向ける。


「共和国に居場所がないなら、王国に行ってもいいっす。あ、でも、俺ももうすぐ16だから、そこまでしなくても、どこかで雇ってもらえるかも知れませんね」

「はい君、即採用!」


 何より俺が感心したのは、このバイタリティ。これは将来モノになるに違いない。トーチがこの子にまで”街”として認識してもらえていることもうれしかった。トーチの事を、よく知っていたものだ。


 俺の即決即断に、少年より脇に控えているフミやグランの方が驚いていた。


「ただし、18歳になるまでは、最低時給で固定する。家族の面倒は、俺が無償で見てやるから安心してくれ。すぐに連れてくるように」


 グランの部下にしてはいささか幼いが、彼にはグランの手伝いをしながら、勉強して欲しいものである。


「ああ、そうだ、名前を聞くのを忘れていたな」

「サドルと言うっす」


 身のこなしは俊敏そうだ。魔法は使えないらしいが、剣を習えばモノになりそうである。ハープンさんの所に預けるのもいいかもしれない。


 俺が、フミやグランに話していると、この男の子は聞き耳を立てていたようで、おかしそうに笑った。


「何すか? ハープンって、禿げ入道みたいな名前っすね」

「おいおいおい、準子爵にしてユファインのギルド長だぞ。的確過ぎて失礼だろ!」


「えっ、準子爵はともかく、ギルド長って、冒険者の親玉っすよね?」

「……」


「母ちゃんがよく言ってたっす。お前はくれぐれも、姉ちゃんみたいに冒険者にはなるな。自分の命を張り続ける仕事なんてろくなもんじゃないって」


 綺麗なもふもふ尻尾を左右に振るサドル。


「そのハープンっていう人は、長が付いちまうような冒険者なんだから、きっと俺の姉ちゃん以上の超ろくでなしっすよね!」


 本当に、この子は屈託なくよくしゃべるな。今度ハープンさんに会わせてやろう。


「お前の姉ちゃんは冒険者なのか。まさか名前は……」

「そ、それは言えないっす。なんせ我が家の恥なもんで」


 とにかくサドルには、今日一日、空き部屋で寛いでもらい、温泉とドラゴン肉を堪能してもらおう。明日にでも、家族を迎えに行ってもらうことにした。


 

 ◆



 次にやって来たのは、エルフ女子。彼女が部屋に入った途端、ふわっといい匂いが部屋にあふれるような気がした。


「どうぞお掛けになってください」


 俺の言葉に顔を赤らめて少し俯き加減のエルフ。それもとんでもない美人さんだった。こんな女性、見たことない。いや、かつて何度かだけ、お目にしたことがあるような……。


 白く透き通るような肌にさらさらロングのブロンズヘア。パッチリ二重で濡れた漆黒の瞳。鼻筋は小さくすっと通り、まるい唇はぽってりしている。優しい目元ではんなりとした雰囲気。胸はたゆんたゆんの癒し系。俺の目の前に、いつか見た美の女神が降臨していた。






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― 新着の感想 ―
[一言]  え~と、もしかしてサドルの姉って、ドラゴンをも一刀両断できる人ですか?
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