第3章 第7話 休暇
国の代表使節団が、勝手に休暇を取ってもいいのかはわからないが、クラークさんがいいというので、まあいいんだろう。
翌日は、コーヒーのいい香りで目が覚めた。休暇だというのにアイアンハンマーさんたちはいつも通り起床し、寝ている皆の為に、コーヒーとパン、スープに卵、ドラゴン肉のスライスにサラダという朝食を作ってくれていた。ちなみに肉と卵とサラダは現地調達で新鮮そのものである。
「年を取ると早く目が覚めるんだよ」
「若者はぐっすり寝ときな。今まで俺たちは散々守ってもらったしな」
決して恩着せがましくせず、明るく陽気に朝食の準備をしてくださるホビットの皆さん。素敵すぎです。
朝食後、俺、フミ、レイン、セリアの4人で、この辺りに他にも温泉が出るか調べてみることにした。しばらく辺りを探ってみると、やけに地表が熱い場所を、露天風呂の近くで発見した。砂蒸し風呂を作ろう。
ストーンウォールで、かまくら風の建物を作り、その中にきめの細かい砂を入れる。我ながらいい出来だ。
皆は、砂蒸し風呂は初めてだったらしく、珍しそうにしていた。その他、暖かい泥地は、少し掘ると温泉が出てきたので泥風呂に、その隣に炭酸泉があったので炭酸風呂を作った。本当に、ここは泉質がバラエティーに富んでいる。仕上げは運河と同じく、『アイアンハンマー』さん、エルとロイの山エルフ姉妹も手伝ってくれた。
俺たち温泉掘削組が、夕方までの作業を終え、湯に浸かって出てくると、キャンプ地の中央広場では、宴会の準備が整っていた。
広場の真ん中には、ラプトルの焼き肉。それに源泉で蒸した野菜とラプトルの肉。他にもピザやパスタなどが並んでいた。
「みんなが、頑張って温泉を掘ってくれてたからね」
「私たちはその間、お料理をしてましたの」
「今日はいつもよりスパイスをたくさん使っています」
「まあ、運河のおかげであまり見張りもいらないしな」
全員がそろったところで、クラークさんが、グラスを持って宣言する。
「みなさん。この旅も半分まで来ました。今日は十分、英気を養ってください。これまでの旅の成功と、この素晴らしい温泉を祝して、乾杯」
「かんぱーい」
久しぶりに心から楽しめる酒である。何より見張りの必要がないせいで、全員がそろっていることが嬉しい。
「いや、ロディオさん、これはすごいです。トーチ以上のお風呂ですよ」
「これが空白地帯なのはもったいない。早く領有してしまいましょう」
皆、まるでこの温泉を俺のもののように言う。
「我々はアルカ共和国の代表使節団ですよね。ということは、この温泉は、共和国の物になるのかな」
俺は焦りながらも発言するのだが、しばらくしてレインが、ゆっくりと首を振った。
「いや、この空白地帯において、温泉を掘り当てたのは、ロディオだ。第一ロディオはトーチも掘り当てているのに、バランタイン伯に取り上げられているだろ。トーチはバランタイン伯の領地だったから仕方ないが、いくら何でも空白地帯にできた温泉を、国や貴族が取り上げるのは外聞が悪すぎる」
普通は、空白地帯は名乗ったもの勝ち、見つけたもの勝ちになるらしい。しかしさすがに『竜の庭』のような危険地帯を所有したいという物好きもいなかったため、歴史上、誰も領有したことがなかったということだ。
「伯爵家は、今回の通商と街道、運河の整備に加え、トーチの開発で手が回らないのが現状です。この通商交渉が終わった後に、ボーナスの一環として、一般的な報奨とは別に、この地をロディオさんに治めてもらうことになるかも知れません」
「いや、待ってよ、もしそうなら、俺はバランタイン家に仕えながら領主になるの?」
「独立した領主になってもらい、伯爵家とは表面上は離れていただくことになるでしょうね。バランタイン家との雇用条件の見直しは、些細な事ですので、後から何とでもなります」
「それどころか、将来、ここは独立した国家になるかも知れないな」
腕組みしながら頷くハープンさん。
おいおい、恐ろしいこと言わないでよ。領主になんかなっちゃったら忙しくて仕方ないんじゃあ……。いや、逆にのんびりできるのかな。
……ってか俺が将来、国王か?
「おそらく、この地は独立した勢力に治めてもらう様にしておかないと、共和国内でバランタイン伯の力があまりにも大きくなり過ぎます。自分の息のかかった者に治めさせて、裏で手を握って協力体制をとるのが無難ですね」
マリアが冷静に分析してくれた。そういや彼女は、大商人の娘にして、士官学校出身のエリートだった。何気に頭良いな。普段あまりにもレインに夢中で、ダメっぷりをさらけ出しているため、すっかり忘れていた。
「将来は湯めぐりしたい」
「ここが温泉リゾートになったらいいのに」
皆、他人事のように温泉トークで盛り上がって夜が更けていった。




