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第3章  第14話 サラ



「ここらへんでいいかな」


「うーん、もう少し右ですね」


 俺とフミは図面を見ながら慎重に作業をすすめていた。フミが、測量のための棒を手に取り500メートルほど先に行く。俺はその目印に合わせて地面をU字型に圧縮。

 その後は表面に石のブロックを浮き上がらせ、隙間なく敷き詰めていく。それに合わせて、フミが風魔法で、上から圧縮した空気を送りプレス。誰から教わったものでもない俺たち2人の連携である。


「うわ……相変わらずすさまじいな。お前の魔力、ますます増えてんじゃねえか」


 俺とフミの間から、索敵で周囲の気配を探っているのがレインである。そして、レインの傍近くで警戒に当たっているのがマリア。


「レイン様は私がお守りしますわ」


 いや、お前が守るのは作業員の俺たちだろ!


 レインの話によると、魔力は使えば使うほど増えるという。肉体や筋力と違って、衰えるものでもないのだとか。昔から魔法使いに年配が多いのもそういう理由らしい。俺も最近、自分の魔力が増えているように思う。


 俺たちがあらかた作った運河の底で、ブロックの位置を整えたり大きさをそろえているのはドワーフのセリア。

 黙々と作業している。そんなセリアの傍で全体を見守っているのがセレン。

 セレンは弓や風魔法だけでなく、教会で洗礼を受けたシスターでもあり、治癒魔法もできる。昨日も俺は筋肉痛にヒールをかけてもらったところだ。

 土木作業をしているせいで、切り傷や擦り傷も絶えないが、セレンの方から先に気付いて治してまわってくれている。本当によく気の利く姫騎士である。きっと将来はいい奥さんになることだろう。


 そして一人、先頭で皆から離れ大太刀を握りしめているのが、サラ。

 この刀は、いわくつきの大業物らしく、かなりの重量なのだがサラは軽々と扱っている。

 常に肌身離さず付けているせいで、今では自分の体の一部の様になっていると言っていた。





「ふーっ、ふーっ」


 大きく息をしながら獲物を探す。左右前後、如何なる方向からディラノが現れても、間合いに入り次第一刀両断する準備はできている。


 しかし……現れるドラゴンは草食のものばかり。


 たまに出くわすラプトルも単体。しかもこちらには向かって来ず、自分の姿を察知すると素早く逃げる。

 私は血に飢えている。今回の仕事で、私は何一つ成果を上げていない。パーティーとしてもだ。


 これではまるで『サラマンダー』は、私は、レインやロディオの引き立て役ではないか。

 冒険者には、口はいらない。何よりも雄弁なのは、自分の腕。

 そしてそれを表すのは打ち取った獲物である。


 正直、『サラマンダー』は、人気のあるパーティーではない。どちらかというと、周囲から疎まれているというか恐れられている。


 一部の“良識”をふりかざす人たちからは、自分たちが半ば、反社会勢力扱いされていることも聞いている。おそらく、ギルドでの大立ち回りなどが原因だろうが、自分は一切弁明するつもりはない。


 今回の依頼は、『サラマンダー』としては十分実入りもいいし、楽しい思い出も出来た。

 クエストは間違いなく成功である。しかし、せっかく『竜の庭』に出かけ、他の者が何十匹もラプトルを仕留めているのに、自分たちはゼロだ。


 例えるなら、腕利きの釣り師が、自分がボウズにもかかわらず、周囲の釣り人の釣果を指をくわえて見ているのに近い。



 夕方になり、今日も一日が終わる。運河の工事は順調だ。特に今日からは山エルフとかいう娘たちが10人くらい加入したせいもあり進みが早い。完成までもう少しだ。

 明日の朝には運河の進み具合の確認のため、ハープン様がユファインから帰って来られる。


 この運河が完成した後は、ここで私たちが“仕事”としてドラゴンを狩るチャンスは当分ないだろう。この気持ちは何だろう。色々な感情が私の体の中で渦巻いている。



 ……その夜、誰にも告げずに、サラは部屋を出て行った。





「大変、ロディオさん、ロディオさん!」


 早朝、まだ日の出前、セレンが両手で俺の部屋のドアをノックしていた。


「空いてるよ」


 俺の声に、セレンが泣きながら乱入してきた。


「ロディオさん、サラがいないの。きっと一人で森に行ったんだわ」


 部屋に飛び込んでくるなりせレンが号泣。この大騒ぎのせいで、近くの部屋にいる人たちが、何だなんだと起き出してきた。俺のベッドに飛び込み、俺の胸に顔を押し付け号泣するセレン。



 すぐに、たくさんの人が俺の部屋に集まって来た。あ、あの……俺は無実です。みんなそんな目で見ないでくれ!



 何だか俺がベッドでエルフを泣かしているような構図になっている。

 一番に俺の部屋に飛び込んできたフミは、そんな俺たちを見るや否やこちらも別の意味で大号泣。混乱にさらに拍車をかけてしまっていた。


「うわあああーん!」


「いやフミ、誤解だ!」


「ひっく、ぐすぐす……」



「フミ、俺たちは何もやましいことなんてしていないから!」


「俺たちですって!」


 ムキー! とフミの怒りに余計に油を注いでしまった。


「もし、ロディオ様に何か間違いでもあれば、フミは、亡き奥様や旦那様に何と申し開きをしたらいいか。……も、もう、手遅れみたいです~」


 俺のベッドでしくしく泣いているセレンと、泣きながら怒っているフミ。後から集まって来たメンバーは、一様に白い目で俺を見ている。


「いや、フミ! 本当~に違うから! ……っていうか、それどころじゃないんだよ!」


 ようやく落ち着いたセレンが、涙を拭いて事情を説明してくれたおかげで、俺への疑いがやっと晴れた。

 ……っていうか、こんな事をしている場合じゃないよ!


 

 とにかく、サラを探そう。ディラノを探しに一人で行ったのかも知れない。俺は、レインと森へ向かおうとしたのだが、セリアの叫び声で動きが止まる。


「大変です。マリアちゃんもいないのです、です!」


「「「「「何だって~!!!!!」」」」」


 その場にいた全員で思わずハモってしまった。


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