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第5章  第1話 レイン


 トライベッカの街には、あちこちにレインのポスターが貼られていた。それどころか、レイン名前の入ったお菓子の紙袋を持った子供とすれ違ったりもした。気になって店をのぞくと、レインの関連商品がいくつも並んでいた。気の毒に……。


 豪快そうに振る舞っているが、実はシャイで人見知りなのがレイン。そんな素顔を知っている俺としては同情に堪えない。


”コンコンコン”


 侯爵の屋敷に戻り俺に用意された客室でフミと一休みしていると、ドアをノックする音がする。早速レインの方から訪ねて来てくれたようだ。


「よお、お館様から聞いたぞ! また運河か」


「そうだよ。相変わらず、工事ばかりに駆り出されているよ。ところで、レインはすごいな。街に着いて驚いた。すっかり有名人だな」


「全く、外を歩きづらくてしょうがない」


 恥ずかしそうに、頭をかくレイン。


「ところで、マリアとは一緒に仕事をしているのか?」


「ああ、優秀なアシスタントだよ。すっかり俺の右腕だな」


 俺は内心、意にそぐわぬ人事を押し付けられたのだろうと、レインの事を心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。二人が仲良くやっているなら、何も言うことはない。


 レインは、水魔法を使ってトライベッカの地下に巨大な氷室の維持をしつつ、侯爵領内を回り、農地の改良や偶に出没するドラゴンの退治をしながら、空いた時間は魔法の研究をしているそうだ。


 その他、マリアをマネージャーとして、バランタイン候プロデュースの芸能活動にも従事しているらしい。マリアは、ちょうど俺の傍で色々サポートしてくれているフミのようなポジションなんだそうだ。


 バランタイン候からすれば、ユファインの領主に自分の息のかかった俺を据え、空いたお抱え筆頭魔導士をレインに任せることで、本業以外にも稼いでもらう。


 レインは自由な冒険者稼業から、定職に就いたことで自由は減ったものの、男爵として宝物庫へ出入り出来るようになった。魔法の研究が進むためレインにも利がある。これもバランタイン侯の信条である三方良しなのか……。


 ……いや、いや、いや!


 俺はどうだ。最初から別に、領主になんてなりたくなかったし!


 ゆっくり温泉に浸かって好きな酒や料理を楽しんでまったり過ごしたい。なのに土木工事三昧の日々。貴族ってこんなに忙しいものなのか? しかも、領主になったせいで借金まで抱えてしまった。なぜだ!


「領主で子爵様なんだから多少の借金なんて甲斐性だって! それより、お前とフミちゃんの方はどうなんだ?」


「はううっ」


 フミは顔を赤らめて俺の方を上目遣いでちらちら見つつ、もじもじしている。


「あのなあ、そういうことは、こんな所で言うもんじゃないんだよ」


 レインはフミの回し者なのだろうか?

 

「バランタイン侯爵の下じゃ色々と大変だろう」


「ああ。おかげで土魔法も少しはできるようになったぞ。お前みたいに大規模工事はできないけどな」


「そうそう、明日、ロディオやフミちゃんの懐かしい人が来るみたいだぞ」


 何と、今回の工事に、クラークさんは『アイアンハンマー』の皆さんを呼んでくれたらしい。


「本当ですか!」


 俺たちの話に聞き耳を立てつつ、荷物の整理をしていたフミが喜ぶ。


「どうやら、彼らも訳ありらしく、二つ返事で来てくれるそうだ。いろいろと事情もあるかも知れないから、その辺はよく聞いてあげた方がいいかもな」




 その後、俺たちは三人で久しぶりに街に繰り出し、酒場を何軒かはしごして思う存分飲んだ。いつかのお礼に、俺はようやくレインにおごることが出来た。よかった~。


「ところでロディオは、魔法の練習は続けているのか」


「うん。今はハープンさんやレインにアドバイスしてもらったやつを練習中だ」


「レインは?」


「俺は、暇なときは宝物庫にこもって調べものばかり。浮遊魔法の事が書いてある文献を見つけたんで、今はそれを練習中だ」


「すごいな。空も飛べるのか」


「いいや。2~3メートル浮くくらいかな。これでがけから落ちても平気だぞ」


 そう言って、俺の目の前でふわっと浮いてみせる。


 侯爵家を通して、サンドラの魔法学院から教授として招聘したいとの誘いもあったそうだ。


「もちろん断った。今の待遇は気に入っているし、俺が魔法学院へ行くとなったら侯爵だって大反対するだろう。それにあそこの蔵書はとっくに読み尽くしているし。ま、まあ、その……これは、決して自慢じゃないんだが、あそこには、魔法の知識で俺より詳しい人が見当たらないしな……」


 手で頭を掻きながら、恥ずかしそうに答えるレイン。それにしても、このレインの魔法研究への情熱はどこから来るんだろう。


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