第13章 第16話 第三婚約者
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そうこうするうち、クラークさんがやって来た。
「ありがとうございます。素晴らしい街道に運河ですね。お約束の28億アールです」
従者に指示して、大量の金貨を持って来ようとするクラークさんを俺は押しとどめた。
「あの、我が領は、国になることを目指しています。今は、お金より、人材が欲しいのです」
「おっしゃる事はわかりますが」
「私は……この28億で、後ろの2人をスカウトしたいのですが」
「な、何ですと!」
そう。クラークさんに付き従っている2人こそ、グランとステア。俺も驚いた。
「我が領は、何もかも一からです。わずか28億で2人がうちに来てくれるなら、こんなうれしいことはありません。もちろん、このお金は契約金ですので、別途、給料は支払います。年俸制でも構いません」
「さすが……というべきでしょうか。しかし、この2人にそれほどの価値があると?」
「はい。間違いありません。筆頭執事と、近衛騎士団長を任せたいと思います」
びっくりするクラークさんだったが、この俺の言葉に、初対面の2人が感激してくれた。
「父上、よく父上が言っておられたではありませんか“士は己を知る者のために死す”と。私は、執事としてロディオ様にお仕えしたく思います」
「私も、同感です。しかも、一目見ただけで、『竜の庭』に新たに建国される国家の初代近衛騎士団長とは……。武人としてこれほどの誉はありません」
「はあ……確かにあなたたちの士官先について、思い悩んでいたことは事実。早速お館様に連絡を取り、ご裁可を仰ぎましょう」
クラークさんは、小さくため息をつきつつも、約束してくれた。
サーラ商会には、ラプトル肉と、材木の取引を任せることになった。エルによると、来週にもソフィが視察に来るらしい。そこで、正式に契約が成立するということだ。
「言いにくいことなんですが……ロディオ様、お気を付けになってください」
何やらエルが神妙な顔で言う。
「うん? ソフィのことか?」
「はい。私がこのようなことを申し上げるのは、はなはだ失礼なのですが……」
エルによると、ソフィは、人一倍感受性が強く、他者から悪意を受けると、傷つき方も大きいという。
「ソフィ様は、お心が傷付くと、しばらく臥せってしまわれます」
「そ、そこまでなのか……。だけど、俺は、ソフィを傷つけるようなことはしないよ」
「いえ、ソフィ様は口に出されなくとも、相手の心をご自分で推し量られて、悲しまれることが多いです」
「実はソフィ様は、その……スタイルが……。ですから、特にご自分の容姿について、他人からどう思われるかを、とてもご心配されています」
「だ、大丈夫だ……。心配ない」
俺は、怒りで震える体を鎮めながら答えた。
誰だ、ソフィを傷付けてきた奴らは! 許さん! もう、わかった! ソフィは俺が保護する。世の中の悪意から守ってやる。あんな可愛い子だぞ! 何考えてやがんだ。
彼女は容姿が、この世界の価値観に合っていないだけである。一刻も早く、俺がソフィを癒してやりたい。なんで、あんなに外見だけじゃなく、心まで可愛い子が傷つかなくちゃならない? 世の中おかしいだろ!
……いや、いかんいかん。思わず熱くなってしまった。
俺は大きく深呼吸して心を鎮めた。
エルによると、サーラ商会の中では、ユファインに大規模旗艦店を出す方向で話が進み、後は、ソフィの裁可を待つだけとなっているそうだ。俺は、契約が無事終われば、ソフィに自分の気持ちを打ち明けるつもりである。
◆
トライベッカに帰ったクラークは、すぐにバランタイン伯の執務室に向かっていた。
「おお、クラーク、ご苦労様。あの二人の仕官は、うまくいきましたか」
「はい、それが……」
クラークがことの顛末を語ると、バランタイン伯の表情が、一気に険しくなった。
「『竜の庭』に国を造る、ロディオ=スタインですか。かなりの人物の様に見受けられますね」
「はい。一見、お人よしに見えますが、ただ者ではありません」
「敵に回したくない。できれば、手を結びたいものですね」
「その通りでございます」
「二人の仕官は、我々が、かの国と絆を深める、契機となってくれるといいですね」
そういって、バランタイン伯は、満足そうに微笑んだ。
◆
「失礼します」
エルとロイの姉妹にエスコートされて、サーラ商会の頭取が、俺の執務室までやって来た。
俺は、思わず言葉を飲み込んだ。何度見ても、美しい。何か今日は、神々しさまで感じる。そんなソフィは、相変わらず、俺の感覚からずると、美の化身にしてビーナスとも呼べるくらいの存在である。
こんな素晴らしい女性が、自分の外見にコンプレックスを持っているなんて……。
「ソ、ソフィ!」
「……?」
悠然と柔らかな笑みをたたえているソフィが、内面ではあんな葛藤を抱えているなんて信じられない。
「ソ、ソフィ! お、俺は……」
俺は、商談もそこそこに、プロポーズしてしまった。
「ロ、ロディオ様……」
さすがに、エルとロイもドン引きで固まっている。ソフィは、悠然とソファに腰を掛けたまま動かない。小さく笑みをたたえたままだ。相変わらずビーナスみたいな美しさである。
……あれ?
「た、大変です!」
「ソフィ様が、気を失われていらっしゃいます」
とにかく、ソフィは気を失っているだけらしいので、大急ぎで部屋を用意させて、休んでもらった。
◆
そして、俺は今、エルとロイからお叱りを受けている。俺はいくら偉くなろうが、いつも女性から叱られることが、もはやテンプレになっているのだろうか。
「何てことをされるんですか!」
「男性に対して免疫のないソフィ様に、いきなりプロポーズするなんて、考えられません!」、
「そうです、するのなら私たちにしてください!」
「いやいや、エルもロイも既婚者だろ」
「ですが、私たち、2人とも未亡人です」
「婚活中です」
「誰か、いい人いませんか?」
一体、お前たち何歳なんだと言いたかったが、俺は、言葉を飲み込んだ。
「……あれ?」
いきなり、プロポーズって……
そう、実は、俺はこの“3周目”の世界では、ソフィと初対面だった!
今気付いた。やっちまったよ、おい。
俺は、頭を抱えることになってしまった。
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