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第13章  第18話 前日

 何か、この話を投稿するのも、残り僅か。次回が最終回となります。当初の予定では、GW前に終わる予定だったのですが、延びてしまいました。それでも感慨深いです。読者の皆様、ありがとうございます。

 ご、ごめんなさい。あと1話ではありますが、2回分ありますので、よろしくお願いします。



「あのなあ、サドル。黄金比のこと、知ってるのなら最初から言えよ」

「いやあ、俺もロディオ様から言われるまで気づかなかったっす」


 そういって悪びれることなく、もふもふ尻尾を揺らすサドル。


「じゃあ、他に何かいい情報を持っているのなら、今教えてくれ」

「うーん、何もないっす」


 今度は尻尾が自信なさ気に垂れ下がっている。


 そして、俺たち……サドルに言わせれば、サイドのおかげで、我がユファイン領は、俺の採掘に頼らずとも、毎年黒字を積み上げられるようになった。


 人口が流入している上、余剰資金で設備投資と奴隷の買い取りと解放を繰り返すこともできている。

 平均寿命も上昇したせいで、『三の湯』が本来の使われ方をされるようになってきた。今日も、お年寄りの団体客で大盛況。

 『三の湯附属病院』も大忙しで、俺は、医師や看護師だけでなく、元の世界でいうところの、理学療法士や作業療法士にあたるような人材の育成に頭を悩ませているくらいである。


 


 一方、バランタイン領は少しずつ発展を続けるものの、アール公国から独立することはないようだ。この前、クラークさんとも話したのだが、あくまで共和国の最大勢力というポジションに留まるという。


 ブルームーンは、俺とダグでリシャールを助け、クーデターを阻止した。


 北の王国は、相変わらず借金体質だが、そこへの融資元は、いつの間にかアルカからユファインへと変わっていた。借金漬けのため、自己破産させることで、王家一族を退位させることと引き換えに、リシャール王の皇子を即位させることになった。



 その日、北の王国の首都、コアントローの街は沸き立っていた。

 王族の退位と、新たな王の戴冠式。まるで、名誉革命の様な、無血での大政変である。もちろん、元の王族たちには、十分な領地と手当てを施されている。


 俺は、このセレモニーを、王城の中ではなく、一般国民にもよく見てもらうために、中庭に面した、城の大きなバルコニーで行うことにした。中庭には、一般参賀の国民が詰めかけている。


 俺の前で跪く、ブルームーンの元皇子。後ろには父親のリシャールとダグリューク。俺は王冠を持って皇子の元に進み、その頭に王冠を被せた。


 その後は、新たな王によるパレードに大観衆が街道を埋め尽くした。俺は、無料でラプトルのバーベキューを開催。古くなったワインも無料で放出。もう、街はお祭り騒ぎである。


 国の借金のために緊縮財政と増税を強いられてきた国民は、この新しい王を大歓声で迎えた。何しろ、王の後見は、大陸最強のユファイン王。この日の即位の儀のタイミングで、国民には大幅な減税と現金給付が実施されたのである。



「いやあ、やっぱりみんなが楽しく騒いでいる姿を見るのは、いいよな」


「はい。ロディオ様」

「こちらまで、楽しくなる気がします」

「商会は、いつでもお手伝いしますわ」


 俺は、3人の奥さんと一緒に、王城のテラスから手を振っていた。


 そして我がユファイン王国は、来年で建国10周年を迎える。面積こそ小さいものの、人口や経済力、そして軍備の面でも、大陸一の強国となっていた。





 3回目の転生を終えた俺は、もうすぐこの異世界に来て30年になる。もはや、この世界こそが、俺の本当の故郷のような気がしてくるから不思議だ。


 サドルによると、成功したかどうかは、明日の朝わかるらしい。

 もし、失敗していたとすると、俺の存在、そしてこの世界はなかったこととなり、俺やレインがこちらに転生してやり直してきた世界が、まるごと消去され、最初から俺たちがいない世界に戻るという。


 失敗すると、100年後の大戦とその後、500年にもわたる内乱が、人々を苦しめることで、間違いないそうだ。


 この日の晩、俺は一人で、サンドラにあるレインの家を訪れていた。ウイスキーと簡単なつまみ、それと寝袋と今まで書き溜めた日記帳を持って……そうそう、レインが好きだったエルフ関連の本も、あるだけ持ってきたからな。



 俺の愛する3人の妻たちに関しては、この一か月、思い残すことのないように、思う存分可愛がった。


 そして、この事は、かわいそうだけど内緒にしてきた。今日もさり気なく出てきたつもりである。


「ロディオ様」


「ああ、今日は、たまたま、ギルドで打ち合わせが入っていたんだ。フミが気にするようなことは何もないから」


 俺はフミを抱き寄せて、思い切りクンカクンカさせた。フミも納得したのか、いい笑顔で、俺を送り出してくれた。ララノアとソフィもやって来た。


「ロディオ様、いってらっしゃいませ!」


 俺は、愛する3人の嫁に見送られてここに来たのである。





 レインが住んでいた家は相変わらずだった。俺は、真っ直ぐ、かつて、サイドの立体映像を見た部屋に向かう。最近忙しくてあまり来られなかったせいか、少し埃っぽい。


 手早く掃除した後、魔法陣が描いてあった場所に寝袋を敷き、グラスを2つ用意する。今日は、レインとさしで飲みたい。


 グラスにウイスキーを注ぎ、常温の水を注ぐ。グラスに満たされた酒を静かに揺すると、ぱっと香りが広がった。さすがは『近衛騎士団』。


 レインは、ステアが酒造りに参加して完成させた、こいつがお気に入りだった。最初の転生で造った酒だったが、今回も上手に再現できたと思う。


「なあ、レイン……。聞いてるか。俺はこの3周目の10年間、ベストを尽くしたよ。今回は、人に任せたりせず、自分の力で、ユファインを世界の真ん中にした……」


 俺は、これまで書きためてきた日記帳を取り出し、この世界で経験した出来事をひとつひとつ、かみしめるように思い出しながら、ページを繰っていった。


「俺は、この世界を安定させるために、努めたんだ。なあ、“正しい選択と行動”って、結局、何だったんだろうな……」



 ……。



 そして……やがて、酔いが回ってきたのだろう。今までの疲れや緊張もあってか、俺はそのまま、酔いつぶれるかのように、その場で眠ってしまった。




 …… ……。




「……しょうがないっすねえ」


 小さくいびきをかく俺の前で、もふもふ尻尾が、小さく揺れていた。


是非、次回の最終話(その1と、その2です)を読んでください。よろしくお願いします。

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[一言] どうなるんだろうなぁ結局( ̄▽ ̄;)
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