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第3章  第3話 襲撃


 俺とフミの息の合ったコンビネーションで、運河も街道の拡張も順調である。先発隊はもう最初のベースキャンプを張っている頃だろう。何でも“ドラゴン討伐歴が多く、野営が得意なパーティー”というくくりで人選をしたらしいから安心である。


 エルフの商人、エルとロイの姉妹は手持無沙汰のため、『アイアンハンマー』さんたちに混じって主に街道整備の手伝いをしていた。2人は別に雇われていないので、働かなくてもいいのだが、2人はエルフの中でも、通称、山エルフと呼ばれる種族だそうで、物作りが得意らしい。

 逆にじっと見ている方が、つらいそうで、自主的に工事に参加してくれている。

 レインは相変わらず作業を行う俺たちの真ん中で索敵を行う。魔力は尽きないのだろうか。


 ハープンさんたちと別れてから、10キロ近く進んだ。今日はもう少し運河と街道の拡張をして終わり。俺とフミは、U字型のトライベッカと同程度の運河を掘りつつ、街道も整備していった。


「おーい、フミ、いいかあ~」


「はーい、いいですよ~!」


 2人、息を合わせてゆっくり作業していく。うららかな日差しの中、そよ風に吹かれて、実にのんびりとした気分だ。



 出来たばかりの運河に、水を満たして、工事を終えようとしていた頃、突然レインが鋭く声を上げた。


「来るぞ! ドラゴン」


「……!」


「南から、50。さらに西から30……くそ、多い。俺は南。ロディオは西を頼む!」


 レインはそういうと南へ走り出していった。おそらく、南からのドラゴンは、レインなら一人で大丈夫だろう。問題は俺。急にドラゴン退治って……聞いてないし! しかも30匹もなのか?


 すぐさま、整地作業中の『アイアンハンマー』さんたちが、得物を剣に持ち替えて中央に固まる。後ろにエルフを入れて守っている。流れるような動きだ。D級とはいえ腕利きベテラン冒険者の肩書は伊達じゃない。


「フミも行け」


 俺はフミに、『アイアンハンマー』さんたちの防御陣に入るよう言い、一人でドラゴンの群れと向き合う。


 俺には生まれて初めての戦闘である。膝ががくがく震えるが、やるしかない。


 小型肉食竜ラプトルの群れが見えた。体調は2~3メートルで、ドラゴンとしては小型だが、集団で突進してこられると、ものすごい迫力だ。地響きを立てて、突撃してくるドラゴンの群れ。砂煙が舞い上がり、大地が揺れる。


 すぐさま相手の足元を液状化させたが、数匹転んだだけ。あとはこっちに向かってくる。


「ウインドカッター!」


 先頭の1匹だけ倒れる。


 ドラゴンの大群が迫る。もう目の前、5メートル。どうするか……。


「ストーンウォール!」


 やはり、今の俺にはこれしかない。俺の目の前に迫るドラゴンを睨みながら右手を突き出す。すると、たちまち俺の目の前の地面がせり上がり、石壁がドーンと出現した。


「ギャーッ」


 ラプトルの叫び声と地響き。何体か壁にぶつかった様だ。


……しばらくすると、


「キュリャアアア!」という叫び声とともに、数匹ずつ石壁を乗り越えてきた。


 壁を飛び越えてきたものを、ファイヤ―ボールで狙い撃つ。一匹、二匹、三匹……。次々と倒していく。


 ……20匹程仕留めた。俺が大きく息を吐いて呼吸を整えた瞬間、


「ギリャアア!」


 10匹程が、一塊になって飛び出してきた。


「ファイヤ―ボール!」


 次々と仕留めていくが、打ち漏らしたのが数体、フミたちの方へ。


 1、2……。3体いる。


 すると、フミが『アイアンハンマー』さんたちの前に出てきた。


「ファイヤーボール!」


 フミのファイヤーボールは3発放って2発命中。先頭と後続を続けざま2匹仕留めるが、3匹目が迫る。


 俺も慌ててファイヤ―ボールを放つが、外れた……。


 うわ! もうだめだ……。


 すると、守りを固めていた『アイアンハンマー』さんたちが一塊になって前進し、フミを守るようにラプトルとぶつかった。フミはその場で腰を抜かしたようで動けないでいる。


 ……。


「どかーん!」


 ラプトルが5人と体当たりし、『アイアンハンマー』さんたちは、全員吹き飛ばされたが、ラプトルの動きも止まった。


 チャンスだ。


「ファイヤーボール!」


 最後の1匹をようやく仕留めることが出来た。





「皆さん、大丈夫ですか」


 フミの無事を目の端で確認し、『アイアンハンマー』さんたちに声をかける。


「これしきの事、平気さ。なあみんな」


「おうともよ!」


 派手に吹っ飛んでいたが、全員うまく受け身を取っていたようだ。軽い擦り傷や切り傷だけで済んでいる。さすがだ。


 俺はすぐさま、荷物からポーションを出して渡したが、飲んでくれなかった。


「こんなもの、ケガにも入らねえよ」


 確かにそれはそうかもしれないが、感謝の気持ちだと言って渡すと、何とか受け取ってもらえた。お土産にしてくれるそうだ。


「……フミ、大丈夫か。全く……無茶したな」


「……」


 軽く涙をにじませ、下を向くフミ。


 少し咎めるよな俺の口ぶりに、ボルグさんが口を開いた。


「いや、兄ちゃん。嬢ちゃんが2匹仕留めてくれなかったら、俺たちもタダじゃあ済んでいなかったぜ」


 腰を抜かして涙目のフミを起こし、改めてお礼をする。そう。頭ではわかってんだよ。

 ……くそ、何が筆頭魔導士だ。俺だけじゃフミ1人、守れなかった……。


 落ち込む俺の耳に、鋭い咆哮。運河を挟んで東からまたもラプトルの群れが見える。血の臭いに引き寄せられたようだ。どうなってるんだ。まだ、『竜の庭』に入ってもいないのに……。


 運河を挟んで、ラプトルが次々と集まってくる。血の匂いに惹かれたのだろうか、もう50匹以上いる。


 こうなったら一か八か試してみるか……最大出力で水魔法を使おう。


 目の前の運河がたちまち水で満たされた。


「ギャギャギャギャ!」


 俺たちの目の前に現れた、水を満々とたたえた運河にラプトルの大群は立ち止まる。


 まるで怯えたように、こちらには来ようとしない。


「ロディオ様……これは?」


「ああ、トライベッカでは運河がそのままドラゴンや猛獣よけになったろ。こいつらにも効くのか試したのさ」


 もう魔力は少ないから、そこらにあった小石をドラゴンにぶつける。『アイアンハンマー』さんたちやフミ、エルたちも加勢して石を投げ続け、無事、ラプトルの大群を追い払うことができた。



「おーい、大丈夫かあー」


 レインが駆けつけてきた。前方の大群は、残らず凍らせてきたらしい。


 俺は、安心したせいか、レインの姿を見て、その場でへろへろと倒れてしまった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] キネノベ二次通過おめでとうございます(*≧∀≦*)すごいっ!! ドラゴンとの戦い、アニメ化したらこんな動きだろうな〜、と想像しながら読むと面白さ倍増でした♪ フミちゃん、よく頑張ったね。゜…
2021/09/18 06:39 退会済み
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