第13章 第19話 最終話 その1
読者の皆様、ご愛読ありがとうございます。すみません。その1って……。何だか加筆していると、長くなってしまいまして……。次回で本当に最終回です。あの……。これ、本当に作者の未熟さのせいでして、確信犯じゃないですから、お許しください。最後までご愛読、よろしくお願いします。
あれ……明るい。
俺はレインの家で寝ていたはずなのに、目を覚ましたのは、光が差し込むベッドの上……。この柔らかで、ふかふかの布団と、真っ白で清潔なシーツは、見覚えがある。
そうそう……そういや俺は、昨日は、レインの家の地下で久しぶりに日記を読んでいて……。
……ま、まあ、俺も久しぶりに、したたか飲んでいたし、酔っぱらってはいたのは、仕方ないよね……。
……そ、そして、いつの間にか眠ってしまったと思う。多分……。
……もう夜も遅かったし……。あまり記憶はないが、多分、大した粗相もすることなく、大丈夫だったとは、思うのだけれど……。
……あ、ああ、そういや、あの日は、珍しく、月がふたつ出る特異日だったよな。
こんな日は、狐に化かされないよう、気を付けなきゃあ……。
……なんていう、そんなおとぎ話もあったっけ……。
……し、しかし、今見えているのは少し古風なペンション風の天井。明るい陽射し。白く清潔なシーツ……。知らない天井どころではなく、思いっきり知っている天井が目の前にあります。
俺の頭の中のコンピューターが、高速回転で、この状況を割り出している……。
……お日様の匂いが、鼻腔をくすぐる。これが、ダニが焼け死んでいるときのにおいだなんて、元の世界のことは、気にしないでおこう。
柔らかな日差しがまぶしい。
そして、外からは、可愛らしい小鳥の声……ああ、幸せな気分だ。そう、俺は幸せなはずなのだが……。
…… ……。
……ここがどこだか、俺は知っている。
えっ、まさか、まさか!
いや、俺、なあ~に、まったりしてんだ!
最悪の事態が頭をよぎる。俺は、ベッドの上で、慌てて体を起こし、すぐ横にあるはずの手鏡を探した。
あるはずの所に手を伸ばしたのだが……。
あれ? ない、ない、……ないぞ!
今までなら、これまでの転生のときなら、確かこのあたりにあったはずなのだが……。
これじゃ、埒があかない。たまらず俺は、ベッドから飛び起きて、部屋を出た。スリッパもはかず、裸足で、部屋から転がるように外に出た。
わき目もふらず、洗面所目指して、慌てて長い廊下を走り出す。
どいたどいた!
俺を目にして、不思議そうに部屋から顔をのぞかせるメイドたち。申し訳ないけど、勘弁してくれ!
……そう。この時の俺の感覚は、まるで、マ○リックスのワンシーンのように、ゆっくりとスローモーションで、あたかもコマ送りのようなものだったように思う。
その、お盆で口元を隠している、君。
黒を基調とした、正統派にして、ミニスカートのメイド服の、最近入ってきてくれた、犬耳のメイドさん。
ぺたんとたれた柔らかそうな耳の上に乗っている、白のカチューシャが、かわいいです。今度、時間のあるときにほめたいな。
ん? その猫耳は、ミーシャか。うん、可愛い。そして、狐耳のメイドたちは、もふもふ尻尾がたまらんな……。
そして、俺は、不謹慎にも、今、この瞬間に、初めて気付いてしまった。
……ど、どういうわけか、俺の屋敷には、人間のメイドはいないという事実に……。
俺の屋敷の使用人は、全てがエルフかケモ耳の女の子。……のみなんですね……。
いや、従業員の皆さん! 俺には全く不満はないよ。これは、俺の屋敷で働くことを希望する人間の女の子はいなかったのか、もしくは凄く少なかったということですね。
ウチのメイドの皆さんは、とっても可愛らしくて、俺は嬉しいのだけれど、何だか少し……。
……これはこれで悲しくなってきた! そりゃ、俺は、元の世界で、嫁どころか、彼女すらいなかったけどね。
ところが、しかし! 今この世界で、エルフやケモ耳の女の子たちから慕われているのだから、良しとしよう。というか、しております。はい。
いや、いや、いや、負け惜しみじゃなく、こっちの方がいいからね。日本のリア充諸君。どうだ、うらやましいだろう……。
そんな、アホなことが、頭によぎったのだが、それはともかく、俺は、スローモーションのようにコマ送りとも思える世界で、それでも両足を必死に動かしていた。
皆ごめん。そんなにびっくりしないで。後で説明するから……。
こ、ここから、一番近い所にある鏡は、ここだ。
……。
良かった! やった! 俺だ! 30過ぎたナイスガイのままである。と、いうことは、今回は見事、成功したのか!
「や、や、や……やった~!」
全力で吠えた俺の叫びが屋敷中に響いた。
そのせいか、すぐにサドルがやって来た。
「もう、朝っぱらから何なんすか、昨日は大変だったんすよ!」
昨日、サドルは、俺が、レインの家に出かけたとの話を聞いて、慌てて後から来てくれたらしい。
「寝袋が、酒でびしょびしょになっていたっす。風邪ひくといけないんで、俺がここまで、連れてきたっす」
「そ、そうだったのか。ありがとう。でも、何で来たんだ?」
「いや、だって、さすがに俺も悪いと思ったっすから」
「は?」
「先週で、10年だったっすから」
「は?」
「いや、サイドの意識が、黙っといてやれと……」
「……」
「いやー、風邪ひかなくてよかったっす。でも、独り言を言いながら、酒を飲んでる姿は、ナルシストっぽくてキモかったっす」
「……」
「さすがに、俺も、教えてあげないと悪いなあ~って、思ったっすもんね」
「ここまで運ぶの大変だったんすよ。俺としては、もっと感謝して欲しい所っすね」
「……て、て、てめえ!」
怒りに震える俺。もはやこいつに容赦する必要はないだろう。
「うぎゃ~!」
気付いた時には、俺は風魔法でサドルを吹っ飛ばしていた。屋敷の天井に大きな穴が開いたが、小さなことだ。
「ど、どうしたんですか、ロディオ様!」
フミ、ララノア、ソフィがびっくりして駆けつけてきた。よかった。と、とにかくよかった! 俺は、あふれる涙を止めることもできない。
俺は、そのまま、キョトンとする可愛い妻たちを、3人まとめて抱きしめたのである。




