第13章 第10話 勝負
いつもご愛読ありがとうございます。未だに訳も分からず、本能の赴くまま投稿している作者です。毎度毎度のことですが、もう少しで完結いたしますので(絶対、詐欺じゃありませんので、ご安心を!)あと少し、ごひいきのほど、よろしくお願いします。
結局、交易における『アール』での決済という共和国側の希望は通らなかった。そして俺たち使節団一行が、トライベッカに引き上げる途中、俺とフミは、ダグから付けてもらった、ドワーフや山エルフの大集団と共に、ユファイン付近に留まった。
護衛やギルドへの報告はサラたちに任せ、俺とフミは、大急ぎでユファインの街づくりに取り組む。魔力が増した上に、もうこれで3回目なのだ。すっかりコツをつかんだ俺に加え、魔力を供給してくれるフミもいるので、今回の土木工事はそれほどの事でもない。
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俺とフミは、1か月もしない内に、運河や城壁及び、街中の基礎工事を終えた。残りの工事や建物は職人さんたちに任せ、俺たちは、ハウスホールドからユファインまでの街道と運河を造る。
これは、ダグと約束したもの。完成すれば、我が領と、ハウスホールドとが安全に繋がることになる。
ただ、ユファインからトライベッカ方面は、そのままである。何だか意地悪しているみたいで心が痛むが、仕方ない。
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ユファインの基礎工事と、ハウスホールドまでの街道及び運河の整備ができたところで、俺はフミと2人でサンドラに向かった。
こちら側には、当然運河なんてないので、馬車での旅である。街道は、あまり丁寧には舗装されておらず、難儀しながらも、一週間以上かけて、サンドラに到着した。
俺は迷いに迷って、勝負することにしたのだ。本当はもう少し時間をかけて、考えた方が良いのかもしれないが、慎重になりすぎて手遅れになるのも困る。
…… ……。
翌日、俺は、お供を一人連れてレインの家へ。レインのいない3周目の世界で“正しい選択と行動”をするためには、サイドの力が必要だ。それも出来るだけ早く欲しい。
魔力を込めて仕掛けを解除していく。地下に入って灯りをつけ、足元の魔法陣を確認する。異常はないようだ。ここに、サイドの意識が憑依した者を立たせると、サイドの意識がよみがえるらしいが、チャンスは一度きり。
油汗が出てきた。俺は緊張でのどがカラカラである。
ごくりとつばを飲み込み、ゆっくりと深呼吸する。
「ここだ。この魔法陣の中に立ってくれ」
…… ……
「大丈夫。心配するようなことは何もないよ」
心なしか、俺の声も震えている。念のため、魔法陣の周囲をもう一度確認。大丈夫だ。後は、俺の見立てが正しいかどうかだけ……。
◆
ドキドキしている俺の事などお構いなしに、もふもふ尻尾が左右に揺れる。
「それにしても、きったない部屋っすねー。お宝でもあるんすか」
全く……。緊張感のかけらもない奴だ。本当にサドルでいいのか、自信がなくなって来た。
俺がサドルで試そうと思ったのは、明らかに出来すぎるから。
かつて、サドルに執事としてのイロハを教えてくれたクラークさんも、サドルべた褒めだったものだ。バランタイン家に欲しいとまで言われたのだが、あの時は国境運河の工事と農地の開発の後だったから、てっきりお世辞だとばかり思っていた。
しかし、その後の働きぶりを見るにつけ、俺も少しずつ考えが変わって来た。完璧執事だったグランの代わりが務まる者は、後にも先にサドルだけだったのである。
お調子者ではあるが、慎重で思慮深く、危険なことは自ら避ける傾向にある。本人には自覚がないようだが、まるでサドルは一人の人間の中に、子供と大人が同居しているかのような二面性を持っている。魔法は使えないらしいが、覚醒すればどうだろう。
自信がなくなった俺は、祈るような気持ちで、必死でサドルに決めた理由を、心の中で反芻していた。
「なんすか? 何も起こらないっすよ」
俺の額に汗がにじむ。
ダメか……。
……しかし、下の魔法陣は、消える気配がない。
そういえば……。
立体映像のサイドは、杖を右手に持っていた。そうそう、あまりに緊張していて、せっかく持ってきた杖を持たせてなかった。
サドルが杖を握ってしばらくすると、足元の魔法陣が光りだした。そしてゆっくりと回転しながら上昇。少しずつ回るスピードが上がり、光が全身を覆う頃には、高速回転する光りの繭のようになった。
しばらくすると、光の繭は、ゆっくりと下に降りていき、魔法陣と共に消えた。見たところ、サドルの様子に変化はない。
「サドル!」
「なんじゃ、この子の名前はサドルというのか」
「サイド……サイドさんなのですね」
「いかにも、サイドじゃ」
「い、い、ぃやった~!」
嬉しくて思わず抱き着いてしまったが、サイドは迷惑そうだ。
「男に抱き着かれても嬉しくないわい!」
何か、もっと落ち着いていて謙虚な人を想像していたんだが、イメージが違う。でも嬉しい。何か安心してどっと疲れた。
サイドの日記に入っていた手紙には、『私の意識を宿している者は、自分から探しに行かなくていい。向こうから来るはずだ』と、だけ記されていたんだが、サドルだけに、確信が持てなかったのである。
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