第13章 第15話 人材
ご愛読ありがとうございます。このお話も、もう少し続きますので、最後までご愛読のほど、よろしくお願いします。
街道整備と運河造りは慣れたもので、仕事はサクサク進むのだが、何かしっくりとこない。俺は、小さくため息をつくと、隣の相棒を見遣る。まあ、仕方がないことなんだけど……。
……そう。いつもならフミがいた場所。俺の傍らにいるのは、美少女メイドではなく、もふもふした、しょたじーさん。はあー。
「誰が、しょたじーさんっすか!」
「俺は、何も言ってないぞ」
「何も言ってなくても、意識が漏れてるっすよ!」
「お、お前はそんなことまでわかるのか?」
「当たり前っす。誰に口きいてんすか! 正直、漏れているどころか、だだ漏れっす」
何という奴だ。腹立たしい反面、少し尊敬してしまった。
「例えるなら、意識の洪水っす!」
「……」
かつてレインが、幽霊みたいな状態になったとしても、元の世界に帰って家族の顔が見たいなどと言っていたよな。
それは、このサイドみたいに、自分の意識を元の世界へ飛ばすことだったのだろうか。
そのことをサドルに話すと、偉そうに胸を張って威張りだしやがった。
「これほどの高位魔法は、儂くらいしか無理じゃな。まあ、レインさん程度じゃ力不足っすね」
意識だけじゃなくて、2人の喋り方まで混ざって、何だか気持ち悪いことになっているぞ。こいつは、俺にとって、はなはだ腹立たしく、どう見ても失礼な言動が多いが、今は我慢することに決めている。
それでも俺たちは、驚異的なスピードで、街道を広げて平坦にし、石を敷き詰めて舗装。両端に運河を造っていく。今回フミは休憩中に俺に魔力を送ってもらうだけにしている。
サイドの意識が目覚めて覚醒したサドルの魔力量は、俺よりはるかに多いのだ。俺も特訓して、随分魔力量も増えたとは思うが、サドルと並ぶと、バランスが取れないほど少ない。微妙に腹立たしい現実だが、仕方ない。
「これじゃあ、俺たちの仕事が無いよな」
「雑用と料理番くらいか……」
『アイアンハンマー』の皆さんは、やや不服そうだ。折角の旅なのに元気がない。元々彼らのことをよく知っている俺は、複雑な気分だ。
確かに、点検や微調整が必要ないくらい、俺とサドルの仕事は完璧なのだが……。
……ん? しまった! 皆さんの仕事を無理のない範囲で残しておくことにしよう。俺は、『アイアンハンマー』の皆さんをユファインへスカウトしたい。そして、是非とも農業部門を任せたい。自然と彼らに活躍の場を作ることにしよう。
「おーい、ボルグさん頼みます」
「よっしゃあ! おい、皆、出番だぞ!」
「おうともよ!」
意気込んで、運河や街道の微調整をする『アイアンハンマー』の皆さん。
「何すか、ストーンウォールの精度が落ちているっすよ」
……こ、こいつは……。人の気も知らないで、偉そうな奴だ。
◆
俺たちは、ライリュウなどの大型草食ドラゴンの雄大な姿を眺めつつ工事を続け、トライベッカを出発して、わずか、3日でユファインに到着した。
『一の湯』は、ほぼ完成していたので、皆さんを、早速露天風呂に案内し、寛いでもらうことにした。
ユファインの街には、たくさんの山エルフやドワーフが入り、忙しく働いている。俺はすぐに温泉の掘削作業。もう慣れたもんである。
今回は、公共的な性格は薄めている。100年後の未来のため、温泉リゾートを造るより、富国強兵を最優先したい。一先ず温泉は、『一の湯』から『四の湯』まで。そんなに儲ける必要もないので、直営店もフードコートに出すくらいにとどめておく。
……ですがもし、うまくいったら、10年後は、思いっきり、住民の皆さんのために頑張りますよ!
今回は、資金はうなるほどある。農業以外の産業の育成は後回しにして、まずは人材の確保が先決である。
セレンとセリアは、それぞれ、故郷を中心にハイエルフの里やドワーフの里をまわって、人材募集に行ってもらった。『アイアンハンマー』の皆さんも、それぞれ、一族を連れての移住を決めてくれた。
サラとマリアは街の見回りや、警備をこなし、フミは、得意の生活魔法を教会の手伝いに役立ててくれている。
◆
そして、1か月後、ララノアがやって来た。しかも、サンドラギルドの後輩を10人も連れて。彼女たちは、簡易事務所でしばらく、頑張ってもらうことにしよう。ギルドの完成まであともう少しなのだ。
「ロディオ様!」
笑顔のララノア。俺の横のフミが警戒して俺の服をつかむ。
「よく来てくれた。こっちが、俺の第一婚約者のフーミ」
「そんなあ。恥ずかしいです……」
フミは俺の紹介を気に入ってくれたようで、両手を胸に当ててデレている。
…………。
そして、俺は、フミの方を向き直った。大きく深呼吸する。
覚悟完了!
「こっちが、第二婚約者……。に、したいと、俺が思っているララノア」
「はああ!」
フミ眉間にしわを寄せ、絶叫したのだが、そんなことはお構いなく、ララノアが俺の胸に飛び込んできた。
「ロディオ様! 嬉しいです」
フミは最初は、ぷるぷると体を震わせて怒っていたのだが、第一婚約者として、納得してくれた。
「ま、まあ、ここは正妻としての余裕をお見せしないといけませんものね……」
どうやら、俺が領主となった以上、奥さんを複数養わなければいけないことに思い至ってくれたらしい。 一介の領地を持たない貴族や、冒険者ならともかく、流石に、領主の第一婚約者として、ここでごねれば、非難されるのはフミの方。顔を引きつらせながらも、無事了承してくれた。
この日、俺は一日中、フミにかしずいて過ごすことにしたのは、言うまでもない。
「面白い!」「続き読みたい!」などと思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をお願いします! していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかも知れません! ぜひよろしくお願いします。




