第4章 第1話 露天風呂 ☆
心の中に様々な想いを抱えつつ、俺たちは久々にユファインに着いた。まるで故郷に帰って来たかのような気分だ。船着き場には、ハープンさんとロイ、そしてトライベッカから来てくれた職人さんたちが俺たちを出迎えてくれた。
「よお!」
夕日に光り輝くハープンさんの頭部もまた懐かしい。かつて俺たちが造った温泉のすぐそばには、簡易宿舎が建てられており、周囲には材木などの建築資材が山のように積み上げられている。
ユファインは今後、トライベッカを経由した共和国と、ハウスホールドを中心とした亜人の領域との貿易の重要な中継点になる予定である。ハウスホールドから人員が到着次第、本格的な工事にかかる予定だ。
何はともあれ、先ずは露天風呂に浸かる。ああ~、極楽極楽。俺が一人で気持ちよく温泉に浸かっていると、外から何やらガヤガヤと声が聞こえた。
「本当、大商いですね。次のボーナスはすごいことになっていたりして!」
「まあ、それは私たち次第ですわね」
「ちょっと、そんなにくっつかないの」
「だってえ……」
「おい、お前たち、少しは落ち着け! せっかくの天然露天風呂だろうが!」
……。
何やら脱衣所がやけに騒がしい。
「あれ? 誰かいるかもなのです」
どうやら、エルと『サラマンダー』たちが入ってきたようだ。おい、ここは男風呂だぞ!
…………。
「「「「「きゃあー!!!!!」」」」」
慌てて身を隠そうとした俺だったが、すぐに女性5人に見つかり悲鳴を上げられた。
結局のところ、もう今日は誰も入らないだろうからと、職人さんたちが男湯と女湯を区別する暖簾をすぐにおろしてしまったらしい。
「ロディオ様!」
何とも痛ましい不幸な事故だった。
◆
ひと汗流した後は、皆との再会と、職人さんたちの紹介を兼ねてのバーベキュー大会。
ラプトルの肉と冷えたエールは、相性抜群である。そういえば最近、毎日宴会している。体はしんどいが、精神的にはストレスフリーで何よりである。湯上りに冷えたエールは最高のごちそうだ。
フミもすぐに機嫌を直し、少し気まずそうに俺のグラスにエールを注いでくれている。
「もう、ロディオ様、悪くないのなら最初からそう言ってください」
「俺は最初から言ってるぞ!」
俺の言葉を華麗にスルーして、フミは大好きなカクテルを飲みだした。ほんのりと耳まで赤らめ、両手でグラスを大事そうに持ってちびちび飲む姿は、何だか小動物みたいで、思わず抱きしめたくなるほどかわいい。
つい先ほどは、ひどい勘違いで人を(それも自分の仕えるご主人様を)正座させた挙句、さんざん叱りつけておいても許されているのは、何だか合点がいかないが……。
翌日、俺は、フミ、レインと共に、あちこち土地を見て回った。レインに地下を探ってもらうと、水脈が何本も地下を通っていることがわかったからだ。俺はあらかじめ計画していた温泉旅館計画と、地下水脈の状況を頭の中で照らし合わせつつ、ロイに追加の資材と人員の発注をした。アバウトではあるが、問題ないだろう。
そして昼にはトライベッカへ向かう交易船に乗せてもらった。何でもバランタイン伯が俺たちの到着を今か今かとお待ちかねだそうだ。少し嫌な予感もするが、トライベッカへの凱旋は楽しみでもある。
(四月咲 香月 さま より)




