第3章 第17話 ハウスホールド運河
多少のごたごたはあったが、俺たちは無事延べ200キロ以上にもわたる運河を完成させた。
恐らくこれで肉食ドラゴンの侵入はないだろう。なみなみと水をたたえたハウスホールド運河をひとしきり眺めた俺たちは、ひとまず王城に戻ろうとしていた。
できたての運河は夕日に映え水面はかすかな日の光を反射して、青く染まる。幻想的な美しさに、俺はふと足を止めてしまった。
エルビンもご満悦で、視察に来た王に何やら奏上している。
そして、ハウスホールドは、この運河のおかげでドラゴンを警戒することなく広い土地を無償で手に入れることになった。おそらく今後、人口もどんどん増えていくに違いない。
今回の交渉で、エルビンはハウスホールドの歴史上、たぐいまれなる功績を上げた偉人として讃えられることとなったらしい。
何でも、王国史にもその名を刻むことになるのだとか。エルは納得いかない顔をしていたが、仔細は俺たちの胸の内だけに収めておこうということになっている。少し可愛そうな気もするが、交渉の真意はまだ彼女たちに教えていない。
アルカからしても、ハウスホールドの発展は、自国の為でもあり、出来るなら北の王国以上に栄えてほしいものである。そして、この運河が造られたことで、それまであいまいだったハウスホールドの国境が画定した。要するに、俺たちが運河で囲った以外の土地には、ハウスホールドは主権を持たないことが確認された。運河の外は、空白地である。
俺たちは今日ゆっくり休んで、明日改めて王に謁見し、昼食後は、輸送船に乗ってユファインまで、戻ることになっている。ユファインでは、ハープンさんとロイが、資材と人材を集めてくれており、俺の到着を待って、本格的な工事が始まる予定だ。
山エルフとチーク材は、エルが掛け合って都合をつけてくれた。ドワーフの鍛冶職人も数十名来てくれるらしい。彼らは取り決めで、ハウスホールド以上の待遇は禁じられているのだが、各種温泉に無料で入り放題ということで、喜んできてくれるそうだ。こちらとしては、願ったりかなったりである。セレンやセリアに紹介されたエルフやドワーフは、もう少し後にユファインに来てくれることになっている。
フミは、自分の両親と弟の行方について、ハウスホールドで執拗に聞きまわったが、有力な情報は一つも得られなかった。この件に関しては、俺もフミに協力して出来うる限りのことをしたつもりだが、何の手ごたえも得ることが出来なかった。残念だがどうしようもない。
「絶対、私の弟や両親を殺しながら、しらばっくれているのに違いありません。そうに決まっています!」
フミは怒るが、俺としてもこれ以上は、本当にどうしようもない。クラークさんを通じて正式に国同士で交渉を続けているのに、一向に進展しないのだから。
俺は、ハウスホールドに後ろ髪を引かれる思いのフミをなだめつつ、全員でユファインへ向かう船に乗り込んだ。




