第2章 第10話 家族
フミの話の内容はこうだ。
フミには双子の可愛い弟がいた。家族4人で幸せに暮らしていたのだが、この弟がある貴族の目に留まった。この貴族の家は代々男子に恵まれず、夫婦が気に入った男の子を養子に迎え入れて家系をつなげることが多かったらしい。
フミの両親は悩んだ末、この子の将来を考え、貴族としての生活を送った方がいいと養子に出したそうだ。当然、養子には出したものの、たまには会えるものだと思っていたらしい。しかし、弟が実家に里帰りすることはなかった。
「その貴族はエルフだったんです」
なぜ、エルフが人間の子供を養子にしたのかはわからないが、エルフの里には子どもは成人するまで里を離れてはいけないというルールがある。問題はその成人年齢。女子は15歳で成人し、一人前とみなされるが、男子は20歳が成人年齢である。これは女子に比べて男子は生まれにくい上、体も弱く幼くして命を落としやすいからというのがその理由。エルフの世界では他種族に比べて男性を大事に育てる習慣があるそうだ。
一般的に人々が目にするエルフ族は、圧倒的に女性が多い。それは、少ない男子はそのほとんどが生まれ育った国から出ず、家を継いで里の重要ポストで働かなければならないように、宿命付けられているからだという。
20歳を過ぎるまで息子に会えないと知った両親はびっくりし、慌ててエルフの里へ会いに行くことにしたのだが、そこでエルフの掟に阻まれる。
「エルフの里には男性しか入れませんでした」
エルフの社会に他種族の女性が入ってくるのはタブー。家系を繋ぐことを最も大切に考えるエルフにとっては当然のことらしいが、フミの母親やフミ自身も里に入れてもらえなかった。フミの両親は最初、いくらなんでも実の子に会うのだから許されると思っていたそうで、とてもショックを受けたそうだ。
「そこで仕方なく、父はひとりで弟に会いに行きました」
父子の再会を果たし、父親が無事帰ってくれば何も問題はなかったのだが、そうではなかった。
フミの父親はいつまで経ってもエルフの里から戻って来ず、1年後、代わりに一人のエルフの女が、多くの家来を連れて家に来た。
「彼女は、お母さんと私に、父は自分のものになったと宣言しました。怒った母が抗議しても聞き入れてもらえませんでした。その後、母は単身エルフの里に乗り込み、父を連れて脱出したのですが、2人とも大森林『竜の庭』で消息を絶ちました」
フミは一人残され孤児になり、ほどなくして悪い商人にだまされて奴隷になったという。すぐに俺の母親に買われたのは不幸中の幸いだったのだろう。
このエルフの里というのが最近王国となったハウスホールドで、フミの弟が養子に出された先が、サーラ家という貴族家だそうだ。
「じゃあ、ソフィさんの家が関係してるのか?」
「何らかのつながりがあると思います。私の両親はエルフに殺されたのも同然です。おまけに弟も、奴隷商人から病没したと聞かされました。私はこれ以上、エルフに奪われるのは嫌です」
やはり原因はソフィさんだったのか。フミからすれば、自分の宿敵かも知れないサーラ家の娘が目の前に現れたのだ。フミからすれば、ハウスホールド自体が悪の巣窟なんだろう。
「私がショックだったのは、それだけではありません。ロディオ様は、いつもはあんなことなかったのに……昨日は思いっきり見とれておられました!」
……面目次第もございません。
「ロディオ様を無視したのは、私なりの抗議の気持ちからです。本来なら許されないことだと思いますが、ここまでしないと私の気持ちが収まりませんでした」
フミは、俺から解雇されるのも覚悟の上の行動だったという。
「わかった。ごめん、フミ……」
俺はフミに謝り、2人仲良く屋敷に戻った。フミも何とか俺のことを許してくれたようで、ようやく仲直りできた。サーラ家については、俺からも聞いてみよう。




