第4章 第3話 論功行賞 その1
「やれやれ、ひどい目にあったよ」
少しやつれた顔をしてレインがホールに到着し、ようやく全員が揃った。
「お帰り、お疲れ様!」
絶妙のタイミングで笑顔の伯爵が両手を広げて立ち上がり、一人一人に握手をしてくれる。
「レインもロディオもありがとう。やはり、領主として領民には楽しく生きて欲しいからね」
げっそりした表情のレインと俺。
そして多少切れ気味の表情で、俺たちの脇に寄り添うマリアとフミを見て、さすがの伯爵も少し、ばつが悪そうだ。
「みんなの活躍はよく聞いています。クラークとハープンは重大な交渉をよくまとめ上げてくれました。ロディオとフーミは工事三昧。レインや『サラマンダー』は、よく皆を守ってくれました。さすがは『ドラゴンマスター』です」
伯爵が手を叩くと、クリークさんとメイドたちがワゴンで飲み物と食事を運んできてくれた。
「とにかく、まずは飲みましょう! ……皆さん、グラスは行きわたりましたか? それでは、乾杯!」
伯爵の音頭の元、俺たちはグラスを高々と掲げた。本当にこの世界の人たちは、お酒が好きな人が多い。何かあればすぐに乾杯である。そして俺は、こんな文化が大好きである。
ひとしきり飲み食いし、話も弾んだところで、バランタイン伯が声をあげた。
「ところで、皆への臨時ボーナスなんですが、この場で発表してもいいでしょうか? 受け取りは後日となりますが」
「どうせ内緒にしていてもばれるんで、この場で発表してもらった方がいいですね」
ハープンさんの意見に一同うなづく。
「今回の報奨はスケールが大きすぎるので、皆の意見も聞きながら進めたいと思います」
「まず、今回の使節団、団長のクラーク」
「はい」
「団長として皆を率い、交渉を見事、成功に導いてくれました。これは、我が共和国が発展する大きな一歩です。この功績を金額で表すことすら難しいでしょう」
「クラークは今回、私の代理として見事役目を果たしたのですから、この度、子爵の爵位はどうでしょうか?」
……皆あっけにとられている。いくら何でもエールやワインを片手にする話じゃないよな。
「……ですが、私はほとんどお飾りの団長で、皆の働きのおかげで成功したのです。しかも、爵位を貰うことで、逆にバランタイン家の執事の仕事がしづらくなるかと……」
いやいやと手を振る伯爵。
「これは、長年当家に仕えてくれた筆頭執事に報いるという意味もあります。そして、今後のことも含めての事です」
「今回は、無位無官の執事の身でよく一国と渡り合ってくれました。今後は子爵として、クリーク男爵と共に我がバランタイン家を支えていって欲しいのです。」
「……伯爵様!」
「私など、今回の使節団には加わりもしていませんが?」
「そなたは、裏方を一手に担ってくれたではありませんか。それに、今回の報奨はこれまでの働きも含めての事。おそらく、そなたがクラークの代わりに全権大使であったとしても成功していたと私は思いますが」
「……はい。ありがとうございます」
伯爵にそこまで言われては、執事として断れないだろう。それより不気味なのは、バランタイン伯の“今後”という言葉。
恐らくクラークさん達は、これからますます伯爵の命で様々な舞台に引っ張り出されることだろう。
ちなみにアルカ共和国は、共和制のため王族はおらず、貴族の序列は、公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵・騎士爵の順になっている。
一番強大な貴族のバランタイン家が伯爵止まりなのは、力の劣る他の貴族に遠慮してきたせいで、実際は共和国の南を守る辺境伯の役割も担っていたそうだ。今回のハウスホールドとの通商条約締結で、一気に侯爵になるという。そして、バランタイン伯は、今回の通商交渉については、その後の恩賞までも含めて大きな権限が与えられていた。
元々、侯爵以上の貴族は爵位の任命に絶大な力が及ぶため、この様に自分の部下に爵位を与え、後から追認してもらうこともあるそうだ。
「加えて二人にはそれぞれ1億アールが与えられます」
「次にハープン」
「今回の使節団の副使として、そして冒険者の斡旋から運用まで取り仕切ってくれました。そなたの活躍、比類ありません」
「ははっ」
「よって、ハープンを準子爵にしたいのだがどうでしょうか?」
「いやいやいやいや! 俺が貴族様なんて無理です! クラークたちと違ってマナーも何も知らないんですよ。社交界で恥をかくだけです」
「あいわかった。なら、ハープンは恥をかかない様、中央への出仕を一切免除するのはどうですか?」
「それならまあいいですが……」
「では、ハープンには、ギルド長をしてもらうしかないですね」
「……えっ!」
「じゃあ、バランタイン家の仕事は?」
「それは、後で発表するとして、ハープンにも1億アールを与えます」
「次は、ロディオ」
「はい」
「バランタイン家筆頭魔導士としての、これまでの活躍、特に土魔法を使った公共工事は、古今無双と言ってもいいでしょう。数千億アールを使って、十年以上かかるであろう工事を、わずか数か月で成し遂げたのですから。おまけに、ドラゴンの討伐もありましたね。こんな短期間でこれほどまでの成果を上げた者は、共和国の歴史上、類をみません。
温泉については、トーチはバランタイン領として私が預かる以上、ユファインは、ロディオに領有してもらいたいと思います」
「もちろん、アルカから独立した領土ですから、ゆくゆくは別の国家ということになるでしょう。変な話ですが、外国の領主に共和国が爵位を与えるようなものですが、ロディオが落ち着くまでは爵位を貰っていて欲しいのです。ロディオのスタイン家は元々が共和国の騎士爵家。子爵が妥当かと思いますが、いかがですか?」
男爵以上は世襲の貴族。これで、俺のまだ見ぬ子孫も共和国内では安泰なのだが、いいのかこれで? だって、クラークさんと同列な上、クリークさんやハープンさんより、位が上なんですけど……。
「ありがとうございます。ですが、私の爵位が、ハープンさんやクリークさんより上なのはちょっと……」
「そうでないと色々不都合でしょう」
「は?」
「ロディオが治めるユファインのギルドには、ハープンに行ってもらう予定です。領主よりギルド長の方が爵位が高いと何かとやりにくいでしょう」
「ロディオにも1億アールを与えます」
「フーミは、ロディオの右腕として常に行動を共にし、筆頭魔導士補佐としてよくやってくれました。ロディオの素晴らしい活躍を支えてくれたのは、間違いなくフーミです。騎士爵位と5千万アールを与えたいのですが、他に何か欲しいものはありますか」
「はい。私は爵位やお金はいりませんので、これまで同様ロディオ様のお世話をしたいと思います」
「ほう。それは、ロディオと共にバランタイン家を出て、ユファインに移りたいということですか?」
「はい」
真っ直ぐな目のフミを見て、バランタイン伯も折れたようだ。
「わかりました。正直、あなたほどの生活魔法の使い手は喉から手が出るほど欲しいのですが……。私が必要な時には、ロディオ共々帰って来て仕事をしてくれるという条件で、許可したいと思います」
フミは嫌がりはしたものの、バランタイン伯に押し切られ、騎士爵位と5千万アールを受け取ることとなった。これでフミは奴隷から解放され、一気に貴族の仲間入りである。
「ぐすっ。ひっく……」
嬉しさと不安が入り混じったフミは、思わず俺の上着を掴んだまま、泣き出してしまったのだった。




