第3章 第15話 ディラノ
後日、俺がハープンさんから聞いた話は、こうだ。
その日の夜、サラは森の奥へ独りで入っていった。頭からラプトルの血をかぶり、全身を赤黒く染め、異臭を漂わせている。
……。
私は、自分のプライドにかけて、ディラノを一人で倒す。倒す、倒す、倒すったら倒す。
夜に一人で抜け出すのは簡単だった。『サラマンダー』のリーダーである自分を怪しむ者などいない。
森に入るのは久しぶりだ。ハウスホールドの匂いが、なんだかなつかしい。全身を心地よい緊張が包み、五感が研ぎ澄まされる。
ところが、いつまでたっても獲物には会えない。自分はドラゴンの血を頭からかぶっているというのに。
もうすぐ夜明けだ……仕方ない。
帰ろうと思ったとき、前の林の奥から何やら見知った声が聞こえた。あ、あの声は……。
「……くっ、殺せ!」
茂みをかき分け、声のする方へ行ってみると、なぜかマリアが周囲のつたに手足をからめとられて動けなくなっている。どうやら誤って巨大な食虫植物の触手に捕まっているようだ。
そして、目の前には念願のディラノ。
「ギリャーッ!」
周りの空気がブルブル震える。マリアはもがいているが、もがけばもがくほど、触手が服に食い込んでいるようだ。服はもう、ぼろぼろに破れている。鎧もあらかた外れており、かなり肌があらわになった状態。というか半裸。
「お、お前が私をどうしようが、心まではお前のものにはなりませんわ! くっ……こ、殺せ!」
……こいつは、ディラノ相手に何を妄想しているのだろうか。そんなことより、念願の獲物が目の前にいる。
「何ばかなこと言ってるんだ! しかもあいつはメスだぞ!」
「……くっ殺?」
私の声にマリアは反応してくれてた。大したけがはなさそうだ。
「うりゃあーっ!」
私はディラノに躍りかかった。
最初の一撃は、鋭い前足で払いのけられる。体ごと持っていかれ、マリアの傍まで飛ばされた。何とか無事に着地する。くそ……腕が痺れている。
「サラ!」
「マリア!」
私は素早くマリアの手足に絡みつく触手のようなツタを斬り払った。
「いくぞ、マリア!」
「承知しましたわ!」
今度は2人でディラノに斬りかかる。
マリアの槍がディラノに迫る。マリアの素早い槍さばきでディラノの注意が逸れた。
チャンスだ。
精神を集中する。全身の魔力を大業物『フェンリル』に集める。大剣が、赤く淡い光を帯びた。よし!
「でりゃああああああ!」
私はディラノに躍りかかり、獲物を頭から唐竹割に真っ二つにした。
…… ……
マリアも体力の限界なのだろう。肩で息をしながらその場でへたっている。
「お前、何でここに?」
「だって……」
マリアは今回、全く華々しい活躍が出来てないことを密かに気に病んでいたという。騎士としてこれではいけないと思っていたそうだ。自分と同じく功を焦り、できれば独りでディラノの討伐を成し遂げたかったという。
本音の所は、今回のクエストで、せっかく期待していたレインとの仲が進展しないことに業を煮やして極端な行動に出たといった所だろう……。
いいよ。本心は言わなくても。
……なんだ、自分と同じだな。
「“くっ殺”の件は、見なかったことにする。私たちは2人で、ディラノ討伐のため森に入り、見事打ち取った。それでいいな」
無言でうなづくマリア。そして、明け方、2人で力を合わせて、血抜きを終えた頃、ロディオたちに遭遇したのだった……。
「おーい、大丈夫か!」
◆
皆に事情を話し、無事に帰還することができた。何分夜間の無断行動である。
私たちは全員から叱られたが、マリアは泣きながらレインに抱き付いていた。しかし、今日のレインはいつものように嫌がらず、逆に優しくマリアの頭をなでていた。
良かったなマリア。しかし何故か微妙に腹立たしいのはなぜだろう。
皆が喜んでいる様子を隅から見やり、もういいかとその場から背を向けて自室へ戻ろうとしたとき、不意に呼び止められた。
「サラ!」
「……!」
「無事でよかった。もう、無茶するんじゃないぞ」
彼はそう言って私の腕を掴んで引き留め、優しく抱きしめてくれた。
「……心配かけてごめんなさい」
私の髪を、ハープン様が優しくなでてくれたんだ……。




