第12章 第13話 内乱
いつもご愛読ありがとうございます。昨日は連載開始以来、初めて一話しか更新できませんでした。今日か、今日こそは、連続更新できそうです。
俺たちは、『ユムラ』要塞の一室に集まっていた。今回は、カインも同席してもらっている。ダグが事あるごとに、義兄上、義兄上と俺を頼るせいで、何か成り行きで、俺が総司令官で、レインが副官の様な感じになってしまった。
「相手は、海賊を含めて2万か」
この周囲の海岸は上陸できそうなポイントがない。『海中道路』を渡って、正面から来るしかないだろう。
「相手は、ウチが100名足らずの兵しかないのを承知で、一気に攻めるんだろう。ところで、ヘネシー王の方は、大丈夫か」
「はい、すでに手は打っています。今の王は、ウチの暗部の替え玉です」
「今、王は、ご家族と共に、ハウスホールドの迎賓館にて匿われています」
「なるほど、それなら安心だ」
バスコは、この要塞を落として大陸からの軍を防ぎ、私兵を王宮に入れて、クーデターを行うらしい。では、日時は……。
大軍が、見通しの良い一本道を通って攻めてくるなら、夜間しかない。特に、天気が悪い日なんかはうってつけだな。俺なら、海賊たちを事前に周囲に潜伏させ、多方面から攻めるが……。
「そうだな、ユムラにあらかじめ、内通者を作ったり、自分の手のものを送り込むかも知れない。そのあたりのことはどうなんだ?」
レインも俺と同じようなことを考えていたようだ。
「はい。ブルームーンからの出入り業者の一部に怪しい動きがあります。どういたしましょうか」
「逆に歓待してやったらどうだ。迎賓館にでも入れて。ダグもそれでいいだろ」
「はい、義兄上」
多少のスパイくらい問題なさそうだ。それより、こちらの動きを読まれて、警戒されたくない。いくら何でも200倍の戦力では、正面から正攻法でごり押ししても、落とせない街なんかないと普通は考えるだろう。
◆
3日後の深夜、小雨の降りしきる中、海中道路は軍勢で埋め尽くされていた。何とバスコは、全軍に命じて、一斉に海中道路を渡って、ユムラの総攻めを命じたのだ。
俺たちは、城壁の上から様子を眺める。そろそろ、全軍が、海中道路の上まで来たようだ。レイン頼む。
「じゃあ、始めるか」
レインの『永久凍土』がゆっくりと放たれていく。さらに改良を重ねられたこの魔法は、生きものならチルドの状態に凍らせ、自然解凍後は後遺症もなく、蘇生できるという。
いやー、何てチートな能力だ。ちなみに俺も今回、魔力を供給する係ではなく、レインの横で実際に『永久凍土』を実地で使ってみることにした。
敵軍は、先頭から少しずつ凍っていき、動きがスローモーションのようになっていく……。ぴたっと止まれば凍結完了。
海中道路を埋め尽くすかのような大軍勢は、一体何が起こったのかもわからず、ひとり残らず、次々と凍っていく……。
……。
そして、1時間で2万人近いチルド兵が完成した。
それを、マリアの実家から派遣された商隊が、一人ずつ丁寧に回収していく。さすが、運送業者なだけあって手際がいい。『サラマンダー』も、騎士団を指揮しながら、回収を手伝っている。
「こ、こうか……?」
「あぶないので、横に寝かせてください」
「明らかに海賊と思われるものは、ユバーラまで運んで、ハウスホールドの騎士団に渡してください」
「バスコの私兵と思しきものや、判断が付かないものは、ユムラの迎賓館まで運んでください」
この『迎賓館』とは、文字通り、客人をもてなすために造られた広大な施設だが、出入り口が、数か所しかなく、これらを閉じてしまえば、空でも飛ばない限り脱出できない造りとなっている。
中には源泉かけ流しの天然露天風呂をはじめ、トイレに食糧庫。更には大量の浴衣や布団を用意しているので、自然解凍した後は、各自、ゆっくり過ごして欲しい。
この内乱での死傷者はゼロ。かつて、大陸南部の沿岸一帯に大きな被害を及ぼしていた海賊たちは一掃され、サンドラやトライベッカには、合わせて1万人以上の奴隷が生まれた。これによって、俺たち3国には、多大な臨時収入を得ることになる。
