第4章 第8話 採用
山エルフたちが本来の建築業務に戻り『キッチン☆カロリー』は、ハープンさんとララノアの指導の元、エルフたちが切り盛りするようになった。もちろんコスチュームを含めてお客様には大好評である。
そして、隣の『串や』も負けてはいない。こちらは、当初はお父さんたちの立ち飲み屋を想定したのだが、意外にカップルや家族連れも多い。
これらの2つの店は、それぞれ一応別店舗としているが、実は両店は厨房の奥がつながっており、従業員は臨機応変に人手が足りない方へ行くようになっている。
無駄なく人材を動かし続けるシステムの様で、我ながら少し抵抗があるのだが、人手不足の現状ではやむを得ない。店員の皆さんには、ねぎらいの言葉だけでなくボーナスもはずんでおこう。
俺とフミは、ユファインの道路と運河の整備を終え『一の湯』とギルドの先に建設予定の商店街と居住区の基礎工事にいそしむ日々である。出来次第、将来を見据え『二の湯』『三の湯』『四の湯』の基礎工事に取り掛かる予定だ。
ギルドの建物が完成した後は、さすがにハープンさんやララノアをお店で働かせるわけにもいかず、新店長として新たな人材を雇いたい。実は俺には意中の人物がいるのだが、果たしてうまくいくだろうか。
山エルフの奮闘もあり、完成間近のギルドについて、バランタイン候に手紙で報告すると、何と久々にユファインに来てくれるという返事が来た。1週間後に運河を船で出発し、その日の昼にはこちらに着くそうだ。
このフットワークの軽さは普通の貴族とは大違い。エルとロイに職工人の追加募集をお願いし『一の湯』の迎賓館スペースの工事を急いで進めてもらう。
そうこうするうちに、現在計画しているユファインのおよその基礎工事がほぼ終了。俺とフミは、明日から農業用地の手入れに取り掛かる。
かつて、バランタイン領では、俺が魔力を送りながら耕した農地は年に4毛作が可能だったが、ここ『竜の庭』ではどうだろうか?
とりあえず、農地の一区画を魔力を込めて攪拌して、野菜を植えてみた。どの季節にどの野菜がいいのかわからないが、米、小麦、大麦、ジャガイモ、サツマイモ、大根、ニンジン、カブ、キュウリ、ナス、玉ねぎ、ネギ、キャベツ、トウモロコシ……。現在アルカで流通しているほとんどのすべての品種を実験的に試してみることにした。
現状、ユファインの収入源の柱は、ラプトル肉のみ。俺としては、温泉に加えて、できれば農業でも収益を上げたい。
小麦が出来ればうどん。コメが出来れば丼ものなどの名物が格安でできそうである。ただでさえ、この地は、動植物が一般より大きく育つ。農業を試さない手はあるまい。
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そうこうするうち、バランタイン侯爵を乗せた船が、ユファインの船着き場についた。『一の湯』は、迎賓スペースと露天風呂は完成し、受け入れ態勢は万全である。
「やあ、ロディオ子爵。久しぶりです」
「お元気そうで何よりです。おかわりはありませんか」
相変わらず、気さくな侯爵と笑顔のクラークさん。爵位が上がっても、いつも通りの二人にほっこりする。
「さあさあ、とりあえずこちらで旅の疲れを癒してください」
俺はそういって『一の湯』に案内する。何とか間に合った迎賓館と自慢の露天風呂。まだオープン前なので、今は我々関係者のみが独占して使用している。この上なくぜいたくな生活だ。
領主の屋敷の建設は一番後に計画している。それまではスタイン家の者はモニターとして新しい温泉施設で過ごす予定である。
侯爵も『一の湯』の露天風呂がことのほか気に入ったらしく、風呂上りに浴衣に着替え、フルーツ牛乳を飲みながら明日の朝風呂の時間をチェックしようとしていた。今は24時間入り放題だと伝えると、とても喜んでくれた。何でも明日も朝風呂に入りたいそうだ。
その後の夕食は、源泉を使った蒸し料理をメインにしたドラゴン肉のフルコース。ドワーフ・ウイスキーを片手に、伯爵と共にたわいのない話でひとしきり盛り上がった後、俺はずっと気になっていたことをおねだりしてみた。
「以前、俺とフミが、サンドラからトライベッカへ来た時にお世話になったコザさんですが……。ユファインは、今、人材が不足しております。そこで是非、温泉好きなコザさんにウチの直営レストランの店長として来て欲しいのですが……」
「う~ん。彼は優秀ですからねえ……。今、年俸900万アールで働いてもらっているのですが、そろそろ給料も上げてやりたいと思っていたところです。今以上の年俸を約束してくれるなら、こちらとしては異論ないですよ」
「えっ、本当ですか?」
「はい。今の所、御者の仕事は彼の息子たちが引き継いでくれる予定ですし、長年の勤務で腰を痛めているそうです。こちらに移って温泉に入り、好きな料理を作りながら過ごすのが彼の幸せでしょう」
俺たち二人のトップ会談により、『キッチン☆カロリー』および『串や』の新店長にコザさんが内定したのだった。




