第2章 第1話 生活魔法 ☆
レインのアドバイスもあり、仕事のない日はフミについて生活魔法を習うようになった。この世界では、攻撃魔法以外の日常生活に必要な魔法は、ざっくりと『生活魔法』と呼ばれている。
最初は、フミの家事の邪魔ばかりする羽目になったのだが、少しずつ慣れて、今では電気やガスのないこの家でも一人で家事をこなせるくらいにはなった。まあ、料理の腕や洗濯の技術は、フミの足元にも及ばないが。
フミは、毎朝、水魔法で水を作ってやかんに満たし、火魔法でお湯を沸かす。それと同時に火魔法を使ってフライパンでベーコンや卵を炒める。サラダは、水魔法で洗った後風魔法で水分を軽く飛ばす。さすがに切るのは、危ないらしくまな板で包丁を使う。
洗濯は、水魔法で出した水に、火魔法で少し温度を上げたところに洗剤を入れ、風魔法でかき回す。その後、風魔法と火魔法を組み合わせて脱水してから物干しに干している。
朝の数時間だけでもこれだ。よくよく見れば、細かな魔法の連続使用で、流れるような名人芸である。これも黒目の魔力量のなせる業だと、レインが言っていた。
この世界では、魔法を使える人は10人に1人もいないので、フミは貴重な人材であることは間違いない。フミは魔法を使いこなすことで、メイド数人分の家事を1人でこなしているのだろう。
貴族や大商人は、メイドを雇うのが普通なので、メイドは女子にとっては身近で人気の職業らしい。ただし、メイドでも少し違うのが奴隷のメイド。労働条件が劣悪だという。フミは今でもスタイン家の奴隷のメイドなのだが、今までずっと、一般的なメイド以上に大切に扱われてきた。おかげで、これまで受けてきた好待遇を、今でも恩に着てくれている。
「なあ、フミ」
「はい?」
「フミはこのまま俺の奴隷でいいのか?」
「はい♡」
「奴隷だからこそ、ずっとロディオ様のものとして、お側に居られます。もし、私がただのメイドになったら、ロディオ様が離れていってしまいそうな気がして嫌です。フミを、ずっとずっとロディオ様のお側に置いて頂かないと、この前みたいに……」
大きな瞳をうるうるさせて俺をのぞき込んでくるフミ。今更ながら、か、かわいい……。
できるなら、隠れて俺の洗濯物を嗅ぐのだけは止めて欲しいが、この前の件の後ろめたさと、フミのあまりの可愛さの前に何も言えない。
「わかった。この前は心配かけてごめんな。だけど、俺の中ではフミは奴隷というより、俺の右腕で、大切な存在で、何というか、パ、パ、パートリャーみたいな」
恥ずかしくて思わずかんでしまった。
「はい。ありがとうございます。ずっとお側に置いてください」
フミは、耳まで真っ赤にして、俺の胸にゆっくりと額をうずめてきた。
すぐにくんかくんかと嗅ぎ始めたが、今日は引き離したりせず、フミの好きなようにさせておいた。
◆
そして夜は、フミが寝静まったのを確認して、分厚い本を取り出す。貴族のガラクタの中から見つけた日記帳だ。紙や本が貴重なこの時代、中身はすこし黄色がかった白紙だけにもかかわらず、やけに豪華な造り。
俺は、一応、この世界の字は読み書きできるが、字の練習を兼ねて、転生してからの記録を毎日少しずつ付けておくことにしようと思う。
 




