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第12章  第14話 ケーニャ



 私はケーニャ。ユファイン公国にて、ご領主であるロディオ様のお屋敷にて、メイドを務めさせてもらっています。


 今日はお仕事はお休み。しかも久々の3連休ということで、親友のミーちゃんを誘って、初めて『七の湯』の宿泊プランを予約したのです。何でも今回、『七の湯』初の、花火イベントがあるとか。



 きゃっ、ミーちゃん、やめてよ~。


 この日、私たちは、女2人でひとしきり、プールサイドではしゃいでいました。


 私がロディオ様の元に正式にメイドとして雇われ、しばらくすると、ミーちゃんもやってきたんです。そして、この日は、めずらしく、2人のお休みが重なったので、思い切って贅沢に過ごすことにしました。


 ミーちゃんは、幼馴染で私の大親友です。今日は2人とも思い切って、大胆な紐ビキニ。少し覚悟がいったけど、2人でなら大丈夫。男の人からナンパされたら、ど、ど、どうしよう……。



 ……はい……。



 そうよね……2人とも、薄々わかっていました。



 だって……。



 私たちみたいな幼児体型の女の子が、男の人から見向きもされないなんて……なんて、最初からわかってたもん!



 私たちは、2人で寂しく、プールバーのカウンターで、カクテルを注文。バーテンダーですら、この時間は、女の人なのですね。


 楽しみにしていた花火イベントは、それはそれは素晴らしかったですが、女2人だと、余計にむなしさが募るばかりです。しかもカップル率が異常に高いのです。


 男連れのハイレグエルフたちからの視線が痛いです。何か私たちの事を見下しているみたい。あれは絶対に上から目線です。


 そりゃそうよね。8等身の私と、つるぺたなミーちゃんがいたって、男の人は、誰も見向きなんかしないよね。


 紐ビキニで気合を入れてきた自分たちがむなしくて、何か悲しくなってきました。ですが、この後すぐに、一世一代のチャンスが私たちに舞い降りたのです。



「ちょっと、よろしいでしょうか」


「「は、はい!!」」


 私たちに声をかけてきてくれたのは、すっごくかっこいい男の人の2人組。2人とも自然に私たちの横に座り、スマートにお酒を注文されました。



「ステア様、よろしいのですか」

「当たり前だろ! 何だよあいつ……ロディオに結婚相手を紹介しろなんて言ってたらしいじゃないか!」


「しかし、もう飲みすぎなのでは……」

「いんや、まだ足りん。そこのお美しいお嬢さんたち。俺の寂しい心を慰めてはいただけませんか」



「「きゃあああ!!」」


 何、このイケメン。しかも何やら女の人のせいで傷ついていて、私たちに癒しを求めているみたい。


 こ、これは、これは! 今晩、ワンチャンいけるかも!



「何やってんだステア。グランも2人そろってナンパでもしてんのか?」



 ……。



「きゃーーーっ!!」


 やって来られたのは、何とロディオ様! 水着姿も素敵です!



「おっ、ケーニャか。久しぶり」


 ロディオ様が、私の名前を憶えていてくださっていた。ミーちゃんの視線がうらやましそうです。ごめんね。



「ケーニャ、フミたちに酷いことされていないか?」


 心配そうな顔をして、私のことを気遣ってくれるロディオ様。そ、そんな私の横に来て、囁くように言わないで。私もう、ロディオ様のお優しさにくるまれて、意識が保てそうもないです……。


 ……私もう、死んでもいいかも。


「せっかくだから、5人で飲もう」


 私たちは、その後、夢の様な楽しい一時を過ごしました。夢なら覚めないでいてほしいです。


 ふと我に返って周りを見回すと、ハイレグエルフたちが私たちの事を睨んでいます。


 はは~ん! そりゃそうよね。今、このユファインで、間違いなく一番モテているの女の子は、いつも肩で風を切っているあなた方じゃなくて、私たちなんだから!


 私の人生で、こんなに勝ち誇ったことはないです。


 そして……。


 はっきり言いましょう。


 生きてて……いや、ユファインに転職して、本当によかったあ~。



「あっ、ロディオ様、こんな所にいらしたのですね……」


 意識の最後に、こんなフーミ様の言葉が聞こえたように思う……。





 ……で、でもどうしてこうなったんだろう。


 私の前には、眉間にしわを寄せ、血管ブちぎれそうなフーミ様。そして左右には、ララノア様とソフィ様……。


 正直、この世で一番恐ろしい3人がいる。天国から地獄とはこのことだろう。



「で、ケーニャ、これはいったいどういうことかしら……」


 正直、私はほとんど覚えていない。唯一覚えているのは、ロディオ様の唇の感触だけ。あれ、季節的には大丈夫なはずなのに、どうしたんだろう。


 私が正直に話すと、フーミ様は、豪奢な椅子から立ち上がろうとなさり、それを左右からララノア様と、ソフィ様が必死でお押さえになる。


 そんな時、いきなり部屋のドアが開いた。えっ、びっくり! ミーちゃんが部屋に転がり込んできた。


「すみません!」


 そう言うと、ミーちゃんは、フーミ様たちの前で土下座する。


「私もその場にいました。ケーニャちゃんが悪いなら、私も同罪です!」


「控えなさい!」



 鋭く発せられたフーミ様の言葉に、凍りつく私とミーちゃん。


「まったく……ロディオ様もロディオ様です。メイドにあんなことをされているにもかかわらず、許してやって欲しいなど……」


「そんなお優しい所が、ロディオ様の魅力の様な気がします」

「私もそう思いますわ。ロディオ様に優しく抱きしめられたら、何もかも許してしまいますもの……」


 顔を赤らめて、恥ずかしそうに身をよじるララノア様とソフィ様。



「コ、コホン……」


 フーミ様も、少し顔を赤らめつつも、わざとらしく咳払いを一つなさった。


「た、確かに、ロディオ様にはそんな所があるかと思います。そ、それは、私も認めます。で、ですが、この度のことは……」



 私はこの時、初めて部屋の隅の、しかもフローリングの板の上で正座しているロディオ様に気付いた。


 えっ、これって、もしかして、私のせい?


「ケーニャ。今回の事は、ロディオ様が許されていますので、不問とします……」


「ですが、ロディオ様! 用心していて襲われたのなら、私たちも責めたりいたしませんが、今回の事は……」


 言葉を区切って、ぎろりとロディオ様を睨むフーミ様。


「ロディオ様の不用心からきたとされても、仕方がないですよ! しかも、国政を預かる筆頭執事がいながら、何たる体たらく!」


 ……すまん。


 俺の横で、グランも正座させられているのである。連座制とでもいうのだろうか、俺からは、この完璧執事に、もはやかける言葉すらない。


「……あの、ステア、ステアはどうなった?」


「当然、バランタイン侯爵様にご報告差し上げました。侯爵様は大層ご立腹で、トライベッカでお見合いを全てこなすまで、外には一歩も出さないと言われておられました」


 ……要するに、よりによって、ケーニャとミーが、たまたまステアたちの、どストライクだったことが、今回の不幸を招いたのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 途中からロディオ支店にいきなり変わって混乱しております。 …………あれ? ステアとセレンの話はどうなったのよさ。お見合い???? 活況のところのは別の用事で集まったご両人???? ……い…
[一言]  ブルームーンの内乱を見事に鎮めたと思ったら、結局はコレですか……(- -;a  なんか最後まで締まらないですねぇ、ロディオ君?(笑)
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