そして内乱終結後、『海中道路』を進んでいたクーデター軍は、この軍行動において、口ぐちに、「目の前の城壁に『サラマンダー』の旗が見えた」と、語るのみだったという。
どうやら、『サラマンダー』の伝説が地味に増えてしまったようだ。
そうこうするうち、ユバーラから、ハウスホールドの騎士団や、ユファインの近衛騎士団と竜騎士団が到着し、一気にバスコとその一党を拘束した。
俺たちは、リシャール王と共にヘネシーの王宮に向かう。マリアの実家であるマリージュ商会が用意してくれた、最高級の馬車に乗り、『海中道路』ゆっくりと進んだ。
島に着き、王宮へ通じる大通りをしばらく進むと、王の無事な姿を一目見ようと、群衆が押し寄せてきた。やはりリシャール王は、国民から愛されている。馬車の窓をあげて、王が手を振ると、両手を合わせて涙を流す年配の人たちも多い。
◆
「ロディオ殿、ダグリューク王、そして皇太子殿。どうか、私の頼みをもう一つ聞いてはくれないだろうか」
何とリシャール王は、今後の国同士の付き合いを考え、自分の3人の息子を3国に送るという。
これは、体のいい人質の様なものなのだが、正直、俺たちは3人共、嬉しいかと言われれば、微妙である。
ダグは、『ユムラ』を抑えている以上、人質なんて気を遣うだけだと思っていることだろう。
俺にしても、今後ブルームーンの国中に、サーラ商会の支店や、スタイン家の直営店を出す予定だが、何も人質を取るほどのことではない。
ステアが困ったような顔をしているのは、父親のバランタイン侯爵が、どう考えるかわからないからだろう。
「リシャール王のお気持ちはわかりました。王子様の件は、バランタイン侯爵とも相談の上、返事させてもらっていいですか」
「ロ、ロディオ殿、……すまない」
王家は、俺たちの経済援助だけでなく、数多の利権と、貴族の債権を持つバスコが粛清された上、これまで屋敷にため込んでいた金銀財宝を含む莫大な財産や土地を接収することができて、財政は再建された。
そして、今回のクーデター騒動で、反対勢力と、海賊組織が一掃され、一気にブルームーンは安定化に向かう。
俺たちは、今回の内乱騒ぎは、表向けには公表しないことにした。バスコの私兵は混乱が収まった後、解放。
できれば今回の騒動は“なかったこと”にしたいのだ。何しろ死傷者は出ていないし、反乱兵たちの多くは、王家に騎士団として仕え直している。
今回の騒動を殊更センセーショナルに喧伝してしまうと、国内外に無用な不安を与えかねない。
「そなたたちに罪はない。もし、この中で王家に忠誠を誓う者がいるとすれば、私は全員を赦したいと思う」
これが、後世、ひそやかに伝えられることになるリシャール王の名言である。
千人近くいたバスコの私兵たちは、王の言葉を聞いて号泣。彼らは、ブルームーンの騎士団に入り、この後、彼らの中から多数の近衛騎士団員が生まれることとなる。
◆
一仕事終えた俺たちは、ブルームーンの首都、ヘネシーの街を散策。フミとララノアとソフィも来ている。街は、かつて、国を追放された王族が、故郷を懐かしんで整備したものだという。その故郷とは、北の王国の王都コアントロー。
「懐かしいです」
そういって俺の手を取るララノア。彼女の一家が、かつて仕えていた貴族は、バスコに借金漬けにされて潰されたという。その後のララノアの事情を知っているフミは、ハンカチで涙をぬぐっている。フミとソフィは、ララノアに気を遣ってくれているように感じる。
俺たちは、1か月ほど、ユムラに滞在し、工事三昧。ギルドと商会がオープンすれば、すぐに『アール』が、『ムーン』を駆逐することになるだろう。
すでに、大陸南部の亜人たちの領域では、『アール』が流通しており、この大陸南端の島々にもいきわたれば、もはや、残るは帝国領だけである。
「ロディオ様~」
そういって手を振るフミとソフィ。
今日は、皆で、思う存分楽しもう!
俺たちは、ヘネシーを思う存分楽しんでから、ユファインに帰国。そういえば、『七の湯』で、花火イベントを計画していたのだった。
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