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第3章  第16話 休息

 


 全く! 昨日は肝を冷やした。

 サラがいなくなり、夜の森に一人で入っていった様子だったのだ。はっきり言って、ハウスホールド周辺は、『竜の庭』程ではないにせよ危険なことに変わりない。

 俺たちの旅ではディラノにはついぞ遭遇することはなかったが、ハウスホールド周囲の原生林には、何度かディラノらしい大型のドラゴンの目撃情報もあるという。

 どこに大物が隠れ潜んでいてもおかしくなかったのである。


 いくら腕利きのB級冒険者とはいえ、ラプトルの群れやディラノに遭遇すれば、命の保証はない。その行為がドラゴンを狩るための無断の単独行動だとすれば、決して許されるようなものではないのだ。


 全員がたたき起こされ、サラの後を追って森へ向かおうとしたとき、何とマリアまでもいないことがわかった。


「マリアの事だからどうせレインさんの所へ、夜這いかセクハラにでも行ったものとばかり思っていました」


 さらっとセレンからディスられているマリア。やはり普段の行いは大切である。


「とにかく2人を追う。夜の森は危険だ。みんな固まって進むぞ!」


 レインの号令の元、俺たち5人は森に入る。幸い、2人が入っていったと思われる場所は、レインの索敵魔法でおよそ分かった。


 レインが走りながら告げる。


「サラとマリアのおよその位置はつかめたぞ。ただし、近くに大きな反応がある。大型のドラゴンかも知れない」


 これが草食のライリュウの類ならいいのだが、ディラノならやっかいである。


「やばい、急ぐぞ!」


 俺たちは全速力で夜の森を駆け抜けた。


 森を進むにつれて緑が深くなる。ツタを薙ぎ払い、食虫植物の群生地を抜ける。ただただひたすら一直線に奥へ奥へ分け入っていく。


 すると、俺たちの眼の前に現れる大きな足跡。ディラノのものだろうか。

 かかと部分には爪が付いているようだ。レインは足跡を見るなり絶句。


「本当にやばい。急ぐぞ!」


 しばらく進むと、藪が開けて広場になったような所に出た。



「!」



 そこに血濡れて、横たわる2人の姿。



「おい、大丈夫か!」



 俺たちは最悪の事態も覚悟しつつ、2人に近づく。



「大丈夫だ」


「……ですわ」


 血まみれのサラと、鎧がはぎとられ、服もボロボロに破れてほぼ全裸に近い状態で地面に転がっているマリア。

 2人の姿を確認して一瞬血の気が引いたが、サラの血はドラゴンのもの。マリアも体には大きなけががないことを確認して一安心した。




 そしてその先には、頭部から腹部にかけて、真っ二つに切断された巨大なディラノが横たわっていたのだった。







「それにしても、凄まじい斬り口だな」


 翌日、解体所に運ばれたドラゴンを見て、俺とハープンさんはしみじみと感心していた。


 この雌のディラノは体長およそ20メートル。巨大な牙に鋭い爪。強靭な尻尾。俺たちが『竜の庭』で足跡を確認した個体だろうか……。



 これほどの怪物を一太刀で仕留めるとは、大したものである。肉は血抜きをした後、チルドにして保存された。運河が完成した後のパーティーに出される予定である。


 あの時、血まみれだったサラは、あらかじめラプトルの血を頭からかぶっていただけだったし、マリアも服や鎧はボロボロだったが、それは食虫植物に絡めとられただけ。体には浅い擦り傷くらいしか付いてなかった。


 サラは余程疲れたのかまだ眠りから覚めていない。マリアは目を覚ましたものの、今日は一日安静にするように言い含めて部屋に閉じ込められている。レインにつきっきりで看病してもらうこととなった。

 恥ずかしそうに嫌がるレインだったが、セレンとセリアが2人がかりでレインを強引にマリアの部屋に押し込めたそうだ。





 俺とハープンさんが「いやあ~女は強いねえ」などとしみじみ話していると、セレンとセリアがやって来た。


「マリアの様子はどうだった?」


「はい。すっかり落ち着いて甘えモードですね。今しがたフルーツの盛り合わせをレインさんに渡してきたところです。「あーん♡」なんてしているかも知れませんよ」


「いい雰囲気かもですう」


 してやったりという表情のセレン。セリアも嬉しそうに両耳をピコピコ上下に動かしている。


 何だかんだいっても『サラマンダー』は、仲間同士が深い絆で結ばれている。メンバーの幸せを自分の事のように願う気持ちが強いのだ。


「ところで、2人そろってどうしたんだ?」


「私たち、久しぶりぶりに里帰りをしたいと思いまして……」


「そうかそうか、ぜひ里帰りしてよ!」


「おい、ロディオ、お前なんかたくらんでいるだろ」


 ハープンさんが言う通り、2人にはこの際、是非ともゆっくりと里帰りしてユファインへ来てくれる人材を一人でも多く確保して欲しい。そのことを2人に伝えると笑顔で了解してくれた。


「はい。おそらくそんなことになるだろうと思っていました」

「私も、わかっていましたのです」


 さすがこの2人は頭がいい。安心して任せてもいいだろう。


「2人とも一刻も早く、ユファインで働いてくれる希望者を募って欲しい。はっきり言って一人でも多い方がいい。2人がいいと思った人材は即採用する。働きぶりに問題がなければ、正規登用を約束しよう」


「それなら、希望者が殺到すると思います」


「ですです」


「2人とも、人材の優先順位リストを作ってくれないか。この人なら間違いないという人物を教えて欲しい。ウチの家計が許す限り順に採用したい。頼んでいいかな?」


「私たちの里の者は、喜んで希望すると思います。何せ、給料はハウスホールドとほぼ同じで、家賃と食費が内緒で補助されるんですよね。おまけに温泉に入り放題! 1日当たり9時間拘束の8時間労働で、残業には、1、5倍の手当てが支払われるのでしょう。しかも主がロディオ様。エルビンと比べて女の子たちのモチベーションが違いすぎます!」


「ユファインに移住して領民になってくれる人もいるかな?」


「そんなの、いるに決まっているじゃないですか!」


「みんな希望するかもですう」


 俺としては、我が領民は、心根が優しくて他者に意地悪しない人であって欲しい。極論を言うなら、心が優しくて素直な人なら、犯罪者や奴隷の方が意地悪な一般人よりましだとさえ思っているくらいである。


 2人が里帰りをしている間は、工事を中断し、俺たちもゆっくりすることにした。


 今日明日にでも完成できそうだったハウスホールド運河は、この日から10日後に完成を迎えることとなる。


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